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代理人「イベントは転売者に利益を与えるためではない」 STARTO社が「チケット流通センター」に高額転売者の情報開示求める全国初の申し立て(1/2 ページ)

STARTO社とヤング社の代理人を務める中島博之弁護士とSTARTO社権利侵害対策部に取材を行いました。

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 STARTO ENTERTAINMENTとヤング・コミュニケーションは9月5日、ウェイブダッシュが運営する「チケット流通センター」に対して、チケット転売者の発信者情報開示をしたことを発表しました。これを受けて、ねとらぼ編集部ではSTARTO社とヤング社の代理人を務める中島博之弁護士とSTARTO社の権利侵害対策部に取材を行いました。

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「チケット流通センター」に発信者情報開示を求めているSTARTO ENTERTAINMENT

1万件を超える高額転売――

 2019年には「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(通称「チケット不正転売禁止法」)が施行されるなど、社会問題ともなっているチケットの高額転売。

 特に問題視されているのがチケット売買プラットフォーム「チケット流通センター」での高額取引で、STARTO社に所属するアイドルグループ「少年忍者」のイベントでは2024年8月15日時点で2901件の転売が確認されており、最高額は30万円、10万円以上のチケット出品は300件以上と相当件数の出品が行われていました。

 また2024年で終幕が発表されている堂本光一さんの舞台「Endless SHOCK」では、チケット1枚当たり60万円で出品されているケースも確認されており、1枚当たり45万円のチケットが取引中になっているケースも編集部で確認しました。

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高額転売されている「Endless SHOCK」のチケット(チケット流通センターより)
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「Endless SHOCK」のチケット(チケット流通センターより)

 このようなSTARTO社所属のタレント関連のイベントに絞ると9月5日時点で1万件を超える出品が確認されているほか、1人で16枚のチケットを取得したとして出品しているケースも存在しています。

転売の手口が巧妙化、不自然に安い出品も――

 そうした中、500円〜1500円といった不自然に安い出品価格のチケット販売されているケースも目立ちます。

 ヤング社が発売する公演のチケットの中には当日会場でQRコードを読み取って、座席が発券されるシステムを採用している公演もあるため、出品者側が複数のチケット出品を行ったうえで、最も良い席を高額購入者に、最も公演が見づらい席を安価な購入者に回すといった手口が使われているからです。

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不自然に安く出品されているチケットの詳細画面(チケット流通センターより)

 実際に編集部でも「同時入場して頂き一旦全てのチケットを回収致します」「座席は当方が指定させて頂くため購入者さまは座席選択出来ません。どんなお席でも構わない方のみお願い致します。座席に拘りのある方はご購入をご遠慮下さい」といった注意書きが書かれている出品を複数確認しました。

なぜ「チケット流通センター」の利用者が多いのか――

 1999年に個人間売買サービスとしてサービススタートした「チケット流通センター」は、プロ野球の球団公式・公認チケットリセールサイトの公認を受けているほか、購入者にチケットが届くまでの間、代金は「チケット流通センター」側が預かるというシステムで人気を博しています。

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「チケット流通センター」の仕組み(チケット流通センター公式サイトより)

 そのほかにも、個人情報を伝えずに取引が可能、当日まで売買が可能、在庫を保証しているチケットが90パーセント、公的身分証明書の提出が行われた出品者のみがチケット出品できるなどの点から国内で圧倒的なシェアを誇るチケット売買プラットフォームに成長しました。

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「チケット流通センター」のサービスのポイント(チケット流通センター公式サイトより)

 一方で高額なチケット転売が繰り返されているプラットフォームであることも事実ですが、一部のユーザーからの問い合わせには、「出品価格は出品者が決めているのでプラットフォーム側として適正価格かどうかは分からない。転売防止には努めている」という主旨の回答が寄せられるなどしており、目立った対応は見られていません。

