個性的なミニゲームの数々。“鍛”えるのではなく“楽”しもう:「タシテン +たして10にする物語+」レビュー(2/2 ページ)
タイトルだけ見ると、エデュテイメントソフトに思えるかもしれない。確かにその一面もないではないが、実際のところ、その比重はかなり少ない。重視されているのは教育性ではなく娯楽性。タッチペンというインタフェースと数字が作り出した、ユニークなエンターテイメントをご賞味あれ。
論理的な思考で隠された数字を探そう
いくつかタシテンゲームをご紹介したが、これらを見ただけでも、このソフトが単なる計算力を問うているわけではないことがお分かりだろう。ただ、計算力がいらないのか、といえばもちろんそんなことはない。ここではその代表格とも言うべき例をご紹介しよう。“ピラミッドビルダー“というゲームだ。
ピラミッド状に積まれたブロックがある。最上段に1個のブロック。2段目は2個。3段目は3個。以下、同じように積み重なっている。これらのブロックのうち、隠されている部分の数字を当てるゲームだ。
何を手がかりにするか。ここではすべての数字はそれを支える2つの数字の和となっている。ただし、10の位は関係ない。例えば7ならば、それが7の場合もあるが、17の場合もあるということだ。これは10の倍数はすべてタシテン、という大原則の応用になる。そして最上段のブロックは必ずタシテンになっている。
例えば、2段目の一方が4だとしよう。この場合、2段目の残る一方は6になる。それ以外の数字では最上段の数字がタシテンにならない。次は3段目。4を支える数字は何か。足して4になる組み合わせは1−3、2−2、3−1しかないが、14の場合も考慮すると9−5、8−6、7−7、6−8、5−9もあり得ることになる。仮に8−6だとするなら、それを支えるのは、足して8か18になる組み合わせ……となるが、数字には10はないから、この場合は足して8になる組み合わせしかあり得ないことになる。
このピラミッドビルダーは、全タシテンゲーム中でも論理性の高さにおいてトップクラスのゲームだ。手がかりが与えられているが、そこに複数のバリエーションがあるため、一筋縄ではいかない。しかし法則性は明確だから、隠されている数字がどんなに多くても1箇所突破口を見つければ、そこから芋づる式に答えが見つかっていく。快刀乱麻を断つが如し、抜群の知的爽快感を味わえる。
もうひとつ、似た例を挙げておこう。その名も“フジヤマさん”。火山の妖精、フジヤマさんが隠し持っている数字を予想し、その数字と足してタシテンになる数字を書いていくという内容だ。
ここでのヒントは、フジヤマさんはプレイヤーが書いた数字と自分が持っている数字を足して、タシテンにならない数字を吹き上げる、というルール。例えば8と書いて2と上がったとする。この場合、2が12の余り分なのは明らかなので、つまり、X+8=12。X=フジヤマさんが持っている数字は4というわけだ。ただし、答えは4ではない。“隠し持っている数字を予想し、その数字と足してタシテンになる数字を書いていく”だから答えは6。実際にやってみると、この2番目のステップが結構厄介で、頭が混乱してくる。この手のゲームは一度混乱すると焦りが出てきて上手く行かなくなるのが相場。制限時間に比較的余裕があるので、クリア自体はさほど難しくないのだが、やはり暗算力が高いほうが有利なのは間違いない。
イマジネーションの豊かさが生み出す優れたゲーム性
数字というのはロジックの世界だから、ピラミッドビルダーやフジヤマさんのようなゲームを繰り返しプレイしていれば、確かに計算力は高くなるかもしれない。しかし、タシテンには、前述したナンバー狩りや10秒フィッシングなど、どう考えても計算力と関係ないゲームも入っている。こうした点を考えると、タシテンを単純に計算力を高めるだけのソフトと見なすのは違っているだろう。
そう、ここにあるのは数字を使って遊ぼう、というエンターテイメント的な精神なのだ。まず何よりも楽しいこと。よく遊び、よく学べ、ではなく、とにかく遊べという発想なのである。
ニンテンドーDSが開拓したエデュテイメントというジャンルは社会的な意義も高く、業界の活性化という点でも無視できない功績を持っている。いっさいのゲーム性を排した完全な教育あるいは教養ソフトも数多く発売されていて、広い意味でニンテンドーDSが従来の携帯ゲーム機の枠を超えたキャパシティを持っているのは間違いないだろう。それが空前の大ヒットへと繋がったことも疑いない。
しかし、その反面、やはりニンテンドーDSは携帯ゲーム機でもある。先ほど導入部の部分で、ストーリーが伝統的なファンタジーの設定に従っていることに触れた。そうしたゲームファンにはおなじみの設定、いわゆるお約束はこのゲーム全体にあふれている。具体的な例はプレイして確かめて戴きたいが、ファンタジーRPGが好きな人なら、戦闘を数字ゲームに取り替えているゲームであることがすぐに分かるだろう。
ここから、タシテンというソフトの位置づけに関して、ある種の仮説が導き出せるように思う。
このソフトが実際には伝統的なファンタジーRPGの形式を採りながら、表面的にはエデュテイメントのような形を取っている理由はどこにあるのだろか。これは、このゲームのメインターゲットがどこに設定されているか、という問題と言い換えてもいい。そして筆者が思うには、タシテンは純粋にゲームが好きなユーザー、俗に言うゲーマーに向けた作品ではない。もちろん、それらのユーザーもこの作品を楽しんでプレイできるだろうが、それはおそらく副次的な対象だ。メインターゲットは、おそらくこれまでゲーム、特にファンタジーRPGなど知らない層だと考えられる。そうした層は、ファンタジーRPGの約束事など知らない。突然異世界に呼ばれ、王様の命令を受けて冒険を始める。ゲーム好きには何の違和感もない設定だろう。しかし、ゲームの約束事を知らない人には、これは通じない。なぜ異世界に行くのか、なぜ王様は自分に頼んでくるのか、なぜその命令に従わねばならないのか、といったことが意外に引っかかって、やる気を削がれてしまうのである。
非ゲーマー系のユーザーにとって、タシテンはそうした約束事を了解していくステップになり得る。そしてそうした経験がファンタジーゲームへの抵抗感を下げるのに役立ち、さらに一歩進んで関心へと繋がっていけば、ゲーム業界にとって大変な福音である。もし、ニンテンドーDSの持つ非ゲーマー系ユーザーがゲームに関心を抱き、教育・教養以外のソフトも買うようになれば……。
さらに言えば、数字というシンプルな素材からこれだけのエンターテイメントを生み出せることを証明しているタシテンは、ゲームの持つ創造性や可能性を示す好例でもある。こうした作品が増えれば、単に業界が活性化するだけでなく、いわれのないゲームバッシングを抑制する点でも役立つだろう。……まあ、こういうことを考えること自体、タシテンというソフトに似合わないのかもしれない。何よりも、このソフトは難しいことなど考えず、シンプルに楽しむためにあるのだから。ただ、決してそれだけのソフトではない。エデュテイメントと一般ゲームを繋ぐ接点。タシテンはそこに立っている。
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