こんにちは。突然ですが、「ねとらぼ」のロゴをご覧ください。

 文字の形から、どんな印象を持ちますか? 「かわいい」「ポップ」「何かおもしろそうな記事がありそう」などいろんな感想があるかと思います。では、こちらはどうでしょう?

 「真面目そう」「新聞みたい」「なんだか個性的」……。同じ文字列なのに、印象がガラッと変わりますよね。ということはもしかして、資料を作るときにフォント選びってめちゃくちゃ大事なのでは?

 そんなわけでフォントのプロに「資料作りでのフォントの選び方」を聞いてみました。教えてくれるのは、フォントメーカー「Monotype」で書体のデザインをしている土井さんと中村さんです!

土井遼太さん(左)、中村勇弥さん(右)

土井遼太さん(Monotype クリエイティブ・タイプディレクター)
 東京藝術大学デザイン科を卒業後、英国レディング大学の書体デザインコースで修士号取得。’15年からMonotypeで、企業向け書体開発および書体選定等コンサルティングを担当。Monotypeの代表書体、たづがね角ゴシックの制作メンバーとして、フォントのバリエーション展開や中日韓対応の字種拡張を行う。最近では、大学講義や国際カンファレンスに登壇し、国内外に向けて書体について発信している。

中村勇弥さん(Monotype タイプデザイナー)
 早稲田大学文学部日本語日本文学コース卒業後、2020年にフォントワークス株式会社(現:Monotype株式会社)へ入社。15歳からタイプデザイナーを志し、独学で書体デザインへの知見を深める。株式会社BAKEのアップルパイ専門店「RINGO」のブランド書体「Ringo Type Bold」の開発では、企画発案からデザインまでを自ら行う。

「Monotype Fonts」とは?
 25万種類以上のフォントを使用できる、クリエイター向けのフォントサービス。世界中で使われる定番のフォントから、Monotype社が独自に開発したフォントまで、さまざまなフォントがラインアップされています。日本語の書体も430ファミリー以上、テレビ番組やゲーム作品などでよく見かけるフォントも多数取り扱っています。
Monotype Fonts. | Monotype.

先生、かっこいい資料の作り方を教えてください!

(困った顔で……)まず、“かっこいい”って何なのかが難しいですよね。人によって感覚が違うので。会社やチームで話し合って「どんなトーンで相手に伝えたいのか」を先に決めておくと、役に立つんじゃないかなと思います。

使うフォントによって、読む人が感じる「トーン」というのがだいぶ違ってくるんです。たとえば、こちらのフィードバック資料を見てください。

修正してほしいポイントが、わかりやすく書き込まれている

ここで見てほしいのは、指摘の内容そのものより「フィードバックの記入で使っているフォント」です。丸みがあって柔らかい印象のフォント「筑紫A丸ゴシック」を使いました。重箱の隅をつつくような指摘でも、相手を嫌な気分にさせず受け止めてもらうことを狙っています。

私たちは、「フォントは使い手の声」だと説明することもあるんです。漫画でもセリフの印象がフォントで変わりますよね。

「フォント=声」だから、どんなトーンで伝えたいかを考える

たとえば、真面目な内容や落ち着いた内容を伝えたい場合は、明朝体のほうが厳格な印象を与えることができます。

幼稚園や小学校などに貼る「手をあらおう」というようなポスターであれば、丸っこい書体のほうが子どもは親しみやすく感じてくれるかもしれません。

そうです。「どんな気持ちを・どんな相手に・どんなテンションで伝えたいのか」を分析してから、それに合ったフォントを選ぶと、完成度が高い印象になると思います。

時間があるときに、とりあえずいろんなフォントを打ち込んでみて、それぞれの文字の形を見て知ってみてください! 直感的に感じることがあるはずなので、まずはそれを頼りにしましょう。

専門的な知識をつけると、選び方に理由づけができて理解度も深まるのですが、書体を目に入れた瞬間に感じる「直感」もあなどれません。

心配なら、上司や同僚の方に見てもらって、客観的な意見をもらうのもいいと思います。

意識すべきは「どこに表示する?」「どんな人が読む?」

「どんな場面で表示するか」「見せたい相手はどんな人か」も重要な要素です。モニターに表示するのか、紙に印刷するのか。PCのモニターで見るのか、会議室の大型モニターで見るのかでも変わってきます。表示する画面が小さければ、文字を大きくするなどします。

モニターに表示する場合は、ゴシック体がやはり見やすいですね。明朝体は、細い部分と太い部分があるので、明るいモニターだと見づらく感じる場合があります。
ただ、どんな場面でも明朝体が読みにくいというわけではありません。明朝体は新聞や小説、論文など、長い文章を続けて読ませる場面に適しています。細い部分と太い部分のコントラストがあるので目で追いやすいんです。

資料を目にする方の年代は意識するとよいと思います。ご高齢の方であれば、小さい文字は読みにくいので、大きくて読みやすい字にします。
アジア圏でのデザイナーから聞いた話ですが、30代以上は「ゴシック体=若々しい/明朝体=伝統的」と感じる人が多い一方、逆に10代の方々から「明朝体って新しく感じる」という声もあったそうなんです。同じフォントでも世代によって受け取るイメージが違うというのは、専門的な範囲ですが興味深いですよね。

 ほほう、いろんなことが分かってきました。ここまでの話をまとめてみましょう。

「どんなトーンが適切か」「どこで表示するか」「どんな人が読むか」を意識して、フォントを選ぶ。
3つを踏まえて、どのフォントが最適なのかは、自分の直感を信じればいい!

