全ての犬を助ける力がないのなら―― 特定犬種を扱うブリードレスキューの知られざる活動とメリット、“どんな状態でも助ける”決意とは(2/3 ページ)
ブリードレスキューを取材しました。
“ブリードレスキュー”のメリットは里親と保護犬のミスマッチが極めて少ないこと
――遺伝疾患のある犬種をあえて引き取る人が多いということでしょうか。
その通りです! 当会で保護している子たちに里親を申し出てくれる人の約8割は、以前キャバリアと暮らした経験や看取った経験を持つ人です。心臓に遺伝疾患があることも、かかりやすい病気も全て理解した上で手を挙げてくださり、待っている人が出るほどです。当会も、マイナスな情報を含め医療情報はすべて開示することで「こんなはずじゃなかった」というミスマッチを防ぐように努力しています。「前の子にはここまでやったけど……」と最大限つくしてあげた経験談などをお聞きすると、安心してお渡しすることができます。これまで新しい家族が決まった301匹のうち、戻って来たのは3匹……お見合いに来られなかったシニアの子や、先住の猫ちゃんとの相性問題があった場合だけです。
里親希望者の2割には、キャバリアの飼育・看取り経験がない人や、まったく犬と暮らした経験のない人もいます。子どもがいる人や医療関係者が多いイメージです。そういう人たちは、“キャバリア”という犬種へのこだわり以上に“保護犬を幸せに”という熱意を持っていることがほとんどなので、基本的里親条件を満たしていれば、譲渡しないということはありません。病気のことを含めて、しっかりとキャバリアの特性をお伝えして家族に迎えてもらっています。1人でも多くの人にキャバリアがどんなに素晴らしいパートナーであるかを伝えるのも当会の役割だと思っています。
――苦労したこと、つらかったことはありますか。
正直、保護活動をしているとつらいことばかりです。目を覆うような現場、ペット業界の闇……保護活動をしなければ知らなくて良かったことにも向き合っていかなければなりません。現在、我が家にいる2匹も、1匹は8歳まで子どもを生まされていた元繁殖犬です。悪質な業者は、動物愛護管理法に明らかに触れる劣悪な飼育環境の中、遺伝疾患を持ってることを知りながら繁殖を続けています。もう1匹は、ニュースにもなった大規模ブリーダー崩壊の現場からレスキューしました。先天的な疾患のため、重度の水頭症、また脳梁(のうりょう)欠損でいつ何が起きるか分かりませんが、こうして普通に家庭犬として過ごせる時間が長く続くように願っています。
命を預かる保護活動に休みはないですから、私もスタッフも毎日忙しくしていますが、「かわいそう」「大変そう」より「かわいい」「幸せになって良かった」と前向きに思ってもらえる発信を心がけています。
海外では認知されているブリードレスキューもまだ日本では知ってる方も少なく、始めた当初は「犬種で命の選別をするのか」と批判を受けたこともありました。助けたくても全ての犬を助ける力がないのなら……どこかで線を引くしかなかったのです。それが、私の場合はたまたま犬種であり、よく分かっているキャバリアなら“たとえどんな状態でも助ける”と強い信念を持ってやっています。
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