第13回 Microsoftの複合現実「HoloLens」が見せる未来:“ウェアラブル”の今
Microsoftが、米国で開催した次期OS「Windows 10」のプレス向け説明会で発表した「Microsoft HoloLens」は、現実の空間に映像や情報を重ねて表示する拡張現実(AR)を実現したVRヘッドマウントディスプレイ。ここから見える未来とは。
MicrosoftがWindows 10とともに披露したヘッドマウントディスプレイ「HoloLens」。
この製品を簡単に説明するなら、Google Glassのような拡張現実(AR)と、Oculus Riftのような仮想現実(VR)の間、すなわち複合現実(MR、Mixed Reality)の世界を実現するデバイスだ。
ウェアラブルデバイスが、コンピューティング環境をディスプレイから変える。そんな未来を想起できるプロジェクトである。
ホログラムを手軽に体験できるようになる
Windowsのホログラムは、ホログラムコンピューティング環境「Windows Holographic」によって実現する。この環境を試すことができるサンプルプログラムがWindows 10に搭載される予定で、今回のテーマであるMicrosoftのHoloLensでなくOculus Riftなどでも、この環境を利用できるという。
そもそもホログラムとは、三次元写真のことだが、映画などで登場する様子を見ると、空間に三次元の像を作り出す仕組みをイメージする人も多いだろう。一般的には、「参照光」あるいは「再生照明光」と呼ばれる光の立体領域に対して別の光を当てて像を作り出し、立体が映し出せるようにする方法がとられている。
技術的なことは抜きにして、サッカーなどのパブリックビューイングで、選手やボールが空っぽのグラウンドにホログラムで浮き上がって観戦できると面白いな、と思っていた。しかしこれは、空の空間にしっかりと光を満たす必要があり、ちょっと現実的でないことは分かる。
ヘッドマウントディスプレイでホログラムを実現させるMicrosoftのHoloLensは、環境に対して光学的な仕掛けを用意する必要がない。さらに、処理などはPCで行うため、HoloLensはワイヤレスで映像を受信するだけで良いのだ。
HoloLensそのものの発売などについてはアナウンスされていないが、米国のプレス向けに、Microsoft本社内でデモを行っていたことから、デバイスそのものは「すでにある」ということになる。
アンビエントのインターフェイスをゲームで培ってきた
HoloLensにはカメラやセンサーが搭載されており、空間に合成したり、簡単な手の動きを認識したりすることができる。
デモでは、火星上を探索したり、Skypeでコミュニケーションを取りながら家の修繕を行ったり、コンピュータ上の情報を空間に映し出したりと、多彩な活用方法を披露していた。HoloLensは透過量を変えることによって、完全なVR体験、あるいは現実のものを見ながらのAR体験を行うこともできるという。
もちろん現段階では販売されるものではないが、HoloLensは、コンピュータのインタフェースを変える可能性がある。もちろんすべての作業にHoloLensが作り出す3D表現が必要とは思えないが、少なくとも「画面」の中から解放される最も早い方法と言えるかもしれない。
現状のスマートフォンも、依然として「画面」の中で行われるコンピューティングだ。常に身に付けて持ち運ぶことで、センサーを生かした新しい情報取得が行えるようになったが、その結果を見るのはやはり画面の中だ。
Google Glassは「モバイルデバイス」という前提で、画面をハンズフリーにし、そしてARを公共空間に解き放った。HoloLensはオフィスや家というPCがある空間での体験にこだわることで、Google Glassが突破できなかった社会的な摩擦を回避しているように思える。
ゲームに閉じても、大きな価値がある
Microsoftには、人気のゲーム機、「Xbox」がある。
最新の「Xbox One」には、前作から続く、体の動きなどを読み取れるセンサー「Kinect」で、コントローラーなしのゲームプレーができるほか、搭載されているマイクを使うと声でXboxを起動したり、リビングルームのAV機器の操作が行える。
HoloLensをWindows 10の発表会で披露した点は非常に意外性の強いものであったが、これがXboxの最新版とともに発表されたとしたら、驚きこそするがより納得感が強かったのではないだろうか。
もちろん、FacebookのOculusがゲームでの活用を見込んでいるように、HoloLensもゲームでの活用は十分に考えられる。Minecraftクローンのデモでは、家の中の壁にゲーム内のブロックを出現させて採掘を行うことができていた。
ここでも、HoloLensの選べる活用方法が効いてくる。完全にゲームの世界観の背景で満たすのか、リビングルームに物体を配置して遊ぶのか、あるいは目の前にあるテレビやディスプレイを主画面として、情報やメニューなどをHoloLensによって重ねて表示するのか。
アンビエント、つまり環境を司るコンピューティングの世界は、Google Glassもそうだったが、使用環境に強い「シチュエーション」が必要になり、万人がそのシチュエーションを共有するわけではない。その点、世界観がしっかりしているゲームから立ち上がることは想像しやすい。
もしもアンビエントがコンピュータのインタフェースに昇華しなくても、すなわち引き続き画面の中の世界として続いていくとしても、あまり問題にはならないだろう。なにせ、MicrosoftにはXboxがあるのだから。
関連キーワード
HoloLens | Microsoft | ホログラム | Google Glass | ウェアラブルコンピュータ | Windows 10 | Oculus Rift | Kinect for Xbox 360 | “ウェアラブル”の今 | Windows Holographic | Xbox One
関連記事
- 現実に3D映像を投影するヘッドマウントディスプレイ「HoloLens」をMicrosoftが披露
米Microsoftのプレス向けイベントで、次期OS「Windows 10」を搭載する新デバイス「Microsoft HoloLens」が披露された。ホログラフィック技術を使ってARを実現するヘッドマウントディスプレイだ。 - 第12回 現行モデルは打ち止めとなる「Google Glass」 メガネ型デバイスの今後は?
ウェアラブルデバイスのある生活のさまざまな利点や問題点を予見させてくれたデバイス「Google Glass」のエクスプローラープログラムが終了する。Google Glassは、“実験”から次のステージへと移行する。 - 第9回 Google Glassで本と音楽のマリアージュを知る 代官山 蔦屋書店の「カルチュア・マリアージュ」
メガネ型のウェアラブルデバイスは、まだ明確な用途が確立していない領域だが、1つの興味深い例として、カルチュア・コンビニエンス・クラブが代官山 蔦屋書店で実施している「カルチュア・マリアージュ」がある。書籍と音楽のマリアージュにGoogle Glassを用いているのだ。 - 第8回 Oculus Rift×「進撃の巨人」――情報や作品を「体験」に変えるデバイス
ヘッドマウントディスプレイの「Oculus Rift」は、バーチャルリアリティに特化したウェアラブルデバイスだ。腕時計型やメガネ型とはまた異なる可能性を持つこのデバイスを、「進撃の巨人」展で体験してきた。 - 第6回 メガネ型「JINS MEME」が着目する“ディープデータ”
ジェイアイエヌが5月に発表した「JINS MEME」は、Google Glassなどとはまったく異なるアプローチのメガネ型ウェアラブルデバイスだ。眼電位を測定するJINS MEMEから得られるデータは、高精度な身体情報として注目に値する。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.