■インタビュー |
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収録日:2003年?月?日 |
映画が原作のゲームは受けない――ある意味,常識と化していたこの言葉を見事に覆したEAの「ロード・オブ・ザ・リング」。
世界的名作をゲームにするプレッシャーはなかったのか? 最終章となる「王の帰還」制作ではどんなことを留意して制作したのか? などを,開発スタッフであるニール・ヤング氏とアルカディア・キム氏に話を聴いた。
□プロフィール
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□ニール・ヤング氏
バイス・プレジデント 「ロード・オブ・ザ・リング」エグゼクティブ・プロデューサー
'88年に英国のゲーム開発会社,イマジテック社に入社,以後アクレイム,セガ,ハドソン,ヴァージン・インタラクティブ,オリジン・システムズなどで数々のゲームに携わる。
代表作は「アラジン」「ジャングル・ブック」(ヴァージン・インタラクティブ),「ウルティマ・オンライン」,「マジェスティック」,「ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔」など。
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□アルカディア・キム氏
シニア・プロデューサー 「ロード・オブ・ザ・リング」デベロップメント・ディレクター
'95年にNY大学フィルム・プロダクション科を卒業し,ルネッサンス・ワールドワイドに入社,その後ハーバード・ビジネススクールでインタラクティブゲーム業界における開発プロセスについての研究でMBAを取得した。
EAでは,オンラインゲームサイト「pogo.com」,「マジェスティック」などに参加し,主にディレクションを担当した。
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Q:まず「ロード・オブ・ザ・リング」をゲーム化した経緯をお聴かせください。
ニール・ヤング(以下 N):2000年の11月までは2人で「マジェスティック」というオンラインゲームの制作に携わってました。
「ロード・オブ・ザ・リング」のライセンスの話は,ゲームの開発も一段落して「次は何をしようかな」と考えていたときに見付けたんです。
Q:世界的にも大作と呼ばれている映画ですが,ゲーム化に際してプレッシャーはなかったんですか?
N:本当に「ロード・オブ・ザ・リング」の世界観は壮大で,このゲーム化に携われただけでとても嬉しいことです。しかし,それに伴う責任感は大きく,まるで指輪を首からかけているようなプレッシャーでしたよ(笑)。
Q:でもグラフィックなど,映画の世界観は十分に表現されていると思います。映画のスタッフの協力はどのくらいあったんですか?
アルカディア・キム(以下 K):映画スタッフは積極的にゲームに関わってくれました。例えば,ヘルム峡谷(※1)とミナス・ティリス(※2)は映画に使われたCG素材やセットの設計図などを直接手に入れて制作したものになります。
またシェロブの巣(※3)は,映画ではあまり出てこないので,設計図というものがなかったんです。そこで映画のスタッフの協力を扇ぎ,一緒に相談しながら,新しく作ったマップなんですよ。
Q:映画をゲームに落とし込む作業の上で気を払った点はありますか?
N:こういった作業で一番注意を払ったもは,背景を作る際にデジタルよりもアナログの雰囲気を大事にしたい,ということです。 光の線を変化させたり,空気の濃度を少しだけ変化させたり……,と微妙なところで雰囲気を出すようにしています。
Q:それはすごい微妙な表現ですね。ゲームの内容も映画を忠実に再現していますし。
N:ありがとうございます。でもわれわれは,「映画をそのまま再現しよう」と思ったわけではなく,面白いゲームを作っていこう,と思ってこのゲームを作ったんです。
ゲームを制作していく上でまず映画のシナリオを整理したフローチャートを作り,どのシーンを使ったらゲームとして面白いものになるだろう? ということを考えてシーンをピックアップ,その上で制作を始めているんですよ。
Q:じゃあ映画で体験できないこともゲームでは遊べる,ということですか?
N:例えば,映画ではある出来事を匂わせるために一瞬だけしか出てこないシーンを広げてみたり,長くしてみたり,ということをしています。 具体的に言うと,最初のガンダルフが魔法を使ってヘルム峡谷に攻め入るオークと戦うシーン。あのシーンは,映画「二つの塔」で崖を駆け下りていくだけのシーンでしたからね。
K:ゲームをやることで映画をより深く理解できるシーンも入っています。例えば,ゲーム中に入るガンダルフのナレーションを聴くと,実はすべての物事がガンダルフの指図どおりに進んでいた……なんてことも実感できますよ。
Q:海外版と日本語版で仕様の違いはありますか?
K:かなりあります。難易度はより易しく,コンボはより派手に決まるようになっています。パーフェクトモードも海外に比べてかなり出やすいですね。より積極的に敵をやっつけられるようになりました。
N:北米のユーザーは戦闘の剣先の“音”で満足を得られるので,防御してもそんなに苦労ではないんです。
一方の日本は,“一発でスパーンと斬れる”点が重要視されます。日本のスタッフと共同で6週間もカスタマイズにかけているんですよ。
Q:日米の文化の違いが出ていておもしろいですね。そして「王の帰還」でもう一つの特徴となっている「協力モード」ですが,これはどうして追加されたんですか?
N:実は前作が発売されたあと,「もう1個コントローラを繋いで,ほかのキャラクターを操作したい!」といユーザーからの声がかなりあがったんです。その声を踏まえて制作したのがこの「協力モード」です。
ちなみに「ロード・オブ・ザ・リング」では,本当に「旅の仲間」になったような気分が味わえるように,ほかのゲームよりも一緒に遊ぶプレイヤーとの会話やコミュニケーションが必要となるように作っているのが特徴ですね。
Q:映画ファンやアクションファンには見逃せない作品ですね。最後にファンへメッセージをお願いします。
K:「王の帰還」には,エレクトロニック・アーツにある資源やノウハウを最大限に生かしています。ぜひ遊んで,「ロード・オブ・ザ・リング」の世界を楽しんで欲しいですね。
N:映画を知らない人でも,ゲーム中の解説で作品の概要は掴めるようになっています。ぜひ遊んで,“中つ国”を自分の手で冒険してください。
現在,RTSをはじめ,さまざまな新作に取りかかっているお二人だが,その根幹にあるのは「思わずからだが動いてしまうほど感情移入できるゲームを作っていきたい」ということ。
国境を問わず,いいゲームに制作に賭けるその想いは,「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」で感じ取ることができるはずだ。
PS2,GC,Windows,そしてGBAとさまざまなハードで遊べるだけに,映画好き・ACT好きはぜひ同作品を遊んでみるといいだろう。
※1 ヘルム峡谷 人間の国の一つ,ローハンがある場所。「二つの塔」では,1万のウルク=ハイとの戦いが繰り広げられた。
※2 ミナス・ティリス 人間の国,ゴンドールの首都。映画「王の帰還」では,膨大な数に上るサウロン軍との戦が待つ。
※3 シェロブの巣 フロドとサムが,ゴラムに導かれて訪れる場所。その昔,サウロンと手を組んだ怪物シェロブが巣くう恐ろしい場所だ。
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