博報堂の雑誌『広告』ジャニーズのハラスメントやメディアコントロールへの言及削除 編集部「広報室長の判断で削除されたのは事実」(1/2 ページ)
『広告』編集部が削除は事実であると認めました。
博報堂が発行する雑誌『広告』で、ジャニーズ事務所による「メディアの独占的なコントロールやハラスメント」に言及した箇所が削除されていたと著者が訴えていた件について、『広告』編集部が削除は事実であると認めました。ねとらぼ編集部では、博報堂に詳細や背景を問い合わせました。
「メディアの独占的なコントロールやハラスメント」言及削除か
物議を醸しているのは、3月31日に発行された雑誌『広告』の最新号、『広告 Vol.417 特集:文化』に収録された「ジャニーズは、いかに大衆文化たりうるのか」。文学やポップミュージック、広告など幅広い「文化」について取り扱う同書のなかで、批評家の矢野利裕氏と社会学者の田島悠来氏がジャニーズの歴史、昨今の社会やメディア変容にともなう変化、受容のされ方などについて対談した章です。
矢野氏は発行当日3月31日、「博報堂の雑誌『広告』(2023年3月31日)におけるジャニーズをめぐる対談の『削除』について」と題した記事をnoteに公開。創業者・ジャニー喜多川氏による性加害を取材した、英BBCのドキュメンタリー「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」(関連記事)を受け、自身の立場に触れたうえで、最新号の対談のなかで、1980年代以降のジャニーズによる「ジャニーズ帝国」とも言われるほどのマスメディアへの強大な影響力についての一部言及が削除された、と主張しました(※)。
※ジャニー氏による性加害は1999年11月〜12月の『週刊文春』の報道をめぐり、東京高裁により事実認定されています(参考:みどり共同法律事務所「裁判所が認定したジャニー喜多川による少年への『淫行行為』」)
具体的な削除箇所は以下のとおりです。
「著作権や肖像権管理の厳しさだとか、あるいは囲い込み、独占するようなコントロールをマスメディアに対して影響力を持ってやってきて……。いまの時代はとくに、メディアの独占的なコントロールやハラスメントなどはその問題性を追及されるべきところだと思います」(校正段階の原稿。削除された言及箇所)
「著作権や肖像権管理の厳しさだとか、あるいは……」(実際に発行された『広告』から該当箇所を引用/※同書530頁)
実際、最新号では具体的な削除箇所については説明されていないものの、「本記事は、ビジネスパートナーであるジャニーズ事務所への配慮の観点から、博報堂広報室長の判断により一部表現を削除しています」と明記されています(※同書540頁)。また、『広告』編集部は4月4日、編集長の小野直紀氏の名義でnoteに記事を公開し、「矢野氏の発言の一部が博報堂広報室長の判断により削除されたことは事実です」と認めました。
編集部サイドは「編集権」を意識も、広報室長がNGか
矢野氏によるnoteの記事のなかでは、対談後の『広告』編集部サイドとのやり取りについても触れられています。対談中に矢野氏が創業者・ジャニー喜多川氏による性加害、ジャニーズと博報堂の関係性に言及したところ、終了後に小野編集長をはじめとした編集部サイドから、「博報堂という企業の立場上、一部の発言が使えない可能性があります」という趣を、申し訳なさそうに言われたとのこと。
矢野氏は一方で、編集部サイドから「自分もそのような企業文化は良くないと思ってる」「だから、不本意なことがあったら(対談後の記事校正時に)がんがん書いてくださってけっこうです」という言葉もかけられたとしています。小野編集長と広報室長とのやり取りについては後ほど詳しく言及しますが、矢野氏の証言からも編集部サイドは報道機関が持つ独立性「編集権」を意識していたことがうかがえます。
それに対して、公式サイトには『広告』は、博報堂の社員が中心となって編集制作している雑誌と記されています。一般的な出版社が発行する雑誌とは異なり、博報堂という企業が自社で保有する「オウンドメディア」としての側面が強いのではないか、と考えられます。
出版各社が加盟する日本書籍出版協会や日本雑誌協会の倫理綱領には、「文化と社会の健全な発展のためには、あくまで言論出版の自由が確保されなければならない(両協会)」「雑誌編集者は、完全な言論の自由、表現の自由を有する。この自由は、われわれの基本的権利として強く擁護されなければならない(日本雑誌協会)」といった記述があり、「編集権」が重視されています。それに対して、博報堂はこれら協会には加盟していません。
