五十嵐孝司氏「2Dゲームよ永遠であれ」――2Dゲームの未来はどっちだ?:GDC 2007(2/2 ページ)
3Dゲーム全盛の今、あえて2Dゲームにこだわる「キャッスルバニア」シリーズプロデューサー 五十嵐孝司氏がGDCにおいて万雷の拍手に迎えられ「The Light and Dark Sides of 2D Game production(2Dゲームの光と闇)」と題したセッションに登壇した。
アニメーションについて
ゲーム製作におけるアニメーション表現についても言及した五十嵐氏は、ドット絵で描くものと、3Dモデルとモーションで描くという2つの公式があるが、ドット絵は作業工程が短く、3Dモデルとモーションは長いと一般論を述べる。
テストケースとして、横視点のゲームで中型サイズの敵を作成した場合、「待機」と「歩き」と「攻撃1」と「攻撃2」、「ダメージ」、「やられ」の6つのアニメーションパターンを製作した場合、2Dはだいたい4日くらいで打ちこんでいくのに対し、3Dになると約8日(モデルに4日、ボーンアサインに1日、モーションに3日)と、単純に倍かかると例を挙げる(テストケースでは6つだが、これが増えていくと単純に2Dでは倍になり、3Dではモーションのところだけが増加してい)。
2Dのアニメーションのメリットは、作業工程が短いということと、元々絵で描いて表現するので、ありえないダイナミックな表現をすることができる。これは、3Dだとボーンが入っているので難しい。しかし、2Dのデメリットもある。それはアニメがなめらかではなく、種類が多くできない点にある。また、作業工程が純粋に倍になる点もデメリットだ。直接、絵で表現するので、個人の絵の技術も出る。
さて、これらのドット絵での表現の際、ニンテンドーDSならばまだしも、いわゆるハイデフなどでのドット絵ではどうなるのだろうか?
グラフィックスの性能が上がり、より細かいレゾリューション(解像度)で表現できると、2Dは非常に不利になる。単純に256×240だったものが、1024×960になるわけで、ドットを置くだけで16倍かかる計算になる。五十嵐氏は以前、プレイステーション 2でドット絵の実験をしたというが、非常に時間がかかったと振り返る。その時の実験では、グラフィックスがきれいになるものの、アニメーションがなめらかでないと違和感を感じたのだそうだ。ドットを置く時間もかかるし、さらにアニメーションも増やさないといけなくなり、作業が激増すると、ハイデフマシンではドット絵と別のアプローチが必要と痛感したのだとか。
元々、ドット絵は少ないレゾリューションで絵を表現するという技術だ。レゾリューションが上がれば、絵そのものを表現できると割り切り、2Dをアニメーションを製作する方法論で表現するのもひとつのアイディアと五十嵐氏は、他業種の方法論を持ち込むことも奨励する。ただし、ゲームのアニメーションを知らないと、ゲームの動きを理解していないものが提出されてくることもあるため、指示などでジレンマを感じるとリスクもあることしている。
プログラム的側面
では、2Dはプログラム側面から見ての利点はなんなのか? それは、カメラの概念がないことにほかならない。昨今のゲームはカメラワーク演出がすべてといっていいほど、カメラワークの善し悪しでゲーム性は大きく変わる。2DはX軸とY軸のことしか考えなくていいのが利点と五十嵐氏は語る。
開発者を悩ます3Dのカメラの要素を省けるメリットは、2Dゲームならば横とか上に置いている状態なので、カメラワークを考慮する必要ないし、処理も軽くなるというのだ。この2つの要素から、完成イメージがしやすい点もメリットだろう。プログラマー間の完成形のイメージが共有しやすく、会話が苦手なプログラマーには有効だと嘯く。
しかし、もちろん問題点もある。カメラが固定されているために、演出面で単純に3Dに劣ってしまう。特にゲームの中の演出は、エフェクトに頼るのみで、カメラアングルを変えたりする演出ができない。また、2Dゲームは旧世代の技術を多用しているため、最新の技術から遠のく傾向も否めない。旧世代の技術というのは技術的には円熟しており、進化の伸び幅が少ないことを意味する。
- 2Dはゲームのプログラムを組みやすく、3Dは演出のプログラムを組みやすい
チームの運営では?
