ロジックでもテクニックでもない、“声”が決め手のピンボール:「大玉」レビュー(2/2 ページ)
戦国時代が舞台のピンボールとは、また奇矯な……。でも、大玉がただ奇をてらっただけのゲームでないことは、プレイするうちに少しずつ分かる。玉を自在に操るテクニックや、兵を優位に進軍させる戦術も必要だが、最後の最後は“声”が勝敗を分けるところが斬新に思える。
知らず知らずに「押せ、押せー!」と大声を張り上げている自分
数知れないほどコンティニューを繰り返しながら、少しずつだがようやくコツが飲めてきた。ステージが進むにつれて、大玉を目的の場所に正確に打ち分けるテクニックもさることながら、フィールド上の地形やアイテムをいかに活用するか、待機兵をどのタイミングで出陣させるかなど、戦略性も要求される。その組み立てがうまくいくと、何度トライしてもクリアできなかったステージがあっさりクリアできたりするので、“お屋形様の采配ぶり”が問われることにもなる。
アイデアとして特に秀逸だと思ったのが、釣鐘衆が運ぶ「任天の鐘」が自軍の反転攻勢のキーアイテムも兼ねているということ。例えば、敵陣営に押され気味のとき、この鐘に大玉をぶつけると「ゴーン!」と大きな音とともに衝撃波が広がり、敵兵だけが一定時間気絶する。また、ハート型のアイテムを拾うと任天の鐘が白く輝き、この状態で大玉をヒットさせると、大玉が一定時間だけ「天の玉」に変化する(緑色のアイテムを拾った場合も「天の玉」になる)。この「天の玉」は、敵兵に触れると拿捕して自軍の待機兵にしてしまうという効果があり、味方兵には被害を全く与えない。大玉で敵をダイレクトに倒すだけでなく、鐘を鳴らすことが不利な形勢を逆転するきっかけにもなっている。
また、フィールド上の兵にときとして人間くさい一面を感じることも、このゲームの大きな特徴といえるかもしれない。拡大してみるとポリゴン数は極端に少ないし、モデリングがていねいとはいえないのに(あえて狙っている感もあるが……)、彼らの動きを俯瞰していると、何かの意志を持って動いているように感じることがある。例えば、大玉がゆっくりしたスピードで近づいてくるとき、大抵の兵はそれを避けようとするが、逃げ遅れてつぶされてしまう兵が決まって出てくる。
音声コマンドに対する兵たちの反応も、見ているとなかなか興味深い。大玉では兵たちのモチベーションが“信頼度”として表示されていて、信頼度が高いときはプレーヤーの指示におおむね従うが、操作ミスで自軍に多大な犠牲を出したり、理不尽な命令を繰り返すと信頼度が大きく落ち、命令しても不平を漏らしたりする。おもしろいのは、たとえ信頼度が低くても、同じ指示を何度も繰り返すと聞き入れてくれることがあるというところ。士気が高揚するのか何なのかわからないが、こういう場面に出くわすとゲームの中の兵たちに奇妙な愛着がわいてくる。もしかして、これこそが“任天道”の神髄なのか!?
このちょっとアナログな感覚が、同じゲームキューブの「ピクミン」をプレイしているときのそれと少し似ているような気がした。プレーヤーが引き連れたピクミンたちが、強大な敵の前にあっけなく大量死してしまったときのはかなさ。まれに隊列からはぐれて、どこかでぽつんと取り残された者を思うときの寂寥感。大玉で大勢の兵がプレーヤーの采配に振り回される様を見ていると、それと同じような気分になってくる。
数値では割りきれない何かをおぼろげに感じさせるせいなのか、大玉をプレイしていると無意識に声を張り上げていることに後から気づく。初めは声で指示するのが何となく気恥ずかしいくらいだったのに、いつしか「押せ、押せー!」と大声を張り上げている。音声コマンドは特定の単語を音声認識しているだけだから、声の大きさは関係ないはずだが、何度もゲームオーバーを繰り返しているだけに、「とにかく兵に動いてほしい」、「勝ちたい」という気持ちがそうさせる。大玉を延々とプレイし続けたあくる日、わたしの声はかすれていた……(笑)。
全ステージクリアの達成感はこのうえなく大きい
大玉でもうひとつ興趣に思えたのが、サウンドだった。音声自体がサラウンドに対応しているわけではないが、プロロジックIIxのサラウンドアンプを通すと、「どどん、どどん」という太鼓のシンプルなBGMに、鳥や蝉の声、任天の鐘の音、兵たちの勇ましい掛け声など、いろんな音が渾然一体となって響き渡って雰囲気を盛り上げる。それに、なんといっても“秀爺”のお声が聞き物。メニュー画面のまま放置していると、「何をぐずぐずしておられるか、お屋形様!」と叱られてしまうなど、収録されている台詞のバリエーションがとても多い。
キャラクターのポリゴンが少ないことは別にして、映像面でもちょっと凝ったことをしている。例えば、同じステージでも天候が雨だったり雪になったりするし、時間が経つ(残り時間が少なくなる)と日が暮れてきて、あたりが徐々に暗くなっていくという仕掛けもある。
先述の通り、難易度はかなり高めなので、全ステージをクリアするまでに相当苦労させられたが、ステージごとに試行錯誤しながら戦略を練るのがおもしろく、エンディングではここ最近なかったほどの達成感に浸れた。最初のさわり程度で受けた印象とクリア後の印象がこれだけ変わるゲームというのも、ちょっと珍しい。特に、最終ステージのある仕掛けには本当にたまげた。あえて言わないでおこうと思うが、あれには作者流の風刺が込められているのかな、と……。
想像よりも楽しめた、というのが素直な感想で、「ピンボール風アクションゲーム」ではなく「人海戦術落城アクション」というジャンルも言い得て妙だなと思う。初めはマイクも使うことに抵抗感を覚えたが、いま思うと指示コマンドをボタンに割り振らずに、声を用いたのは正解とさえ感じる。もしも「押せ、押せー!」がボタン連打だったら、兵たちとの一体感が薄れたかもしれない。声のことだけに限らないが、任天堂の次世代機が目指す方向性をちらっと垣間見たような気がした。
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