きらめく萌えの背後に隠された質実剛健さを読み取れ:「シャイニング・ウィンド」レビュー(2/2 ページ)
「シャイニング」シリーズ中でも歴代最高と呼べるほど萌え路線を突き進んだシャイニング・ウィンド。だが、この作品をそれだけで割り切ってしまうのは正しいのか。萌えの背後に隠された見えざる意志にこそ、制作陣に真意が込められているのではないか。
アクションRPGとして見た場合の絶妙のリズム感
「シャイニング・ウィンド」をプレイした時、おそらく最初に感じるのは、テンポの良さだろう。とにかくサクサクとステージが進んでいくのだ。ゲームは冒険モードと呼ばれると戦闘に分かれており、冒険モードで買い物や会話イベントを行い、戦闘をクリアすることでストーリーが進むという形式になっている。戦闘をいくつかクリアすると、フェイズ(「シャイニング・ウィンド」における章)が終了するのだが、プレイヤーが寄り道をしない限り、クリアまで1時間かかるフェイズはほとんどない。さすがに最終フェイズは長めだが、序盤のフェイズは短めで、話の展開も速い。
このテンポがいいということ、これが「シャイニング・ウィンド」の面白さを支える第2の理由だ。第1の理由である“明確な企画意図とそれに合致した手法”にこの第2の理由が加わることで、「シャイニング・ウィンド」は、萌え志向のユーザーでも遊べ、それ以外のユーザーでも遊べるゲームとしての面白さを持ち合わせているのである。
テンポの良さはゲームでは極めて重要だが、それをカタチにするのはかなり難しい。コンピュータゲームは数字でできているから、強くしたり弱くしたするのは簡単にできる。だが、プレイヤーのやりごたえ、という点になると、数字で表現できないため、人間の感性が勝負になる。負け続けることによるストレスと安易に勝つことによるダレの双方を回避し、しかも先をやりたい、と思わせる。これが本当に難しい。快適なリズム感を出すためにはユーザーインタフェース、コマンドの配列、画面レイアウトなどのデザイン面など、ゲームシステムと無関係のところも神経を使わなければならない。ゲームのディレクターは、創造性はもちろんのこと、こうした全般に関する調整力を求められる。この調整は本当にシビアで根気がいる。
「シャイニング・ウィンド」は、このバランスが素晴らしい。ゲームを進めていると、これといったチュートリアルもないのに、次に何をすればいいのかわからなくなることがない。仮に迷った場合は、仲間に話しかければOK。ストーリーを進めるための必須イベントが発生している場合は、また、ワールドマップにそのマークが表示される。この2つの方法さえ抑えておけば、詰まることはないだろう。
唯一惜しむらくはマニュアル。これがもっと良ければ、ゲームの遊びやすさはさらに上がったはずだ。特に“ソウルピース”に関する個所は、マニュアルの説明不足が目立つ。システムの中でも大きな要素を持つため、これは正直つらかった。ただ、さすがに中盤あたりまでプレイしていれば、おぼろげながらも何となくわかってくるので致命傷にはなっていない。そして、もっとも肝心なテンポは最後まで落ちない。これは実に見事だ。
さらに成長感覚もいい。RPGを作る場合、1レベル上がった時の達成度は非常に重要だ。ユーザーを満足させる一方で適度な不足感を覚えさせないといけない。満足度が低いとやる気が減退するし、強くなりすぎるとゲームが簡単になってやはりやる気が下がる。「シャイニング・ウィンド」をプレイしていて思うのは、このあたりの上手さだ。レベルアップすると成長ポイントが獲得でき、これをプレイヤーが任意で分配してキャラクターを強化するのだが、プレイヤーの裁量権を認めるとバランス調整はより難しくなってくる。伝統あるシリーズとはいえ、こういう基本的な部分がしっかりしていないと、ゲームは絶対に面白くならない。それをさらっと当たり前のようにクリアしているところが凄いのだ。
