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海外へのローカライズは連想力?――「押忍!闘え!応援団」→「Elite Beat Agents」GDC 2007

会場に突如出現した応援団。今回GDCに招聘されたイニスの矢野慶一氏を応援するためにはるばる海を渡ってやってきたらしい。今回のセッションでは、日本特有の文化を扱った作品をいかに海外でローカライズするかが語られた。

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応援団→黒い服→ロックバンド→映画→エージェント

「押忍!闘え!応援団」の開発ディレクターで開発会社イニスの取締役副社長の矢野慶一氏(左下)。後ろにはしっかり応援団が控える

 セッションは2人の応援団による“応援”から始まった。「押忍!闘え!応援団」を開発したイニスの取締役副社長兼開発ディレクターの矢野慶一氏のセッションの無事と成功を祈っての心をこめた応援だった。

 過去、日本の文化を海外で紹介する際、多分に誤解が発生し、日本人から見てまったく見当はずれなものとして認識される事例をよく見かけることがある。それはサムライであり、芸者であり、忍者であり……。応援団も日本独自の文化といっても過言ではない。海外にはチアリーディングなど、“応援する”という行為をする団体は存在するものの、黒い学ランを羽織り、いかつい男達が独自の手法を駆使して声を枯らして応援する姿は、海外から見ると滑稽に見えるかもしれない。しかし、“応援する”という行為をゲームに出来ると考えた矢野氏は、以前から温めていた「音楽を取り込んだゲーム」に「応援団」を加えることを思い立つ。それが、E3ではじめてニンテンドーDSを見た時である。

 今回、GDCで矢野氏は、「押忍!闘え!応援団」をいかにして海外向けにローカライズし得たのかを、「From “Ouendan!” to “HELP!”: Inside the Elite Beat Agents」(「『おうえんだーん!』から『HELP!』へ:Elite Beat Agentsの舞台裏」)と題してセッションを行った。ちなみに「押忍!闘え!応援団」は、海外では「Elite Beat Agents」というタイトルになっている。応援団からエージェントへ――その変遷を辿る。

海外に応援団とはなんぞやと説明する。欧米の方々は理解できたのだろうかは謎

 まず矢野氏は、応援団を説明する。アメリカの開発者たちには馴染みのない応援団は、奇異に見られるだろうが、その心に持つ“熱”に関しては分かってもらえたようである。仲間で応援する応援団の姿は、ほかの音楽を扱うゲームとはあきらかに独創的で、ニンテンドーDSならではの機能を存分に使うものとなっていた。結果、本作は日本でも評価され、海外での賞獲得を受け、欧米での発売へと展開していった。

 しかし、ここで応援団のコンセプトが、欧米のユーザーには分かりづらいという問題点に行き当たる。そこで、連想ゲームがはじまった。応援団に近いものはなんなのだろうかと。劇画がもっとも似合うと思われた応援団では、それすら欧米では通用しないと、なかなかローカライズにはハードルが高いと思われた。

 矢野氏は、応援団の外見的特徴ともいえる学ラン=黒い服に着目する。黒い服でいかついおにいさん達……ということで、ロックバンドの「モトリークルー」に行き着いた。モトリークルーならば欧米でも分かる人がいるだろうと、そこに応援団を掛け合わせたところ、矢野氏の中では「ヴィレッジピープル」が浮かんでしまったと明かす。 彼らをベースにキャラクターを考えてみたが、まさに迷走としか言えず、そもそも誰も「ヴィレッジピープルになりたい人なんていない」と気がついたのだとか。

こうして「Elite Beat Agents」に!

 矢野氏の流ちょうな英語で会場が笑いに包まれながら連想は続く。では、こんな野暮ったいものではなく、同じく集団で目的に向かって進み、黒い服の奴らは……と、発想して映画の「ゴーストバスターズ」や「メン・イン・ブラック」、「ブルースブラザース」からついにエージェントという存在に行き着いたらしい。

 そこに「オースティン・パワーズ」のグルーブ感と、彼らエージェントに指令を与える「チャーリーズ・エンジェル」のチャーリーのような役割を持つキャラクターを加え、「Elite Beat Agents」へと行き着いたと解説した。


確かに彼らになりたいと思えるかといえば……ない。しかし、連想でなぜ「ヴィレッジピープル」が浮かんでしまったのだろうか……
さまざまな要素をプラスしていき徐々に「応援団」から「エージェント」へシフトしていく

 こうして欧米のユーザーでも理解できるローカライズがなされ、海外でも結果を残すことができたと矢野氏。それは次回作への展開という副産物ももたらされた。現在、イニスはシリーズ第2弾となる「燃えろ!熱血リズム魂 押忍!闘え!応援団2」を2007年中発売を目指し開発しているという。次回作にはライバルともいえる「西園寺」率いる青の学ランを着込んだ、男前のキャラクターが登場することも明かされた。他プラットフォームへの移植なども積極的に押し進めたいとのこと。

やけにクールなキャラクター。海外からの要素を逆に取り入れていく姿勢が見れる

 日本から海外へのローカライズの際、ただ言語を対応させるだけに留まるゲームも多い中、本作のように文化の違いを理解し、その地域に合わせた変更というのは、なかなか思い切りが必要なことだろう。大きな市場へと作品を投入する際、矢野氏のようなリサーチと連想力が、海外展開でのリスクを減らすひとつの方法であることを示せたのではないだろうか。

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