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構想6年。「ショパンコンクール」から始まった物語「トラスティベル 〜ショパンの夢〜」インタビュー(1/2 ページ)

「命」をテーマとした物語、そしてショパンの楽曲をモチーフとした章立て、スタニスラフ・ブーニン氏の演奏。「トラスティベル 〜ショパンの夢〜」はどのようにしてできあがったのだろうか。

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 バンダイナムコゲームスから発売されたXbox 360ソフト「トラスティベル 〜ショパンの夢〜」(以下、トラスティベル)。ショパンが亡くなる3時間前に夢見た世界は、淡い色彩で形作られるファンタジーとして描かれている。「トラスティベル」のプロデューサーであるバンダイナムコゲームスの野口伸二氏、ディレクターであるトライクレッシェンドの初芝弘也氏に「なぜショパンを題材に?」から始まる疑問をぶつけてみた。

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野口伸二氏(左)、初芝弘也氏(右)

2000年のショパンコンクールがこのゲームの発端

―― 「トラスティベル」の題材としてショパンを選ばれたのはなぜでしょう。

初芝 わたしがショパンを好きだったということもあるのですが、世の中の人はショパンの曲を聴いても、彼が作曲したものとは分からないことが多いと思います。ゲームをプレイしていくだけで、自然とショパンについて詳しくなることや、ショパンに対して興味を持ってもらうことをねらったんです。これをふまえて、いままでのゲームとは少し違った切り口で、ゲームを媒体として自分たちのメッセージを込めたいと思いました。

―― まず、ショパンの曲をモチーフにして作ろうと考えたのでしょうか。それとも、今回の「トラスティベル」で訴えたかったテーマが先にあって、その上でショパンをテーマに作られたのでしょうか。

初芝 どちらかというとショパンが先でしたね。2000年の「ショパンピアノ国際コンクール」(ショパンコンクール)でユンディ・リさんが1位になったのですが、そのドキュメンタリー番組を見たときに「これを作ろう」と思いました。先ほど述べたように、ショパンの曲をゲームに乗せていきたい、という思いがあったのと、それとは別に「命の大切さ」といったテーマを訴えたいということがありまして。この2つをいい感じで融合できたと考えています。

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―― これまでさまざまな形で“ゲームの音楽”にたずさわってこられたと思いますが、そうした中でショパンへの思いも強かった、ということでしょうか。

初芝 そうですね。ショパンの曲にはパワーが含まれているようにも感じますので、いまの若い人たちにも知ってもらいたい、という気持ちはありましたね。

―― ショパンの曲には「トラスティベル」でも登場する「雨だれ」や「別れの曲」といった副題が付いていますが、その名前からシナリオを連想されていったのでしょうか。それとも曲のイメージをご自分なりに考えていかれたのですか?

初芝 基本的には「この曲を入れたい」という思いがありまして、その中には副題が付いている曲が多かったので、それが章のタイトルとなるように構成されています。

―― ショパンの好きな曲で「ベスト3」を挙げるとすると、どの曲ですか?

初芝 うーん。選ぶのは難しいですが、僅差で「革命」(12の練習曲 作品10 第12番 ハ短調)ですね。2番目は、日本で一番有名な夜想曲だと思いますが「夜想曲 作品9-2 第2番変ホ長調」です。第3位は……「幻想即興曲 作品66」かなあ。なかなか甲乙付けがたくて、その日の気分によっても変わったりしますが、いまの気分はこれです(笑)。

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―― 今回、スタニスラフ・ブーニンさんの演奏が収録されていますね。

野口 コンサートのスケジュールなどの合間を縫って、日本で録音しました。全部新録音です。ブーニンさんにお願いしたのも、初芝さんの希望だったというのもありますが、ピアノ演奏を入れるに当たって、きちんとした演奏を聴いてもらいたかったし、普段クラシックを聴いていない人にも興味を持ってもらいたいという思いがありました。それならば一流の演奏家でショパンを聴いてもらおうと。ブーニンさんは日本でも有名ですし。

初芝 ブーニンさんの演奏は好きですね。残念ながらコンサートには行ったことがないんですが、ショパンを彼なりの感覚で“揺れて弾く”というか、比較的楽譜通りに弾くというよりは、自分の解釈で、今の気持ちで弾くというか……。そのような演奏の方が自分としては好きなんです。だってどんなピアニストが弾いても同じアウトプットだったら、人間が演奏する意味がありませんから。

―― ゲーム中でブーニンさんの演奏は、一枚の絵が表示されて、曲についての解説とともに流れますね。

初芝 こういう形にしたのは、ショパンの曲についてきっちりと伝えたかったからです。せっかく一流のピアニストに演奏していただきましたし、ゲームをプレイする人って、多くはクラシックに接点がない人だと思うんです。このようなときだけでも、曲を曲として聴いてほしいという思いがありました。これを見て、聴いて「いいな」と思って、インターネットで「ショパン ブーニン」などで検索してもらえたら大成功ですね。曲のコメントはわたしがすべて書きました。背景の絵も水彩画っぽくて、いい感じに仕上がりました。

 それに、CDよりも音質がいいんですよ。48KHzのステレオですから。加えて、これとは別に5.1chサラウンドのデータも非圧縮ファイルで収録しています。圧縮されていない、5.1chオーディオでブーニンさんの演奏が収録されているのは、ほかにはないと思いますよ。ゲーム機だからできることですね。

“次世代機っぽいゲーム”ではなく“次世代機だからこそできるゲーム”を作る

―― Xbox 360で発売しようと思ったのはなぜでしょうか。

野口 このゲームのプロジェクトを立ち上げたときには、Xbox 360という名前も、プレイステーション 3という名前もありませんでした。ただ「次世代機向けの高度なスペックでRPGを作ろう」というテーマがあったわけです。最初はPCベースで作り上げていたのですが、Xbox 360が次世代機の中では先行していましたので、こちらでリリースされたということです。

―― 「次世代機ならではの表現」として作り上げるときに、一番注意したのはどの点でしょうか。

野口 分かりやすいのはグラフィックですね。ハイビジョンを通して見たときのグラフィックは、いままでになかった経験です。ここで表現されたものをユーザーが見たときに驚きを与えたい、というのはポイントでした。

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―― 「光と影」を使った表現も、その発想の中から生まれたんでしょうか。

初芝 次世代機になって絵がきれいになるというのは、当たり前といえば当たり前なんですね。こういった表現を見た目だけではなくて、ゲームのシステムとしても生かさないと、“次世代機っぽい見た目のゲーム”になってしまいます。次世代機のゲームであるからには、“内容そのものを次世代”にしなければ意味がありません。次世代機だからできる表現をそのままシステム側にもって来られないかと思い、光と影で「モンスターモーフィング」が起きたり、必殺技が変化したりという仕組みにしました。

 モンスターモーフィングについては、これができなかったらこのシステムは取り入れないようにしようと思っていました。ちなみに戦略上、光の方に連れて行った方が楽な敵や、逆に影だと倒しやすいキャラもいます。

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