フェルメールの名画「真珠の耳飾りの少女」を所蔵するオランダのマウリッツハイス美術館が、同作の貸し出し中に代わりとして飾られる新解釈の「真珠の耳飾りの少女」を公募し、選出したものの1つが画像生成AI「Midjourney」によるものだったことに美術ファンの中から批判が巻き起こり、美術館もこれに答える形で議論が起こっています。
2月10日からアムステルダム国立美術館で開催されている「フェルメール展」に「真珠の耳飾りの少女」を貸し出しているマウリッツハイス美術館は、“少女”が通常展示されている部屋に飾る作品「My Girl with a Pearl」を公募。集まった全3482作品中170作品はInstagramで公開されたり、館内にデジタルフレームで順次展示されることになりました。また5作品はファインアートプリントの上、額縁に入れられ展示されています。
これに美術ファンたちは猛反発。SNS上では大きな議論が沸き起こりました。批判の内容は、画像生成AIには著作権の問題が付いてまわり、学習データには作者が許諾していないものや倫理的に問題のある画像が多数交じっているというもの。「画像生成AIは著作権で保護された作品を人から盗んで、誰かが実際的に作業したものを混ぜ込み、ずさんな作品を作り上げる。よりによって美術館がこれを展示し盗品を支持するとは」「今現在AIは、本物のアーティストに寄生してるだけ」など、画像生成AIと現役のアーティストが直面している課題について無知ではないかと強い怒りを示す人が多数声をあげました。
また、「AIが制作した絵画を観るため美術館に行くわけがありませんよね? 人間が作ったものを観るためにそこへいくわけですよね? 文化の根っこを担っているのは人間でしょ?」「フェルメールの遺産に対する侮辱なだけではない、芸術家たちの並々ならぬ努力を侮辱している」など、美術館としての姿勢を問う声もみられます。
デジタルフレームで展示された170作品にもAIアートが多く含まれていますが、とりわけ注目が集まったのは、5点に選出されたジュリアン・ヴァン・ディーケンの作品でした。
自身のSNSではMidjourneyとPhotoshopで制作したとしているジュリアンの作品は、オリジナルと比べると、少女は青ではなく黄色いターバンとぼんやりと光るランプのような耳飾りをつけ、シャープな顔立ちや全体的に鮮明な色彩が目立ちます。
写真家でもあるジュリアンは“光”にこだわりを持っており、AIの助けを借りてこの“光”がリミックスできるのは興味深いとのこと。画像生成AIについては、使えば使うほど「今はまだ想像もつかないような、いわば本物のアーティストが使いこなすだろうツール」と可能性の大きさを予感しているとし、応募にあたって「この新しいツールがクリエイティブなプロセスをどのように変えるのかということに向き合っている」と述べています。
マウリッツハイス美術館の広報は、今回沸き起こった反発や議論を受け、審査委員会を設け作品を選出したとしても「これはコンテストではない」と説明。応募者全員が自由な発想で創造性を発揮する場だったと強調しました。また、多くのAI作品が選ばれた理由を「私たちは、ただ美しいと思ったものに注目しただけ」と倫理的な問題は関係なくただ美的感覚に響いたものに目を留めただけだとした上で、「これがクリエイティブなのかといえば、それは難しい問題です」とコメントしています。
現在「Midjourney」「DALL-E」「Stable Diffusion」といった画像生成AIは幾つかの訴訟を係争中。著作権問題をはじめとした課題をどう着地させていくかといった過渡期にある中、問題を解決しようとさまざまな取り組みも見られます。近いところでは、Stable Diffusionのバージョン3の学習データから、アーティストのオプトアウトによりアートワークを除外する動きもみられます。
日本では、「Midjourney」を使って制作された『サイバーパンク桃太郎』のコミックスが発売され、海外でもニュース記事になるなど話題を呼んでいます。作者のRootportさんはねとらぼのインタビューで、「早ければ1年後、遅くとも3年以内には、作画補助にAIを利用することは『当たり前』になっている」、将来的には「現在の著作権をめぐる議論にも、何かしらの合意や結論が生まれている」と画像生成AIのあらゆる権利を巡ってさまざまな形で合意が進むことを予想しており、また「画像生成AIの登場で人間の漫画家やイラストレーターが絶滅することは『あり得ない』」とAIが人間の創造性に関与することへ希望を持ってコメントしています。
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