理屈じゃないところで“楽しそうなゲーム”と思ったあなた。その勘は正しい:「PATAPON(パタポン)」インタビュー
「パタポン」という生き物とコマンドで会話しながら進めていくゲーム。音ゲーともシミュレーションとも、何とでも呼べそうなこのゲームを作った、プロデューサーの小谷浩之氏に、ゲームの成り立ちから話を聞いてみた。
かつてソニー・コンピュータエンタテインメントに在籍し、現在はフリーとして活躍している小谷浩之氏。SCE時代は「ゲームやろうぜ!」のプロデューサーを務めたほか、「XI[sai]」、「ブラボーミュージック」、「激走トマランナー」などを手がけたクリエイターだ。ボタンに割り当てられた「パタ」「チャカ」などの音を組み合わせ、指令を出すことであの不思議な生物「パタポン」を操るというちょっと不思議なゲーム「PATAPON(パタポン)」は、どのような背景から生まれてきたのか、小谷氏に聞いてみた。
――「PATAPON(パタポン)」についてですが、どこからこのゲームを発想されたのでしょうか?
小谷浩之氏(以下、敬称略) 確かに何もないところからは沸いてこないですよね(笑)。インターリンクプランニングさんという、「パラッパラッパー」などを手がけている会社があるんですが、そこにあいさつに行ったとき、オリートさんというフランスのアーティストの方のWebサイトを教えてもらったんです。そのサイトに行って、オリートさんの絵を見た瞬間に太鼓の音が響くイメージが沸いてきたんですよ。今回は「パタポン」というキャラクターに一目ぼれして作ったようなものですね。ゲームクリエイターとしては、キャラクターを最初から起こしたがるものじゃないですか。いつもなら他人が持っているキャラクターでゲームを作ろうと思わないんですが、今回はパタポンを見て、ゲームを作りたいと思いました。
そしてそのあと、速攻でピラミッドさんにメールを飛ばしまして(笑)。このキャラクターで、太鼓の音を入れて、原始的なゲームを作りませんかと言ったら、5分後くらいに「いいですね!」と(笑)。じゃあ一緒に、どのようなシステムにするか考えましょう、となってスタートしました。
――そのときのキャラクターは、いまのパタポンの絵なんですか?
小谷 そうですね。バックグラウンドも何もなく、不思議な、やりを持った生物が変な木から生まれていたりとか、ヒヨコの城を攻めていたりとか。どんな“いわく”があるのかもさっぱり分からないという(笑)。でもそれが逆に魅力的で、彼らに何らかのバックグラウンドを持たせて命を吹き込めば、みんなが愛してくれるキャラクターになるだろうと確信しました。繰り返しますけど一目ぼれでしたね。このキャラクターでゲームを作ってみようと。それに加えて“太鼓”という持ち味ですね。ほんとに、キャラクターからインスピレーションをもらった形ですよ。
――そこから、いまのシステムに作り上げるまでは、どのような過程を経てきたんでしょうか。
小谷 ひな形のイメージは企画当初からありましたが、それをゲームに落とし込む場合にはいろいろなパターンを考えましたね。いまのような交互に動くパターンは初期からありましたが、コマンドをどうするのか、というところにすごく時間がかかりました。
最初は「彼らとは太鼓で会話する」というシステムだったんです。いろいろな対話がコマンド(太鼓)でできるということで、例えば助詞とか形容詞とか、複合的な文法のようなものまで考えた時期もあったんですよ。「早く 走れ」とか「歩け 早く」といった文法を作ったりしました。でもそうすると、1つの言語を覚えるくらい複雑になっちゃう(笑)。それはそれで、非常に楽しい時期はあったんです。わたし自身もコマンドを思い出しながら、プレゼンしたときもあったりして(笑)。
ただし楽しいんだけれども、これはちょっとどうかな、と。このキャラクターを愛してほしいのはもっと広い層の人たちだから、分かりやすい、誰でもすぐに覚えられるところに落とし込めないかと、半年くらい試行錯誤しましたね。
――そうして、いまの「PATAPON(パタポン)」ができあがったわけですね。
小谷 このインタフェースが決まったきっかけになったのは、名前を付けようとしたところからですね。オリートさんに、音のイメージから彼らの名前を考えてください、とアイディアを出してもらったときに「PATAPON」があったんです。PATAPONというのはフランス語で“子どもたち”という意味があるんだそうです。それを見たとき、名前も意味もぴったりだ、と。自分がいないとどうしようもない子どもたちを何とかする、というニュアンスのゲームにもしたかったので、意味も、音もすごくぴったりだ、と感じました。
そしてまたこのメールをもらった瞬間にインスピレーションが沸いて、“パタポン”というのを、コマンドで表現する音にできないかと思いました。それまでは擬音化されていないコマンド体系だったんです。表現の仕方としても「□○×△」みたいなものでは、覚えるのが難しい。パタポンという名前なら、歩くのは「パタ パタ パタ ポン」だ、とイメージが沸きまして、ピラミッドさんにコマンドをこうしましょう、とすぐにメールを書いて(笑)。それで試作を作りました。「□□□○」じゃなくて、音でとらえるというのは、なんて覚えやすいことかと。そこが一気に突き抜けたタイミングでしたね。できあがってみると単純なんですけど、パタポンという名前から、音に対して初めて意味が付けられて、みるみるうちに分かりやすいゲームになってきたというのは、作っているみんなが興奮しましたね。
――オリートさんの絵のイメージもあって、最初から2Dのゲームにすると考えていたのですか?