 これさえできれば、プロっぽい資料が作れる……ってことならいいんですけど、プロの仕事がそんな簡単なわけないですよね。もっと他にもノウハウがあるはず! フォント以外のテクニックについても教えてもらいました。

 (※)本企画では、「フォントの選び方」「文字の読みやすさ」にフォーカスして聞いています。「1スライド1メッセージ」「配色」といった、フォント以外のデザインに特化した要素は省略しています。

レイアウトのテクニックで、“読みやすさ”を作る!

では、この事例を見てください(ビフォー・アフター資料登場)。

修正後の資料は、何が書いてあるのかパッと見で頭に入ってくる!

資料を作る際は(1)まずフォントを決めて、(2)行間と行長の調整 、(3)全体を整える……の順で取り組みます。ビフォーの資料は、行長(1行の長さ)が長く、行間(行と行のあいだの空間)が狭いと感じたので直しました。

最後にフォントを変えると、それまで整えていたレイアウトが崩れてしまうことも少なくありません。なので「伝えたいトーン」に基づいて、最初に決めてしまうのがおすすめです。
とはいえこのパートでは、フォント選び以外のテクニックも──ということなので、フォントは変えず、レイアウトだけ調整してみました。

では、こちらの資料をご覧ください。

おおお、“ひと目で読める感”があるー!

行長を短くするために、右側に余白を作りました。余白を怖がらないのも大事です。

行長が長いと、左右に目を移動させる距離が長くなってしまうので、読むのが大変という印象になります。目をたくさん動かさなくてもぱっと読める行長になっていますね。

資料の内容にもよりますが、アフターの資料では1枚150文字程度に抑えられているので、この程度の文字数を目安にしていただくと良いかもしれません。それより多いと、見る側は文章を目で追うことに集中してしまって、プレゼンを聞く耳がおろそかになってしまうと思います。

基本的に長めの日本語の場合、右側もそろっているほうが美しく見えます。ですので、「両端揃え」にしました。

 これで明日から、ワンランク上の読みやすい資料が作れる気がしてきました。ところで、フォント会社の人に聞くのもどうかなとは思ったのですが、あることが、ずっと気になっていて……。最後に思い切って質問をしてみました!

フォントって買わなくちゃ……ダメ?

Windowsに元から入っている標準フォントだけでも、全く問題ないものが作れると思います。一昔前は選択肢が少なかったですが、今はかなりいいものが増えていますので。

先ほどお見せした資料は、すべてWindows標準の「Meiryo UI」で作っています。Monotypeで扱っているフォントのひとつ「たづがね角ゴシック」にすると、こんな感じになります。

Monotype社の有料フォントである「たづがね角ゴシック」に

「たづがね角ゴシック」は手で書いたような自然な形をしているので、威圧感を与えにくく、やさしく語りかけるような印象になります。プレゼン資料で活躍できる書体だと思います。

太さのバリエーションが多いフォントが便利です。太さを変えるだけで、いろんな媒体に対応できますので。Monotypeで取り扱っている中では「たづがね」シリーズや「筑紫書体」シリーズは名書体なので、クオリティーの高さの面でもおすすめです。

まとめ:資料作りはまず「トーン」!

 読みやすいプレゼン資料を作るためのチェックポイントをまとめました。

土井さんおすすめのフォント「筑紫ゴシック Pro」で書いてみました

 今回、教えてもらったことは基本中の基本です。お二人の頭の中にはもっといろんな知識があるようでしたが、とりあえず簡単にできるよう“直感でOK”と説明してくれました。

 フォントに興味が出てくると、街中でもいろいろなものが目に留まるようになるといいます。ポスターや広告を見て「このブランドはこういうトーンで行きたいんだな」と考えてみたり、パッケージに使われているフォントが気になったり……トーンに合ったフォント選びの視点が身についてくると、資料作りの完成度も変わってきそうです!

 そして、Monotypeはフォントのサブスクサービス「Monotype Fonts」を展開中。アメリカで創業し、2023年に日本国内のフォント会社・フォントワークスを傘下に収めた同社は、従来の5カ国語UI対応に加えて2025年8月から新たに日本語UIにも対応し、現在は日本語書体のさらなる拡充をはかっています。「もっといろんなフォントを使ってみたい!」と思った方は、ぜひ選択肢に入れてみてください。

「Monotype Fonts」とは?


 25万種類以上のフォントを使用できる、クリエイター向けのフォントサービス。世界中で使われる定番のフォントから、Monotype社が独自に開発したフォントまで、さまざまなフォントがラインアップされています。日本語の書体も430ファミリー以上、テレビ番組やゲーム作品などでよく見かけるフォントも多数取り扱っています。

Monotype Fonts. | Monotype.

 Monotype、Helvetica、Shorai、Palatino、たづがね、筑紫、フォントワークス スーラ、てんとう虫、およびフォントワークスUDは、日本で登録されているMonotype Imaging Inc.の商標であり、その他の国や地域でも登録されている場合があります。
 BodoniおよびNeue Helveticaは、Monotype Imaging Inc.の商標であり、特定の国や地域で商標登録されている場合があります。
 Gothamは、米国特許商標局に登録されているThe Hoefler Foundry, Inc.の商標であり、その他の国や地域でも登録されている場合があります。
その他、記載されている商標は、各社の登録商標または商標です。

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