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少数精鋭で描く“幸せな世界”はこうして生まれた――「LocoRoco」事後分析GDC 2007

「幸せ」の方法を教えてくれるところがあるという。「LocoRoco事後分析: 幸せをゲームプレイに」と題されたそのセッションでは、幸せをそっと織り込んだ「LocoRoco」開発の道程と苦労が語られた。

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 「LocoRoco」は、プレーヤー自身が「惑星さん」となり、PSPのLボタンとRボタンを傾けて、歌が大好きで個性が違う6種類のLocoRocoを動かして惑星を守るというもの。ボタンひとつで分裂したり合体したりと、形を変えながら目的に向かって進む姿は、確かに“幸せ”のひとつを体現しているともいえる。なお、タイトルの語源は、河野氏がなんとなくハワイっぽいロコモコやマヒマヒのような言葉が好きだからとのこと。

 現地時間の3月8日、「LocoRoco事後分析: 幸せをゲームプレイに(A LocoRoco Postmortem:Making Happiness into Gameplay)」と題して行われたセッションには、本作ディレクターでゲームデザイナーの河野力氏が登壇。「LocoRoco」のコンセプトとそこからどう発展させていったのか、そしていかに製品として完成させたのかを紐解いてみせた。

ソニー・コンピュータエンタテインメント 河野力氏

 河野氏はソニー・コンピュータエンタテインメントに入社して10年、「レジェンド・オブ・ドラグーン」や「ICO」のレベルデザインを手がけ、2004年に構想を練るに至ったと紹介する。アイディアは通勤中であろうともすぐに書き出せるようにPDAに書きためていたという。

 「LocoRoco」を作るに当たって、3つのゲームコンセプトがあったと振り返る。それはなぜ本作を製作することになったのかにも関係する。まず、複雑ではなく大作感がなく、初心者も入りやすくかつ操作も「シンプル」で、AIを駆使して笑えるくらい「可愛く」、そして2Dでも3Dに見劣りしないよう物理計算で描画し、「ドラマチック」に見えるようにしたかったと語る。

きっかけは通勤での落書き

 きっかけは3年前。通勤電車のPDAにひとつのイラストが描かれた。この5分で描いたキャラクターからさまざまなアイディアが浮かび、さらにPDAがPSPに似ていると想像できたと振り返す。この書きためたアイディアを会社で手が空いたスタッフに相談し、1週間くらいでデモを製作。その後、それを見せ意見を聞くなど、企画進行に役立てることにした。この時、すでに「LocoRoco」の気持ちよさが再現されていたという。

こうした企画案を提出するも当初はあまり芳しくない反応だった

 しかし、簡単ではなかった。1回目の企画プレゼンで失敗し、2週間後に行われた2回目のプレゼンでも「キャラクターを転がすことはシンプルだが、AIが絡むことで具体的にどうなるのか」が説明することができず、却下されたと打ち明ける。その後、1カ月の期間を経て、プログラマーとデザイナー2人と計4人でデモを製作。この時、ゲームの方向性が決まったとのこと。迎えた3回目のプレゼンでは、スムーズに企画が通り、河野氏は「こういうゲームはデモを作らないといけない」と学んだ。

2004年から開始した開発も実質、コンセプトなどは短期間で練り上げられたことが分かる

 こうして晴れて企画が動きだす。打ち合わせはファミレスなので行うほどの少数での始動で、河野氏もコストを抑えるために望んでそうしたと説明する。とはいえ、当初5人くらいで作ろうとしていたものも、最終的には16人に膨れたと明かす。

 次に「LocoRoco」の作り方に言及。あの世界観を構築するまでにはさまざまな試作が行われた。まず、画面のテーストを検討するために、粘土のタッチや紙や絵本の質感などを活かせないかと挑戦してみたが、最終的に背景はベタ1色(一部半透明も)でデザインすることに。これは製作工程上、人数を抑える意味もあるし、ゲーム画面っぽくしたくなかったという意味もあった。また、それは他タイトルとの差別化や海外で受け入れられる意味合いもあった。

自宅で飼ってたインドカエルウオがスケッチされて……

 2Dになった理由も、シンプル=分かりやすさだった。こうすることで、見劣りしないデザインを作る励みにもなったと河野氏。キャラクターは表現させたい表情があってからデザインしたとも。実際、キャラクターは自身がテレビ番組や動物を見ているそばからPDAに落書きして誕生したものも多いという。例えば、自宅で飼っていたインドカエルウオという熱帯魚がキャラクターとして採用されている。その後、どういうふうに動くのかを仕様書にそってフローどおりにプログラム化していくわけだ。


このようにステージのギミックが整然と並ぶ。確かに簡単そうで直感的に作業ができる

 ステージも基本的に同じで、書きためたものを並べるように作っていく。「LocoRoco」の場合は、紙に設計図を書いてからMAYAなどで3Dソフトでモデリングしていくが、設計図をイラストレータで書き、それをMAYAに持っていきポリゴン化して地形データにしている。レベルツールにギミックを登録していれば、共有化しているので誰でも使えるようになっている。これは、デザイナーが思ったとおりにその場でモデリングして、アニメーション機動など1人でできるようになったことが利点という。

 本作は他にも音楽での挑戦も行ったと、キャラクターがプレーヤーの行動に則して変化していくことを表現したく、メインパートとコーラスの3パートがそれぞれ割り振られている。ちなみに、6種類のLocoRocoは6人分のレコーディングがされており、キャラクターが変わるとコーラスまで変わるようにしたと説明。このため、通常の6倍の時間と手間をかけたとうなだれる河野氏だが、あくまで20匹分の多さを出せたと自信をみなぎらせる。曲はキャラクター6人いて、それぞれ8曲――つまり48曲用意されている。

キャラクターそれぞれの個性に合わせて、口の動き方まで違う

 曲もイメージに合わせながら、普段ゲームで使わないジャンルを入れるように心がけたり、歌詞を考えるのに電車の中での白い目で耐えながら製作したなど、製作段階の裏話も披露する。

 世界でも通用する独自の音楽になったことは自信にもつながり、新しいものを作る励みにもなったと振り返る。今後は河野氏は、「物理計算でキャラを動かし、群衆のAIの違う使い方を考えている。複数のキャラクターが協力してなにかをし、音楽の使い方では、次の『LocoRoco』に入れようとしているものがあるので楽しみにしてほしい。きっと新しい遊ぶを提供できるし、世界中の人を驚かせたいと思っている」と、続編について多くは語らずとも肯定し、またGDCに訪ねられるよう頑張りたいと締めくくった。

この画面に並ぶLocoRocoたちは河野氏の奥さんによる手作りだとか。このへんからの幸せは溢れている?

 河野氏は本作の反応を東京ゲームショウで確認し、やっと実感ができたと語る。比較的短時間で基本的なコンセプトが決定し、途中頓挫しかけながらもこうして順調に完成し、発売できたことは、まさに幸せなことだったと思う。先日の任天堂の近藤浩治氏も言及していたが、音楽はキャラクターを知り、ゲームそのものを知った人間が作るべきであろう。そういう意味でも、もっともゲームを知る河野氏がこだわった音楽を含めた世界観は、少数精鋭だからこそ完成したものなのかもしれない。

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