意味がわかると怖い話:「忌子の森」(2/2 ページ)

» 2020年07月12日 21時00分 公開
[白樺香澄ねとらぼ]
前のページへ 1|2       

解説

 会話を読み返してみると、Bの台詞はなくてもA・C・「僕」の会話は成立しています。Aには(おそらくCにも)「B」は見えていなかった。友人の姿を借りたのか、あるいは「友人のひとりだと思い込まされていたのか」、とにかく「B」はこの世のモノではない――Cが語るところの忌子の森の「悪いモノ」であり、それが唯一見えている「僕」は、既に魅入られてしまっているのでしょう。

白樺香澄

ライター・編集者。在学中は推理小説研究会「ワセダミステリ・クラブ」に所属。クラブのことを恋人から「殺人集団」と呼ばれているが特に否定はしていない。怖がりだけど怖い話は好き。Twitter:@kasumishirakaba


いかに体験者を孤立させるか

 「肝試しに行った先で怖い思いをする」話型で大切なのは、「いかに体験者をひとりぼっちにするか」です。「恐怖」とは「安全圏が脅かされることへの嫌悪」ですから、怪異に襲われた時の人数は少なければ少ないほど、防御力と言いますか主観的な「安全性」は損なわれるわけです。ホラー映画でも、中盤までの怪異に襲われるシーンは大抵、登場人物が一人でいる時ですよね。

 今回は、「一緒にいたはずなのに、どんな体験をしたかの認識が違う」という書き方で、体験者の「孤立感」を高めてみました。これもベタな書き口ではありますが、「みんなでいる」という安心感を破り、怪異の超常性も強調できる良い手法だと思います。

 ところでAくんも「僕」も気づいてないようですが、そもそも「100メートル四方しかない住宅街の中の森」を歩くのに30分もかかるわけないんですよね。腕時計を見たCくんは、もしかしたらその異常性に気づいていたかもしれません。

 ちなみに昨年、文春オンラインに寄稿した記事で「さすがに最近は『心霊スポットでの肝試し』設定、無理があるんじゃないの」なんて言っておきながら(『「なぜ「事故物件話」が流行るのか……「心霊スポットにドライブ」が流行らない時代の「怖い話学」』)、自分で「若い子がみんなで肝試しに行って怖い思いをする」ものを書いてしまいました……。

