アニメ「ULTRAMAN」の音楽はなぜ刺さるのか 作曲家・戸田信子×陣内一真が明かす「すごくスリリングで楽しかった」仕事の内幕:インタビュー(1/3 ページ)
戸田「私たちはウルトラマンという歴史の一粒の砂でしかない」。
作品の魅力を高める要素の1つ、劇伴。作品の音楽を誰が担当しているかは重要なポイントといえます。
Netflixで5月11日から配信がスタートした神山健治×荒牧伸志両監督のアニメ「ULTRAMAN」FINALシーズン。シーズン1から音楽を手掛けているのが、戸田信子さんと陣内一真さんのコンビです。
記者がその名を知ったのは、20年ほど前。ゲーム「METAL GEAR SOLID SNAKE EATER」(MGS3)のEDで流れるスタッフロールに戸田さんの名が連なっていたのを覚えています。その後、「METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS」(MGS4)では作曲チームのチーフとして、重厚な音楽を作り上げていました。
その活躍の幅はゲームにとどまらず、映画音楽などにも広がっていく中、映画「すずめの戸締まり」では第46回日本アカデミー賞の最優秀音楽賞を受賞するなど、信頼と実績を重ねた円熟の音楽を生み出しています。
神山×荒牧監督の「ULTRAMAN」「攻殻機動隊 SAC_2045」では、シーズン1から音楽を手掛けてきた2人。監督もコンビ、音楽もコンビ、「ULTRAMAN」について言えば原作漫画も清水栄一×下口智裕コンビによるもの。「ULTRAMAN」FINALシーズンの配信を記念し、アニメ「ULTRAMAN」の音楽制作、そして神山×荒牧監督との仕事という観点からお話を聞きました。
フォーカスしたのは「かっこいいみんなのウルトラマン」をいかにドラマチックに壊すか
―― シーズン1から数えると関わりは5年ほどになりますね。FINALシーズンは、特に終盤の激浪の展開に音楽をどう沿わせるか苦労もあったように思いました。FINALシーズンの音作りで印象深いエピソードがあれば教えていただけますか。
戸田 進次郎の成長物語という軸に加えて、ウルトラマンの存在や正義について問題提起がなされているのがFINALシーズン。不穏な展開を予期させる“ダークさ”を作ることが音楽の1つのテーマでした。
今までは、「かっこいいみんなのウルトラマン」が音楽もアイコニックのように使われてきました。変身があり、アクションがありという流れをいかにドラマチックに壊すか、にフォーカスしたのがFINALシリーズでした。
―― FINALシーズン固有のオーダーは何かありましたか?
戸田 これまでは、どちらかというとテンションを上げるために音楽が用いられていましたが、FINALシーズンは、進次郎の思いやウルトラマンという存在は何なのかといった物語にフォーカスすることが求められました。これまでのモチーフや敵の楽曲も含め、心に沿う楽曲をあらためて作りましたね。
陣内 そういう意味では、ドラマ曲が多かったです。今までのモチーフも生かしつつ、成長したキャラクターたちの未来を感じるようなドラマ曲のあてどころが多かったので。
順当に(音楽を)付けると進次郎がどんどん悪者に見えてしまうような展開に対し、音楽の付け方としては、進次郎の味方をしている、観客がまだそういうふうに見ているようなものにしてくださいと監督がおっしゃったことがありました。いつの間にか進次郎側の気持ちになっているような視点の持たせ方はチャレンジでした。
戸田 でも、やっぱり最終話ですよ。音楽の付け方も最終話に向けて全てを調整したくらいでしたから。一番劇的なシーンにしたいけれど、ウルトラマン全員で立ち向かっても倒せないような敵との戦いが続く。ホップステップ型に展開する物語なら、どこかにテンションの落としどころがあるものですが、最終話はズトンと上がって、その状態が維持される。あの展開をどう見せるのが正解なのかはかなり悩みました。
―― ネタバレにならないよう注意して話しますが、最終話で、進次郎にとって重要なシーンがあります。そこで使われている楽曲が音楽的な伏線回収のようですらありました。
戸田 あのシーンの音楽の案は幾つかあって、まずは無音。静かに聞かせるのも効果的で、演出としてよいなとは思いましたが、進次郎の新しい覚悟が決まっていくシーンのせりふには音楽が絶対ほしかったんです。この物語に対する私たちの1つの回答として、シーズン1のエピソード1で多分誰も気にしていないであろう回想シーンで使われている楽曲を持ってきました。FINALですが、ここからまた始まるという意味で。
―― 両監督へのインタビューでもあのシーンはかなり思い入れがあったように感じました。音楽的にはシーズン1からの変容はどういったものといえますか?