リズム感や成長感といったプレイ感覚に関わる部分をきちんと構築しているゲームに駄作はない。好みが分かれることはあっても、出来自体は悪くないのだ。「シャイニング・ウィンド」は、まさにそうした作品といえよう。
低めの難易度の中でいかに戦術にこだわるか
RPGでは、ゲーム時間の大半が戦闘に費やされる。そのため、戦闘システムの出来がゲーム全体の印象を大きく左右する。「シャイニング・ウィンド」は、繰り返し述べたように難易度が低いゲームだ。これはライトユーザーを意識した結果だろう。この場合、問題となるのは戦闘システムとの関係だ。難易度が低いということは、システムにこだわらずともクリアできるということを意味する。簡単なゲーム=底が浅いと思われがちなのは、このことを関係している。「シャイニング・ウィンド」はどうだろうか。
ここでも、職人芸が光っている。戦闘の難易度は低めに設定しながら、戦術性を意識する意味を兼ね備えているのだ。誰でもクリアできるが、戦術を意識すれば、より速く、いい成績でクリアできる。そうすれば、獲得経験値も増えるので、成長も速くなる。レベルを上げずにどこまで進められるか、といった遊び方も可能になってくる。つまり、戦術性への熟練を時間の短縮へと繋げているのだ。
無論、速く解くことがエライわけじゃない。ゲームは自分のペースで楽しめばいいのだから。大切なのは、速く解くことも可能、ということ。十分にレベルを上げ、装備を整えてから戦うべき相手を低レベルで倒せるか。純粋に数字がモノを言う普通のRPGでは難しいが、プレイヤーの操作が加わるアクションRPGでは不可能ではない。やり込み派のプレイヤーによっては大きな魅力の1つだ。難易度を低めにしながら、こうした点をフォローしているあたりが見事である。
戦術性と密接な関係を持つのが、多彩なパートナーキャラと属性だ。このゲームの戦闘は、味方2名と多数の敵軍という構成で行われる。味方は主人公であるキリヤと、任意のパートナーキャラ1名。パートナーキャラは普段はCPUが動かしてくれるが、コントローラをもう1つ繋げれば、2Pモードで操作もできる。低レベルクリアを目指す時など、友達との協力プレイは特に有効だろう。
パートナーキャラには、大別して自分で戦えるキャラと、キリヤを支援するタイプに分かれる。アンデッドに強い、浮遊しているキャラに強いなど、特性を持つ者もいる。戦闘に臨む際は、先にステージの情報を確認して、どんな敵がいるかを見ておくと、相性のいいパートナーを選びやすい。すでにクリアしたステージを再プレイして経験値やアイテムを補充できる“夢幻の鏡”モードでは、1Pだけでもキリヤ以外のキャラクターを操作することができるので、ここでパートナーキャラの特徴を把握しておけば、さらに的確な起用ができるだろう。
属性は火炎や雷撃など、特殊な攻撃に対する耐性で、防具の選択において重要になる。防御値は低くても属性防御に長けている鎧があるので、ステージによっては装備を変えて臨むのもいい。こうした手間はかければかけるほど、キャラを強化してくれる。レベルを上げていけば、それでゴリ押しすることもできるが、こうした工夫を重ねてスピードクリアを狙うと、ひと味違ったゲームが楽しめる。
こうしたシステム上の諸点を見ていくと、キャラクターゲームへの深化、萌え路線の強化といった趣向を意図しながらも、底辺にはしっかりしたゲーム性が築かれていることがわかってくる。萌えの衣の下に質実剛健なゲーム性が潜んでいるわけだ。前面に出ている萌えにときめくか、隠されたゲーム性を極めるか。明確な対象を持ちながら、それ以外のユーザーも受けて入れてしまう懐の広さ。そこを見落として「シャイニング・ウィンド」を評価するのは正当とは言えないだろう。
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