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ボクらは「桃鉄」で日本地理を、「信長の野望」や「三国志」で歴史を学んだ東京大学大学院情報学環教授 馬場章氏インタビュー 前編(2/2 ページ)

エンターテインメント以外の目的で作られたゲームは「シリアスゲーム」と呼ばれている。だが、日本でこの概念はあまり根付いていない。そこで「GDC 2005」においてシリアスゲームのセッションを行った東京大学の馬場教授に、シリアスゲームとは何か? 話を聞いた。

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ゲームで人格形成も可能

ITmedia 日本のシリアスゲーム、特に教育的な効果というのは何があるのでしょうか。

馬場 数は少ないですが、実証的な事例として挙がっているのは、知識が増えるという効果があります。私が高校の教師をやっていた時ですが、教科書にも載っていないようなことを知っている、妙に戦国時代に詳しい生徒がいた。何でかなと思って本人に聞いてみると「信長の野望」をやっているからと言うんです。

 ですから、知識の量が増えるといった効果は確実にあると思います。ただ、私が考えている教育的な効果は4段階あるんです。最初は教科書を読むのは嫌だけど、ゲームならば取っつきやすくなる「モチベーションを作る」効果。次の段階に、先ほどいった「知識が増える」効果。これは繰り返しプレイしていれば、漢字や英単語と同じように自然と覚えていきます。

 この次には「歴史に対する認識を深める」効果が挙げられます。というのも、知識の積み重ねによって、その時代のイメージをプレイヤーが思い描くことになりますよね? これが教育効果としては高いレベルにあると考えています。

 そしてRPG、特に最近ではオンラインゲームのMMORPGですが、これにはさらに高い効果があると思っています。それと言うのは「人間の行動様式に対する」効果なんです。例えば協調性や人格形成であるといったものが、ゲームを通して可能になる。

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「信長の野望」、そしてMMORPGである「信長の野望 Online 〜飛龍の章〜」も本実験に利用する最有力候補として挙げられている

 基本となる動機付けがあり、知識を増やし、認識を深める。そして人格形成へ結びつける、この一連の過程が教育的効果だと考えています。単に知識を深めるだけでなく、それ以上のものがゲームによって可能になるんです。

 ゲーム機はもはやただの遊びの道具ではなく、オンラインに繋がる点も含めてコミュニケーションツールだと考えています。ただ、まだ遊びの道具としてしか捉えられていない。そんな悲しさが日本にはあります。

 私はゲームを「現代の知的複合体」と呼んでいます。ゲームはただのおもちゃではなく、「知的複合体」と言えるところまで来ているんだという評価を含めて、具体的なゲームソフトの中身に踏み込んだ評価を行う、それが私たちの本当の目的かもしれません。そこまで行くにはかなり長い道のりになりそうですが……。

ITmedia ただ確立されれば、業界にとっても良いことだと思います。

馬場 ゲームというのはそれだけの魅力があるもの、だからもっとゲームを広めたいんですが、なかなか広まらない状況もある。それを打開するためにもっとプラスの側面、エンターテインメント以外でも役に立つ側面を科学的に証明していくことが、私たちのようなアカデミックにいる人間の役割だと考えています。

 もちろんこの研究というのは、アカデミックの人間だけでできるものではなく、産業界とも密接に協力していかないと進められません。私たちは研究を行い、その結果を理論化しますが、産業界はそこから新たなビジネスモデル、技術開発に結び付けてもらいたい。

 ですから私たちの研究に多くのメーカーから協力を得たいと思っています。メーカーどうしの競争は当然ありますが、研究という面ではメーカーも仲良くしていただきたい。産業界全体をにぎやかにしていきたいという思いは私たちも一緒ですから、みんなで協力していきたいですね。

後編へ続く

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メーカーからの協力は不可欠だと述べる馬場氏。両者が協力し、ゲームに対するプラスの側面を引き出すのはもちろん、もうひとつ上のメディアへと押し上げてもらいたいものだ
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