陣内 ドラマとして必然的に変化が生まれていると思います。
このシリーズの音楽は、オーケストラと電子音楽の要素を合わせたハイブリッドな作風で構築するところからスタートしました。例えば星人たちの楽曲はだいたい電子音。メロディーを持たないリズム的なテクスチャーなのに対して、ウルトラマンたちの楽曲はしっかりとしたメロディーを持つオーケストラ寄りの音作りが多かったりします。
FINALシーズンの楽曲は全て感情の方に付ける話になったので、もともとアクションを見せるために作った曲をどう感情的にアレンジしていくかが課題の1つ。加えて、アクションが今までのシーズンで一番多いことも課題でした。ドラマ曲にフォーカスしたものが多く、ダークな音も多かったので、最後の盛り上がりは有機的でないといけないと2人で話していましたね。
戸田 ハイブリッドなスタイルは、キャラクターを表すのに何が必要かを選択した末のことでした。
オリジナルのウルトラマンには、皆さんが思い描くような楽曲のスタイルがありますよね。シーズン1のときは、そうしたものをどこかに踏襲すべきか、今までのファンをこの新たな作品に連れてくるにはどうしたらよいか音楽側も気を遣った部分があります。そうした試行錯誤の末に、山ほどテーマ曲を作っちゃったんですけども(笑)。
その中でも「これだ!」というものが決まって、それが楽曲でいうと「ULTRAMAN」。リズミックなモチーフとメインモチーフの両方が聞こえて、男性コーラスによる力強さや、弦が入ってくるけれど金管のメロディーを重ねることでウルトラマンらしいキャラクターにできるといった感触がそこで構築されて、シーズン1の基軸となりました。
―― シーズン1ではセブンやエースの楽曲もキャラクターごとの世界観の中で作ろうとされていた印象です。
戸田 そうですね。シーズン2で東光太郎が登場し、それぞれのキャラクターは別々の楽曲ですが、全員のウルトラマンの曲を並べたときにウルトラ兄弟というか、ワールドの曲だと分かるようにしたいというのがシーズン2からの変化でした。
先ほど一真くんも言ってくれたように、モチーフを持つ者は、味方またはウルトラマンであること。サウンドデザインなど音の変化で出現したり、アクションが生まれてくるのは敵、と区分けがされたのがシーズン2。FINALシーズンでは、私たちの中で区分けも音楽的な範囲も決まって集中できたので、総決算的に完成させられました。シーズンごとに違う形で成長させていただいたと思います。
―― 物語としては初代ウルトラマンに回帰したというか、つながりが強く感じられるものでした。アニメ「ULTRAMAN」の物語をどう受け止めましたか?
戸田 アニメ「ULTRAMAN」が、と言うよりは、ウルトラマンの普遍的なテーマそのものだと感じます。新時代にバトンを渡した形だと思っているので。今の時代、そのバトンを渡すのはアニメ「ULTRAMAN」だったのかなと。
陣内 ヒーロー感については今戸田さんが話した通り。ウルトラマンになっていく過程の描かれ方で共感を生んだように思います。特に最終話でウルトラマンとしてのヒーロー像があらためて強く打ち出されている。一緒にヒーローになっていくような感覚がありましたね。
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