未知なる世界であがき、もがけ。ドライなデザインについて来られるか?(2/3 ページ)
「シルバー事件」「花と太陽と雨と」など、ゲームの定型を意図的に破壊することで独自の世界を追究してきた「グラスホッパー・マニファクチュア」。その個性派が、メジャーメーカー、カプコンの三上・小林両プロデューサーとタッグを組んで作り上げたアクションAVG。発売前の評価は高かったが、はたして真価はいかに!?
わかりやすさを排除する、特異な制作コンセプト
さて、世界観とキャラクターを見るかぎり、サイバーパンクやハードボイルドが好きな人なら、心惹かれるギミックが満載であることは間違いないだろう。だが、キラー7を作ったのが、グラスホッパー・マニファクチュアであることを忘れてはならない。やはりこの作品でも、ゲームの約束ごとを意図的に破壊するという、これまで同様のテーゼが脈々と息づいているのだ。
それは「プレイヤーに必要な説明しない」というスタイルにある。この作品には前述したような世界観と設定があり、それらはいちおうマニュアルには書かれている。だが、本編ではその説明が行われる前に、「天使」と名づけられたプロローグ・チャプターが開始されるのだ。
プロローグといっても、そんなに短くはないので、プレイヤーは少なくとも数時間は、自分が何をしているのか、敵は何なのか、目的は何なのか、わからないままゲームをすることになる。この突き放したゲーム作りが非常に”らしい”のだ。
説明役やヒント提供用のキャラクターは複数用意されているが、彼らはわざとあやふやで、よくわからない話し方をする。しかも、かなりクセのあるしゃべくりをする。ゲーム開始後もチュートリアルを見ることはできるが、これも懇切丁寧に教えてくれるというよりは、ボイスオンリーの突き放した説明になっている。
しかも、チュートリアルをはじめとする各人の説明は、早送りができない。スキップは可能だが、聞きたいところだけ聞く、ということができないので、情報収集を行っても、未知の世界がいきなり明らかになるということはない。自分が何のために何をしているか、それはゲームを進めていくに従って、少しずつわかってくるのだ。
それも、不鮮明なビジュアルが徐々にフォーカスが合ってくる、という感じで、決してわかりやすいとはいえない。だが、物語が国際的な陰謀に関わっていることを考えると、実務を請け負う殺し屋が、いきなりすべてを知っているというのは、かえって不自然だろう。その意味で、この一見、不親切に思える情報提供は、必然なのだともいえる。
ときおり現れてアイテムを渡してくれる生首少女スージー。彼女のセリフには、頻繁に顔文字が入る。他にも麻雀しているヤクザが、突拍子もなく「アンタ、背中が透けてるぜ」といってフリテンをかますなど、ノリそのものに、かなりクセがある
突然、右も左もわからない空間に放り投げられ、目的の理由もわからぬままに敵を倒せ、といわれたら、大半のプレイヤーは不親切に思うだろう。しかも頼りになるはずのヒントキャラは、意味不明の言葉(としか最初は思えない)をつぶやくだけ。
結果的に彼らをあきらめて、ともかくゲームを進めるしかなくなるのではないか。だが、攻撃方法や体力の回復方法もよくわからないのでどうにもならない。特にこのゲームでは敵の攻撃力が高めなので、あまり適当にやるとすぐゲームオーバーになってしまう。
食い下がって序章を突破すれば……
だが、今回はさすがに大手メーカーのプロデューサーが入っているため、従来の諸作に比べれば、それでも格段に遊びやすくなっている。とっつきが悪く感じるかもしれないが、なんとか食い下がって欲しいと思う。
序章にあたる「天使」の章を突破すれば、ある程度の説明が入るし、システムにも慣れてくるだろうから、次第にゲームを楽しめるようになっていくはずだ。シナリオ展開や乾いた世界観そのものは魅力的なので、いきなりあきらめてしまうのはもったいない。
システム上では、大きく2つの特徴がある。移動と攻撃の方法だ。これはちょっと変わってはいるものの、手に負えないレベルではない。そしてこの2つのシステムを理解すれば、少しずつでもゲームを進めていけるようになるだろう。あとはマニュアルを併読しつつ、チュートリアルを聞いていけば、それまで未知だった領域が明らかになって、システム全体の構造が見えてくるはずだ。
移動は前進オンリーという思い切った発想
移動の方法はかなり変わっている。アクションAVGでありながら、キャラクターは前方にしか進めないのだ。方向転換して後ろを向くことはできるが、左右や斜めに移動することができない。これは最初、かなり戸惑う。
とはいえ、特定のイベントが発生すると自動的に停止してくれるし、左右に調べるべきポイントある場合は、そちらへ移動するための表示が示される(このルートの分岐点をゲーム上では「ジャンクション」と呼ぶ)。
しかも行ったことがあるかどうかで表示色が変化するので、無駄な移動に時間が取られることがない。フラグが立つ場所を探してうろうろする、という手間がなく、慣れてくればなかなか快適だ。
ざらついた恐怖感を演出する索敵システム
クセがあるのが、攻撃方法だ。冒頭に入るチュートリアルでも、もっとも肝心な敵の迷彩に関する説明がなかったため、実戦に入ったとたんに混乱に陥る可能性が大なのだ。
ヘブン・スマイルには、その名の通り、笑いながら接近しているという習性がある。マップを進んでいるとき、笑い声が聞こえたら、それが敵の出現の合図というわけだ。これは非常に明確で対処しやすいサインといえよう。
敵の存在を察知したら、武器を構える(R1ボタンを押す)と、プレイヤー主観の射撃画面に移行する。ここでサイトを合わせて攻撃ボタンを押せばいいのだが、実はヘブン・スマイルは、特殊な都市迷彩で姿を隠しており、薄い影のようにしか見えない。
とはいえ、ある程度近くであれば、プレイヤーには見えることは見える。ところが、この状態では、見えていたとしても絶対に攻撃が命中しないのだ。ヘブン・スマイルの迷彩は、単なる視覚上のカムフラージュではなく、システムとして機能しているのである。
対処方法はというと、銃を構えている状態でL1ボタンを押して、索敵視界に入ること。これで攻撃が可能になる。L1ボタンを放すと索敵は解除されてしまうので、戦闘中は、R1、L1の両ボタンを押しっぱなしで、その他の攻撃ボタンを操作させられることになる。
通常と索敵時の視界を分けているのは、敵に通常の人間(彼らは索敵しなくても攻撃が命中する)がいるためではないかと思われるが、これがやや戦闘のリズムを壊していたのは否めない。だが、戦闘の緊迫感は上手く表現されている。
パッケージ裏面に「感じるままに、殺れ」と書かれているキャッチから、どんなイメージを受けるかは人それぞれだろうが、向かってくる敵をバンバン撃っていく爽快感を期待するのなら、それはない。その代わり、ざらついた手で肌をなでられる恐怖感はある。こちらを期待するなら、索敵のシステムは十分応えてくれることだろう。
高いハードルを乗り越えることの価値
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