2Dゲームは、3Dゲームと比べ作業効率を少なくできる。チームの規模を小さくでき、コスト削減できるメリット以上に、チームのモチベーション維持もしやすい。「CASTLEVANIA:Portrait of Ruin」では最大20人のスタッフを擁したが、それでも規模的には3Dの半分以下だろう。五十嵐氏は、理想は10人くらいのチームがいいとのこと。
さて、なぜ規模が小さいとモチベーションが保てるのだろうか? それは作業の細分化と関係があるとのこと。2Dデザインの場合、少数での開発となるため、背景を1ステージ、もしくはエリアすべてを担当することになる。敵の場合は1体単位で担当者がつくのがザラだ。しかし、3Dの場合、街の一部屋単位であったり、ステージにしても何人かで分担することになる。敵においても作業量が増えるという観点から、モデル、エフェクト、モーション担当と細分化する。作業量が増えると仕事の細分化が進み、全体像がつかみににくくなり、スタンドプレイがしにくいと五十嵐氏。作業感が強くなることは、作品に対する情熱が持てなくなることを意味し、モチベーションの低下につながると結論づける。これは出来にも影響を及ぼすから始末が悪い。
では、大規模プロジェクトではどうしているのか? 五十嵐氏は、あくまでも一般論として以下の2つの例を示す。まず、チームの中を細分化して管理者を置き、末端のスタッフには作業のみをしてもらうというもの。もしくは、チーム全体に情報が行き渡るように、情報の伝達するインフラを整備し、常に何を作っているのかを認識させるという方法論だ。しかし、往々にして前者は終わったあとに必ずスタッフから不満が爆発することになり、後者は、インフラが整っても徹底できずに仕事に追われ、作業情報を確認できないという話が出てくるという。そして、必ずといっていいほど、スタッフからは「企画の段階から参加させろ」と言われるのだとか。
大規模プロジェクトの場合、最初からすべての人員を投入するのは基本的に不可能に近い。しかし、小規模な場合、企画の段階から投入できるのが利点としながらも、もっともモチベーションを上げるには、「いい作品」になっているという実感に他ならないと、前提を忘れるべくではないと説く。
2Dゲームは利点も多いが、やはり市場と技術に問題を抱える。2Dゲームは一般ユーザーにはあまり歓迎されておらず、市場的にもプレイステーション 2以降は、3Dゲームに比べると縮小している。ゲーム的に評価が高くても、2Dゲームは3Dゲームほど爆発的に売れるかといえばそうではない。となると、あまり売れないことに対してモチベーションの維持に問題が生じてくるそうだ。
また前述したとおり、技術的問題として、2Dゲームはやはり旧世代の技術であることもデメリットとして起因することがある。というのも、3D技術は日々新しい技術に挑戦しており、2Dでは取り残されてしまい、キャリアアップの点で不安が出るというのだ。プログラムだけでなく、デザインでも同様で、ドット職人が激減するという自体も発生していると内情を明かす。次世代ゲーム機が出た昨今、それは顕著に表れており、限界ある表現方法に魅力を感じられず、かつ特殊な技能職であるドット絵職人は、熟成した技術が必要とハードルが高くなっているという深刻な問題が発生している。
現状、五十嵐氏のチームは、よいゲームを作り市場に出し、評価を受けることでチームをつなぎ止めているとのこと。
五十嵐氏は総評として、先行き不安なことも語っているが、2Dゲームで重要なタイミングと距離での遊びは、決してこの世からなくなることはないと考えていると語る。
「今でも格闘ゲームなど、シビアな当たりを持つゲームにとっては、必要不可欠でアクション本来の遊びだと思っているし、市場的側面からもニンテンドーDSの普及やXbox Liveアーケードやバーチャルコンソール、モバイルゲームなどの市場は開けています。むしろ、ゲームに時間をかけられない人が増えている昨今、2Dの需要は見込めるんじゃないかと推測しています。コスト的に有利な2Dゲームは、制作費が無限に増えていく昨今のゲーム製作にとって、希望の光なのではないでしょうか?」(五十嵐氏)
最後に五十嵐氏は、高らかに「2Dゲームは永遠である!」と宣言し、会場から大喝采をあびて講演を終えた。
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