意味がわかると怖い話:「忌子の森」(2/2 ページ)
解説
会話を読み返してみると、Bの台詞はなくてもA・C・「僕」の会話は成立しています。Aには(おそらくCにも)「B」は見えていなかった。友人の姿を借りたのか、あるいは「友人のひとりだと思い込まされていたのか」、とにかく「B」はこの世のモノではない――Cが語るところの忌子の森の「悪いモノ」であり、それが唯一見えている「僕」は、既に魅入られてしまっているのでしょう。
白樺香澄
ライター・編集者。在学中は推理小説研究会「ワセダミステリ・クラブ」に所属。クラブのことを恋人から「殺人集団」と呼ばれているが特に否定はしていない。怖がりだけど怖い話は好き。Twitter:@kasumishirakaba
いかに体験者を孤立させるか
「肝試しに行った先で怖い思いをする」話型で大切なのは、「いかに体験者をひとりぼっちにするか」です。「恐怖」とは「安全圏が脅かされることへの嫌悪」ですから、怪異に襲われた時の人数は少なければ少ないほど、防御力と言いますか主観的な「安全性」は損なわれるわけです。ホラー映画でも、中盤までの怪異に襲われるシーンは大抵、登場人物が一人でいる時ですよね。
今回は、「一緒にいたはずなのに、どんな体験をしたかの認識が違う」という書き方で、体験者の「孤立感」を高めてみました。これもベタな書き口ではありますが、「みんなでいる」という安心感を破り、怪異の超常性も強調できる良い手法だと思います。
ところでAくんも「僕」も気づいてないようですが、そもそも「100メートル四方しかない住宅街の中の森」を歩くのに30分もかかるわけないんですよね。腕時計を見たCくんは、もしかしたらその異常性に気づいていたかもしれません。
ちなみに昨年、文春オンラインに寄稿した記事で「さすがに最近は『心霊スポットでの肝試し』設定、無理があるんじゃないの」なんて言っておきながら(『「なぜ「事故物件話」が流行るのか……「心霊スポットにドライブ」が流行らない時代の「怖い話学」』)、自分で「若い子がみんなで肝試しに行って怖い思いをする」ものを書いてしまいました……。
もはやリアルな体験として「共感」できなくなったとしても、「木造のバス停に一面のひまわり畑、麦わら帽子に白いワンピースのあの子」「夏祭りの夜、浴衣を着てきた同級生がなんだか大人っぽく見えて」のような、ありもしない夏のウソ記憶、架空のノスタルジーとして結局好きなんでしょうね。私が。
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