 もはやリアルな体験として「共感」できなくなったとしても、「木造のバス停に一面のひまわり畑、麦わら帽子に白いワンピースのあの子」「夏祭りの夜、浴衣を着てきた同級生がなんだか大人っぽく見えて」のような、ありもしない夏のウソ記憶、架空のノスタルジーとして結局好きなんでしょうね。私が。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2505/09/news149.jpg 急性骨髄性白血病で闘病中だったVTuber、死去 「復帰を目指して闘病」 専門学校の講師としても活動
  2. /nl/articles/2505/10/news018.jpg ズボラ母が5人分の“サンドイッチ弁当”を作ったら…… 目からウロコの時短テクと美しい仕上がりが219万再生「参考になります」
  3. /nl/articles/2505/08/news178.jpg 着なくなったデニム、捨てるの待って! 3色の毛糸の束を斜めに縫い付けていくと…… 約300万再生の“神アイデア”に「私も作ってみます」【海外】
  4. /nl/articles/2505/08/news024.jpg アザラシの水槽に近づくと……「こんなの笑うわw」 予想もしなかった姿が220万再生と話題「こういうおじさん見たことある」
  5. /nl/articles/2505/09/news063.jpg 「腹筋捩じ切れましたwww」 夫が塗った“ピカチュウの絵”が……? 大爆笑の違和感に「うちの子も同じ事してたw」 投稿者に話を聞いた
  6. /nl/articles/2505/10/news041.jpg 仕事中のパパが、ベビーカメラでママと赤ちゃんを見てみると? 417万再生した驚きの光景に「人生何周目?笑」「この子天才」→2年後の現在を聞いた
  7. /nl/articles/2505/09/news017.jpg 突然変異で“赤くなったエビ”を繁殖してみたら→「ヤバいことになった」「勘弁して」 予想外の“稚エビ誕生”記録に反響
  8. /nl/articles/2505/03/news073.jpg 古いタオルを捨てないで! ザクザク切って縫い合わせるだけで…… 便利なキッチングッズに大変身「素晴らしいアイデア」【海外】
  9. /nl/articles/2505/08/news030.jpg セールで6万5000円だった憧れの古代魚を、17年育てたら……“黄金の龍”に化けた鳥肌ものの姿に「生きた化石」「すげえかっこいい」
  10. /nl/articles/2505/09/news016.jpg いつの間に自宅で爆誕していた“子熊っぽい動物”を育ててみたら 「デカ過ぎ」「すごい大所帯」成長した姿に驚きの声
先週の総合アクセスTOP10
  1. クリスマスに出会ったギャルとギャル男が21年後…… 誰も予想できない現在に「素直に凄い」「人に歴史あり」と称賛の声
  2. 「もうこのパンツで十分」 ワークマンの“1500円パンツ”が売り切れ続出の大反響 「相当な企業努力」「驚異的」
  3. 「もうシソは買わない」 ペットボトルに種をまいて1年後…… “食べ切れないほど”の大収穫に「今年はこれで育てます!」
  4. 息子が中学生のときに迎えた柴犬、一緒に育って9年後…… 涙が出そうなふたりのビフォーアフターに「最高の相棒」
  5. 「なんとかして」 ワークマンの話題騒然“不審者パーカー”、高額転売に怒りの声…… 「どうにかならないのか」
  6. メガネ模様の子犬→成長したら…… 「やば」「こりゃーたまらん」予想外の姿に大反響「アザラシの子どもって感じ」
  7. 獣医師に「何の動物ですか?」と聞かれた子犬 「これは……クマですね」「もう異次元の可愛さ」と反響集めた2年後の現在は? 飼い主に聞いた
  8. 「大谷翔平が娘の名前を公表」 YouTubeなどで「デマ画像」の投稿相次ぐ 生成AI活用か…… 「ひどい」非難の声も
  9. 小5息子の体操服のゼッケン、進級で…… 「4年5組→5年3組」にする強引な“力ワザ”に「すごい!完璧!」「笑いが止まらない」
  10. 「やば欲しい」 ダイソーに1100円で売っていた“驚がくの商品”が1000万表示 「すっげ」「今度買ってこよー」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 築53年家賃4万円・何てことない団地のドアを開けると…… まさかの空間出現に驚きの声「素敵」「ここまでお洒落に」
  2. 小学生時代「こんなプラモ誰が買うんだよw」→40年後…… “大人になった”を実感するエピソードに「分かる」「特大ブーメランw」
  3. 49歳病没の大宮エリーさん、生前開催の個展で「体調も万全でなかったので不安」 3カ月前には苦しげな姿も「声が出にくい」
  4. 自販機に“1000円”を入れたら……? 出てきた“とんでもないお釣り”にお口あんぐり「こんなん初めて見た」
  5. 自宅の犬小屋に住み着いた野良猫、1年後の姿に「泣いた」と大反響 それからどうなった?現在の様子を聞いた
  6. 100万円の“錦鯉”を自宅の池に入れたら…… 「おかしいでしょ」3日後、まさかの事態に「鯉は難しい…」「信用が大切ですね」
  7. パパに、保育園へ行く娘のヘアアレンジを任せたら…… ママがひっくり返った“仕上がり”が400万表示「重力どこ?」「頑張った感がいい!」
  8. 「成長したらそのうち襲ってくる」と言われたワニ、16年後……→ 280万回再生を突破した驚きの姿に「初めて見た」の声
  9. 人里離れた山にカメラを設置→1週間後…… 「なんで?」映っていた“意外すぎる住人”に「笑った」「実在していたのか!」
  10. 「神パンツきた」 ユニクロ新作“3990円パンツ”が品切れラッシュの大人気 「過去イチかも」「本当にこれは買い」