日本のゲーマーが世界へ羽ばたく日は近い? World Cyber Games2005日本予選リポート:東京ゲームショウ2005――World Cyber Games2005日本予選(3/3 ページ)
「ゲームプレイで大金を稼ぐ」――そんな夢のようなイベントが今、世界各地で開催されている。その中で世界最大規模のものが、予選開催国世界63カ国、総予選参加人数100万人を数える「World Cyber Games」だ。今回は日本であまり知られていない「ゲームトーナメントビジネス」を取り巻く企業の世界を紹介する。
我々のイベントは「ゲームのプロモーション」ではない
―― 日本で開催されるゲームイベント、というとメーカー主催、メディア主催のトーナメントがある中で、ニュートラルな企業――テクノブラッドさんはゲームのリリースも行っていますが、大会採用タイトルではありません。そういった企業がイベントを運営するのは非常に珍しいですよね。日本の場合、メディアが一番大きく扱うのは、メーカー主催のイベントになります。それは広告との関係もあるわけですが……。
安 私たちは、ゲームのプロモーションをするためにゲーム大会を開いているわけではないんです。選手やプレイヤーには楽しんでもらいたい、ユーザーにこういった夢を共感してもらいたい、と思って大会を運営しています。
日本ではゲームというと、一人でコンピュータを相手にプレイしているという印象が非常に強い。ゲームの市場は大きいのにも関わらず、ダークなイメージがつきまとっている。そして何か事件が起こるたびに、「ゲームが原因だ」と言われるわけなんですが、私には「日本にゲームに接したことのない人間はほとんどいないだろう」と思っています。そういう観点から見るとすでにゲームは生活圏内にあるものでしょう? そして、それを競技として大きくしていきたいという気持ちがあります。
それから、いま「e-sports」という、新しい文化を創っていくという動きがあります。どこかの企業にしばられるわけでもなく、ユーザーがプレイするゲームをチョイスして技を競い合う。それで参加してくれる人たちがみんなで楽しい空間、時間を共有していこう、そういうことをやっている。
私の部署ではまず、競技の場がオープンである、健全であるということをプレイヤーの皆さんに認識していただいてから、パッケージのゲームを販売するというサービスではなくて、ゲームをどうやって楽しくプレイしてもらうか、それにどういう動機付けをするか、というサービスを提供しようとしています。
ゲームを人とプレイするということは、コミュニケーションですから、そこに人間同士でしか得られない楽しみがある。そういうものをどんどん創出していきたいし、日本のプレイヤーにもその当事者であってほしい。
「e-sports」を日本で普及させるために
―― 今、お話にありました「e-sports」という言葉。安さんにとって、e-sportsとはどういったものとして位置づけていらっしゃるんですか?
安 私が「e-sportsってなんなんですか?」と聞かれたときには、こう答えることにしています。スポーツという言葉があるとおり、e-sportsはサッカーや野球であったり、普段身近にあるスポーツと一緒で、一生懸命自分のスキルを伸ばす努力を行うもの。その競技の中で選手が使う道具が、サッカーであればボールやスパイク、野球であればバットとグローブ、e-sportsの場合は、キーボードやマウス、コントローラーでそれを行う、という違いでしかないと思っています。
僕はスポーツで一番大事なのは「感動」だと思うんです。選手が何かに向けて真摯に努力をするというところで、他のプレイヤーも、見ている観客も、それに協賛している企業も心が動く、そういったスパイラルがどんどん広がっていき、大きなムーブメントを引き起こしていく。それがe-sportsであると考えています。
―― 日本でいうカタカナ三文字の「ゲーム」とアルファベットの「GAME」はニュアンスが違いますね。日本では「ゲーム≒ファミコン」というイメージが強くて、海外の場合は「GAME」が「競技」であったり「試合」という意味も持っています。ゲーム競技を「e-sports」と言う流れがでてきたんですが、「e-sports」という言葉を使う側が「これがe-sportsである」という定義をしっかりとできないうちに、言葉が一人歩きを始めてしまったのかな、と。
安 「Counter-Strikeがe-sportsである」とか「Dead or Aliveがe-sportsだ」というのではなくて、e-sportsというのは、もっと広いものであるべきだ、あってほしいと思っています。4歳の子供ができるe-sportsもあるでしょうし、高齢の方ができるものもあるでしょう。そういうところで、「こうでなければe-sportsではない」とか「こうだからe-sports」というものではなく、それぞれのパートで競技できるものがある、それがe-sportsだと思いますね。これについての定義付けを細かくやろうとするというのは、あまり大事なことではない、と思っています。
―― それでは今後、テクノブラッドさんは日本ではどういう展開をお考えですか?
安 e-sportsという言葉も含めてなんですが、まだまだWCGなどの大会の認知度はそんなに高くはないと認識をしています。その中でテクノブラッドとしては、まずはWCGの運営をしっかりとしていきます。日本における規模をどんどん大きくしていって、WCGの中に日本のコンテンツを持って行きたい。大きな会場でトーナメントがあって、そこにメーカーの展示会があって、BYOC(Bring Your Own Computer:自分のPCを持ち込んで遊ぶLANパーティー)というような、いわゆるユーザー参加型のイベントをいれて、メーカーとユーザーのコミュニケーションをとる場所を提供していきたいと考えています。
―― 最後にWCG2005に出場する選手たちに一言お願いします。
安 「Counter-Strike:Source」の4dN.PSYMIN、「Dead or Alive2 Ulitimate」のコニダッシュ選手、活忍犬@神々の宴選手とも、ぜひ入賞してもらいたいですね。世界に日本のプレイヤーの名をとどろかせるためにもがんばっていただきたいです。
インタビューはテクノブラッド社内にてWCG2005日本予選終了後に収録させていただいた。右はイベントMCとして有名な中島(Bravo7)氏。WCG2005日本予選ではディレクターとして運営を行っていた
「ゲーム大国日本」が「ゲームプレイヤー大国日本」になるためには
「ゲームをプレイする環境を企業が整えてくれる」。ゲーマーにとっては夢のような話ではある。だがどんな企業も無償でお金や道具を与えてくれるわけではない。企業にスポンサードしてもらう以上、そこになんらかの利益を還元していかなければならないのは明白だ。株式会社PSYMINは「環境」を提供する見返りとして4dN.PSYMINに「世界一の座を手に入れること」を求める。IntelやnVidia、サムスンといった世界をマーケットとにしている大企業からのスポンサードを期待するならば、世界で人気のあるタイトルでナンバーワンの座に座り続ける必要があるだろう。そして、そのためには日々の弛まぬ努力が求められる。現在、いくつかのゲームチームは、企業のスポンサードを受け始めてはいるものの、生活の全てをそのお金でまかなえている状態ではない。
世界一の座に着くためには、プレイに専念できる環境が必要であり、その環境を求めるためには、世界一の座に着かなければならない。他国ではそういった流れがすでにできつつある中で、日本では鶏が先か、卵が先か、というジレンマに陥りつつあるような気がしてしまう。「結果が全て」のシビアな世界ではあるが、選手層の増加がそのまま国内レベルの上昇につながることは明白。一人でも多くのプレイヤーが「ゲーム競技」の世界に入ってくることを熱望してやまない。
スキルの底上げ、ゲーマーに対する偏見の改善、健全なビジネス感覚の保持、そういったものが少しずつ浸透してきたときに、「ゲームプレイヤー大国」日本の姿が浮かび上がってくるのではないだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.