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FPSゲームシーンを変えた「MOD」カルチャーが日本に浸透する日IGDA関西 スペシャルセミナーリポート(1/2 ページ)

12月2日、立命館大学で開催された国際シンポジウム「DIEC2005」の翌日、「HALFLIFE」シリーズでおなじみのValve社のDesign Lead、ロビン・ウォーカー氏が超人気FPS「Counter-Strike」の和製MOD「カウンターストライク ネオ」を前に、ユーザーコミュニティとMODの可能性についてセミナーを行った。

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ユーザーがゲームのすべてを変える「MOD」カルチャーの魅力

 日本ではなじみの薄い「MOD」とは「Modifay」から派生した言葉で、ユーザーが開発元から提供された開発用SDK(Software Debelopment Kit、ソフトウェア開発キット)。いわば「メーカー公認ゲーム改造キット」を使用して新たなPCゲームを作り出すというもの。FPSの創生期に登場したidソフトウェアの「DOOM」から始まり、現在は「Quake4」や「HALF LIFE2」、「Grand Theft Auto(GTA)」などのMODが数多くリリースされている。

 MODの中で有名なものとしては、「HALF LIFE」MODの「Counter-Strike」があげられる。「Counter-Strike」は、2人の大学生が基本のシステムを構築しオンライン上で公開したところ、世界中の「HALF LIFE」ユーザーに支持され、現在のブームを巻き起こした。

 その後「HALF LIFE」開発元のValve社が権利を買い上げ、販売されることとなったわけだ。「Counter-Strike」は99年に最初のバージョンがリリースされて以降、ユーザーの声を受け取りながら21回のバージョンアップが行われ、そして現在もなお進化を続けている。

 先月シンガポールで開催された「World Cyber Games」でも試合が催された「Counter-Strike」は、世界中でもっとも多くのプレーヤーが存在するFPSの1つといえるだろう。

 MOD制作の方向性は様々で、オリジナルプレイマップの作成から、自キャラクターの外装を「人気アニメロボット風」や「アイドル風」に変えるものや、ゲームルールをオリジナルで設定するものまで、数え切れないほどのMODが世界中でリリースされている。

 しかし、この流れは海外、特に欧米圏が盛んで、日本では今ひとつ認知されていない感がある。一定以上のプログラムやデザインなどのスキルが必要なのはもちろんのこと、マニュアルやツールがすべて英語で表記されているために、ハードルが高く感じてしまうのが理由なのだろう。

 近年、日本でも有志によって作成されている「カウンターストライクエンジニアリングセンター」をはじめ、日本語版MODコミュニティーが活発な動きを見せ始めている。

 また、現在日本各地のゲームセンターに設置されはじめている「カウンターストライク ネオ」も、「HALF LIFE」のMODのひとつで、こちらはナムコがValve社とライセンス契約を結び、「アーケードで楽しめるCounter-Strike」という位置づけで開発されたものだ。


1998年にリリースされた「HALF LIFE」。今となっては若干見劣りがするかもしれないが、当時は一大ブームを巻き起こした

ユーザー発のMODゲームとして、世界的なブームを巻き起こした「Counter-Strike」。現在は、HALFLIFEエンジンを使用したCounter-Strike1.6とSourceエンジンを使用したCounter-Strike:Sourceの2バージョンが存在している

HALFLIFEエンジンのCounter-Strikeを、さらにアーケード向けにカスタマイズしたナムコの「カウンターストライク ネオ」。マップデザイン、キャラクターの外装、武器などに変更が加えられている

HALFLIFEのMODメーカーの立場から、HALFLIFE2リードデザイナーへとたどり着いた男、ロビン・ウォーカー

 12月3日、京都ワンダータワー6F「LEDZONE京都」において、IGDA関西 スペシャルセミナー&イベント with Valve's ロビン・ウォーカー『ユーザーコミュニティを巻き込んだ北米型ゲームの今〜「カウンターストライク」はユーザーが生みだした』が行われた。(前日行われた国際シンポジウム「インタラクティブ・エンタテインメントの歴史と展望」についてはこちらを参照のこと)

 まず、IGDA日本代表の新清士氏によって「カウンターストライクを生み出した『MOD』とは何か」という簡単なレクチャーの後、MOD制作者から、Valve社へ、そしてDesign Lead就任というシンデレラストーリーを駆け上っていったロビンウォーカー氏の講演が始まった。


「HALF LIFE」シリーズの開発を行う「Valve」社のDesign Lead、ロビン・ウォーカー氏。96年に知人で開発した「Quake」ベースのMOD「Team Fortress」を発表、その後、98年、Valve社に入社。現在は「HALF LIFE2」の 拡張パック「Half-Life 2:Aftermath」を開発中

 まず、ロビン氏は、自らの体験を踏まえた上で「なぜMODを作るのか」ということから語り始めた。現在、アメリカの一部の大学では、ゲーム開発の手法を学ぶための教材としてMOD開発が行われていることや、ゲーム開発者になるためのケーススタディとして、MODの制作は最適であることをアピール。

 「MODを開発するためには、“デザイン”、“エンジン”、“ツール”が必要で、“巨大なチーム”、“MOD用のウェブサイト”、“マーケティング”などは不要だ」という。ゲーム開発の中で、もっとも手間のかかる「エンジン」と「ツール」は公開されているため、MOD制作を行うためにはその基本設計デザインのみで事足りる、というわけだ。

 良いMODを作るためには「“人々は自分のMODをプレイしてくれるか?”、“自分のMODは新しい何かを経験させられるのか?”といった自問自答を繰り返していくことが重要だ」、そして「デザインはもっとも手軽な差別化である」、「商業的な心配は不要である」、「違っているだけでいいわけではない」、「著作権を侵害するな」、「あなたのできることでデザインをすべきだ」、「まずは、簡単な最初のバージョンをデザインする」といったことに気をつけてほしい、と訴える。

 また、エンジンの選択は、「自分のゲームデザインにフィットするものを探すべき」であり「そのエンジンに何ができるか、どのくらい出荷されているのか」、「ツールをどうやって手に入れられるのか」で、考えるべきであり、それは「HALF LIFE2」エンジンが最適だ、と笑顔で続ける。

 「もし、1人ですべての作業を行えるのであれば、それがベスト。自分のMODを作るために足りない人材に気がついたら、そこで改めて人を増やせばいい」、「リソースにあわせたデザインを進めるべきだ」という商業ゲーム開発とは少し違ったスタイルをロビン氏は推奨している。


「HAMMER Level Editor」でマップを制作しているところ。見た目は複雑そうだが、簡単なマップであれば、ある程度の練習をすればすぐに作ることができるという

 実際にMOD制作を行う上で、ロビン氏がもっとも強調していたのが「可能な限りリリースを素早く行うこと」だとか。ロビン氏の制作したクラス制(それぞれのキャラクターに職業が設定されている)FPS「Team Fortress」では初回のリリース時にはキャラクターの差別化がなされておらず、バージョンアップを重ねるごとに、クラスを追加していた、という。また「Counter-Strike」も最初は攻撃、防衛側に特色がなく、武器なども徐々に変更されていった。

 ロビン氏は最後に「絶えず、ゲームをバージョンアップし続けてほしい。プレーヤーたちは発展するゲームの証人になりたがっているからだ。そして、そのバージョンアップは常に、過去のものよりも優れているはずだから」と、ステージを締めくくった。

 これは、ゲームが完成された状態でなければリリースされることが許されないパッケージゲームとは異なり、常に進化しつづけることを前提としているMODの強みと言えるだろう。

イベント後、ロビン氏にいくつか質問をさせていただいた

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