「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
【ライター望月の駅弁膝栗毛】:かにめし
北海道のなかでも、難読地名の1つに数えられる「長万部(おしゃまんべ)」。鉄道好きは、函館本線(山線)と室蘭本線(海線)の分岐駅として、覚えている方が多いと思います。そんな長万部で今年(2022年)注目を集めたのが、地中から轟音と共に、吹き出し続けた「水柱」。ようやく収まったいま、長万部には訪れたい温泉と名物駅弁があります。
函館と旭川を結ぶ「函館本線」。このうち、長万部〜小樽間は「山線」と呼ばれ、普段は普通列車だけが走る路線です。とくに長万部から倶知安・小樽方面へ向かう下り列車は、1日わずかに4本。最近は新形のH100形気動車による運行となっています。ただ、北海道新幹線開業後は、残念ながら廃線となってしまうと伝えられており、繁忙期になると、少ない列車が、ファンを中心とした乗客で混雑する様子も見られます。
そんな“山線”の線路近くで轟音を上げていたのが、今年8月から吹き上げていた「水柱」。長万部駅から歩いて15分ほどの場所にある、飯生(いいなり)神社の前から、低い温度の塩分などを含んだ温泉水が吹き上げ続けていました。立ち寄った際はすでに観光名所のようになっていましたが、至近距離に民家もあり、お住まいの方にとっては、騒音と塩害で本当にご苦労が多かったかと思います。
温泉水なら温泉として活用すれば……と思われる方もいるかも知れませんが、実は長万部、昭和30(1955)年に天然ガスの試掘中に偶然、温泉が湧きだした「湯の町」でもあります。駅近くには数軒の温泉街があり、宿泊はもちろん、日帰り入浴も受け入れているお宿が多くあります。「水柱」があってもなくても、温泉を満喫したいもの。今回は「丸金旅館」で日帰り入浴を楽しむことにしました。
浴場に入ると湯の香いっぱい、茶褐色のお湯が静かにかけ流されていました。注がれている長温R2号源泉のお湯は、47.9℃、ph8.0の成分総計10.02g/kgの濃厚なナトリウムー塩化物泉。かけ湯をしっかりして、熱めのお湯に浸かれば、体が芯からよく温まります。内湯の奥には、長万部温泉では希少な露天風呂もあって、外気温が低めの時期でも、心地よく入ることができそうです。
吹き出す汗を拭いながら、火照りを冷ましながらゆっくり長万部駅へ戻ったら、ここからは駅弁タイム。長万部駅前の「かなや」には、昭和25(1950)年発売のロングセラー、名物駅弁の「かにめし」(1180円)が健在です。鉄道利用者はもちろん、マイカーやレンタカー、バイク移動の方も立ち寄ることも多いのが特徴。繁忙期となれば営業中のお店の前は、お客さんが途切れることがありません。
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