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「Twitterを訴えます」「全力でやりますよ」突然の解雇に呼びかけ多数 弁護士に勝算はあるのか聞いた(1/2 ページ)

ベリーベスト法律事務所の労働チームマネージャーを務める松井剛弁護士に取材しました。

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 「イーロンマスクとTwitter社を訴えます」「全力でやりますよ」――。米Twitterを買収したイーロン・マスク氏による従業員の大量解雇を受け、Twitter Japanでも解雇・退職勧奨が始まっていると新聞各紙が報じています。

米Twitterを買収したイーロン・マスク氏による従業員の大量解雇を受け、Twitter Japanでも解雇・退職勧奨が始まっていると新聞各紙が報じています 画像はtwitterより

 そんななか、YouTubeチャンネルでの活動でも有名なアトム法律事務所の岡野タケシ弁護士、労働問題と貧困問題に取り組む新里・鈴木法律事務所の太田伸二弁護士らがSNS上で、Twitter Japanを解雇された元従業員に対して相談に応じるなどと呼びかけています。

 

 Twitter Japanで解雇された元従業員が裁判を起こした場合、勝算はあるのか? ねとらぼ編集部では、ベリーベスト法律事務所の労働チームマネージャーを務める松井剛弁護士に取材しました。

整理解雇の条件を満たしているとは言いづらい

 まず前提として、アメリカに拠点を置くTwitterの日本法人に日本の法律が適用されるのか。松井弁護士によると、外資系企業であろうとも、雇用契約書でアメリカ法を適用すると合意していない限り、日本法が適用されるとのこと。また、たとえ雇用契約書でアメリカ法を適用すると合意していたとしても、「法の適用に関する通則法」により、解雇など強行的な法律は、一定の条件を満たせば現地の法律が優先されると考えられます。

 一般的には「国際的に見て、日本は従業員を解雇しづらい」と言われています。「労働契約法第16条」により、解雇は使用者がいつでも自由にできるわけではなく、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は労働者を辞めさせられません。特に、会社の経営状況を理由とする解雇(整理解雇)には、以下の4点が重視されます(参考:厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」)。

  1. 人員削減の必要性(人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性にもとづいていること)
  2. 解雇回避の努力(配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと)
  3. 人選の合理性(整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること)
  4. 解雇手続の妥当性(労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明すること)

 松井弁護士は「裁判になった場合、裁判所は企業の判断による部分もあるため、1はあまり重視しません。どちらかと言うと、2が重視されます。今回、イーロン・マスク氏は買収してすぐに大量解雇に踏み切ったと報じられました。詳細は不明ですが、希望退職者を募集したり、役員報酬をカットしたり、配置転換をしたり、解雇しないような経費削減の努力をしたとは考えにくいです」と見解を語りました。

 「3については基準が合理的かどうか、基準に適応しているのかという2段階で審査されます。Twitter Japanについては分かりませんが、海外では解雇されたのは従業員の半数以上と報じられており、これらを吟味した印象はありません。また、4については報道では急に解雇を知らされたとされており、説明を尽くしていないと思われます」(松井弁護士)

東京地裁「解雇は無効」との判決

 今回と似たようなケースとしては、東京地方裁判所が2021年12月、イギリスに拠点を置くバークレイズ銀行の投資銀行部門の日本法人である、バークレイズ証券に下した判決が挙げられます。バークレイズ証券に勤務していた元幹部の男性が、会社の経営悪化を理由に解雇されたのは不当だとして、同社に解雇無効と未払賃金の支払いを求めていたものです。

 裁判では、日本での整理解雇の際に重視される先述の4点に、それぞれ該当するのかどうかが争点になりました。その結果、東京地裁はバークレイズ証券による「日本企業と外資系企業の雇用慣行の違いを考慮すべきだ」との主張を退け、解雇は無効であるとの判決を下しています(関連記事)。

 これまでの判例を鑑みると、実際にTwitter Japanの元従業員が解雇無効と未払いの賃金支払いを求めて裁判を起こした場合、勝算は高いと言えるのではないか。そう聞くと、松井弁護士は「勝算は相当あると思います」との見解を示しました。

勝訴したら解雇無効と未払いの賃金支払いが得られる

 もし実際に元従業員らが裁判を起こして勝訴した場合、どのようなメリットがあるのか。松井弁護士は「仮に解雇ではなく退職勧奨だとした場合、裁判で勝訴や敗訴を決めるのではなく、労働者側は会社側からの退職の提案に応じるか応じないかを決めれば良いし、退職に応じることの対価としていくらを支払ってもらうかなどの退職に関する条件を交渉することもできます」と前置きしつつも、こう話しました。

 「裁判で勝訴した場合、雇用契約が継続していることの確認と、解雇後の賃金支払いが得られます。法的には、雇用契約があるにもかかわらず、会社側が解雇したところ、その解雇は無効であるため、雇用契約が継続していることになります。なぜ働いていないのに給料が支払われるのか疑問に思う方もいるかもしれません。しかし、元従業員が働けなかったのは労働者側の問題ではなく、会社が不当に解雇したとして働かせてくれなかったから、という認識になります」(松井弁護士)

 一方で、裁判で勝訴したとして実際に元にいた会社に戻れるケースはどれほどあるのか。松井弁護士は「そもそも会社に戻ることを望む人がかなり少ないです。法律事務所に相談するときから、金銭解決したいという意向の方が大半です。現実的に会社に戻りづらいのはあると思います」と話しています。

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