STARTO社が日本初の情報開示請求へ――

 こうした状況を受けてSTARTO社とヤング社の代理人を務める中島博之弁護士(東京フレックス法律事務所)は、「チケット流通センター」を運営するウェイブダッシュ社に対して8月26日、転売チケット299件の出品者の発信者情報を開示するように求めました。

 これに対してウェイブダッシュ側は9月5日付で開示拒否の姿勢を示したため、ヤング社は東京地裁に対してプロバイダ責任制限法に基づいた発信者情報開示請求を近く行う予定です。

 こうしたチケットサイトでの高額転売をめぐるチケット販売の発信者情報開示請求は全国初の事例とみられます。

 中島弁護士は取材に対して、「業としての高額転売は違法であると法律でも定められており、転売を行う人物が一番の問題です。一方で今回のように1万件以上の転売が売買プラットフォーム上では確認されており、チケットを出品することで、転売によって容易に利益を得ることができる環境も高額転売を助長する一因になっていると考えます。タレント・関係者は本当に大変な苦労の上でライブなどのイベントを行っています。これはひとえにファンのためであって転売を行う人物に利益を与えるためではありません。転売行為の温床にプラットフォームがなっていることを運営会社は深刻に受け止め、業界の健全な発展のためにも、取締や興行主の請求した高額転売者の情報開示を行うなど適切な対応を行うことが必須と考えます」とコメント。

 またSTARTO社権利侵害対策部は取材に対して、「ファンの皆さんに不正転売チケットを高額に購入させてしまっているという点は会社としてファンを大切にしファンを長く続けていただきたいという会社の矜持と相反する状況にあります。弊社として人権尊重に取り組む今、コンプライアンスとガバナンスを整える作業に一つ一つ取り組んでいっておりますので、ファンの皆さんの正当な権利も侵害されないような体制を整えて参ります」とコメントしました。

リセールサイトの発足については――

 チケット転売問題が持ち上がるたびに議論されるのが、「どうしても公演に来場できなくなった場合はどうすれば良いのか」という問題。2023年にはリセールサイトがないことなどを理由に、大手テーマパークのチケットの転売禁止条項が消費者契約法違反として無効が争われた裁判も存在します。

 この裁判では裁判所が「チケットの転売を自由に認めると、チケット価格が高額化するなどの弊害が生じるおそれがあり転売を禁止する合理性がある」と認めるとともに、専用のチケット転売サイト(リセールサイト)の開設とその運営には、費用負担を要し、最終的にはそのためのコストは消費者の負担となる可能性もあると判断したため、転売禁止条項が無効とは判断しませんでした。

 つまり、リセールサイトを作る費用、運営費などが興行主側に発生することになるので、その費用負担分がチケット価格に反映され、チケット価格が上昇する可能性もあると裁判所は判断したことになります。チケット価格の高騰という観点から考えると、一概にリセールサイトを作れば良いという問題ではないのかもしれません。

チケット流通センター側の主張は――

 また、「チケット流通センター」を運営するウェイブダッシュに対して、ねとらぼ編集部から「(チケット流通センターには)本人確認機能が存在することから、反復して業としてチケットを高額転売している出品者の存在も把握されているかと思われるが、今後対応の予定はあるか」について尋ねましたが期限までに回答は得られませんでした。

発信者情報開示請求が認められたらどうなる――

 取材の中でSTARTO社は、今回申し立て予定のチケットサイトでの高額転売をめぐるチケット販売発信者情報開示請求が認められた場合、「高額転売を繰り返している人物が確認された場合、チケット不正転売禁止法違反として警察への被害相談など法的措置を検討する」と明言しており、悪質な転売を繰り返しているアカウント運営者については厳しい処分を行う可能性が示唆されました。

 STARTO社とヤング社は類似のチケット売買プラットフォームについても同様の情報開示請求を検討しているとのことで、本件が高額転売チケット問題への一石を投じる事例となりそうです。

(Kikka)

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