矢野氏は削除の経緯について、推察の部分が多いとしつつも、「話したときよりいくぶんマイルドな表現にすることで編集部サイドはぎりぎりのラインで矢野の批判的言及を残してくれた。しかし、上がってきた原稿に対して『博報堂広報室長』がNGを出した。とはいえ、編集部の独立性を全面的に譲ることにならないように、『削除』の事実および『削除』の主体を明確にする付記を載せた」と考察しています。
小野編集長は4月1日、Twitterで矢野氏によるnoteの記事のリンクとともに、「(ご推察のとおりです……と、言いたい気持ちを抑えつつ)この件については完全にぼくの力不足。矢野さんには大変申し訳ない気持ちです」「今号の検閲は、本当に無意義だった。ほぼすべて記録しているので話したくてうずうずする」と、小野氏の推測をおおむね事実と認めるような投稿をしていました。
小野編集長は4月4日、『広告』編集部によるnoteの記事で、その経緯について詳細を説明しています。広報室長からジャニーズへの配慮を理由に一部表現の削除を要求されたものの、小野編集長はその場で削除要求の拒否および抗議をしたとのこと。「利害関係、人間関係にまつわる忖度はある程度理解するが、そこに社会問題や犯罪がかかわる場合の忖度は不適切である」「社外の方の発言であり著作人格権の侵害にかかわる問題である」「削除したほうがリスクがある(話題になる)」という3つが拒否・抗議の論理だったとしています。
また、小野編集長は覚悟を示すため、「もしそのまま掲載して何か問題が起きたら、自分がクビになることはまったく構わない。自分が取れる責任はすべて取る」と伝えたとのこと。しかし、設定していた校了予定日を約1週間過ぎており、雑誌が発刊してしまう可能性があったため、要求を呑む代わりに該当箇所を別の表現に変更するか、削除の旨を明記するか、という2つの選択肢を広報室長に提示したといいます。その結果、広報室長は削除の趣を明記することを選択して、現在の文言が追加されたというのです。
「配慮=忖度」があったと認めるような記述
あらためて言うまでもありませんが、マスメディアとジャニーズによる構造的な問題が存在するのは事実と考えられます。矢野氏は「数字が見込めるジャニーズタレントのキャスティング権を握っているゆえ、メディアは事務所のセクシュアル・ハラスメントの問題を大々的に追及できない構造がある」と指摘しています。
最新号には該当部分を削除したことについて、「本記事は、ビジネスパートナーであるジャニーズ事務所への配慮の観点から、博報堂広報室長の判断により一部表現を削除しています」と明記されています。今回の削除に際しては、ジャニーズへの「配慮=忖度」があったと認めるような記述だと言えます。
小野編集長は今回の削除の背景について、「ことなかれ主義、隠蔽体質、ブラックボックスでのやりとり。これらは広告会社の悪しき『文化』です。すべてが不正とは思いませんが、今回のような不適切なケースについては決定権を持つ上層部が先導してなくしていくべきだと考えます」と言及。「博報堂のいち社員として、間接的にでも博報堂の悪しき慣習に加担していることを自覚したうえで、博報堂の善い部分が強化され、悪い部分が浄化されることを心から願います」と述べています。
なお、ねとらぼ編集部では博報堂広報室に、『広告』における「編集権」の有無や博報堂の「グループ行動規範」の規範に反さないのか(※)などについて問い合わせたところ、以下のような回答が得られました。
※博報堂が定める「グループ行動規範」には、「社会から常に信頼されることを目指します」として、「利益と倫理の二者択一を迫られた場合、いかに経済環境が厳しくとも迷わず倫理を選択します」という記述が存在します
「雑誌『広告』は、博報堂の広報誌という位置づけです。博報堂広報室にて、編集発行をしております。 記事については、編集部・編集長が企画・編集していますが、最終的には発行人として博報堂広報室長がその内容について確認をしています。この件にかぎらず、配慮が必要と判断した原稿に関しては、編集長と相談の上、掲載の可否や適宜修正などを加えています。
削除した箇所などの詳細につきましては、編集上の守秘義務等もございますので、当社からは差し控えさせていただきます。何卒、ご了承いただきますよう、お願いいたします。 尚、本件に関係した皆様にご迷惑をおかけしたことにつきまして、お詫び申し上げます」
※博報堂広報室による回答を追記しました【4月4日15時50分追記】
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三度見くらいしてしまいそう。