小谷 そうですね。あの絵を生かすのであれば、最初からそう考えていました。3DばりばりのゲームがPSPで流行っている中で、こういうゲームを作っている方が絶対に目立つという確信がありました。
――いろいろなイベントでは試遊台も出されたわけですが、ユーザーの反応はどうでしたか?
小谷 「東京ゲームショウ2007」の時は、朝から晩までフルで張り付いていました。プレイした方にはいろいろな反応を持ってもらえた感じがしましたが、一般日の初日に青いPSPを持った女の子が並んでいて、「かわいいなー」と思って見ていたんですね(笑)。すると2日目も同じ子が、結構長い列ができていたのにもかかわらず、また青いPSPを持って並んでいたんです。デジャブーなのかなと思いましたが(爆笑)。失礼かなと思いつつも「昨日も並んでいましたよね?」と聞いたら「そうです」と答えてくれまして。どうしてそんなに気に入ってくれたのかと聞いたんですが、その子の答えでは「パタポンとのふれあいにすごく癒される」ということを言われました。ゲームシステムにコミュニケーションを感じてもらえたようで、「子どもに対して呼びかけて、そこから答えが返ってくる」というゲームシステムに安らぎを感じてもらえたようですね。ゲームとしてのおもしろさからはちょっとかけ離れてはいますが、そんなところにも魅力を感じてもらえたのはよかったなと思っています。
――もともと女性層をターゲットに作られていたんでしょうか。
小谷 それもありますが、女性を含めた広い層をターゲットにして作ってきました。ですので最後の調整まで、やりやすさを追求しました。システムができあがったところに直しを入れるとバグが出る可能性もある、とは思うんですが、「これを入れたらもっとやりやすくなるんじゃないか」と夜中に思いついて制作チームにお願いして反映してもらったりと、マスターアップのぎりぎりまでシステムの改良を繰り返しました。もちろん女性の方にも、手にとって遊んでもらいたいなと思っています。
――小谷さんはかつて「ブラボーミュージック」も制作されていたかと思いますが、音楽に関連するゲームというのはお好きなんでしょうか。
小谷 好きですね。音楽は理屈じゃないところで楽しさが分かる、というのが不思議ですね。「ブラボーミュージック」にしろ「PATAPON(パタポン)」にしろ、ボタンをたたいてるだけじゃないですか。ですのでおもしろさを書面で説明しようとしても、それは無理ですよね。説明しきれません。だから企画を立ち上げるときには、いつも苦労しました。
――「PATAPON(パタポン)」もそうですが、「無限回廊」など、最近、PSPでSCEらしいゲームが出てきたように思います。
小谷 「勇者のくせになまいきだ。」もそうですね。出自が「ゲームやろうぜ!」だということもあるんでしょうけど、“らしい”と言えば“筋金入り”ですからね。時期を同じくしてこれらのゲームが出てきたというのは、そういうスピリットがPSPという畑の中に育ってきたんでしょうか。
――「ゲームやろうぜ!」の文化というのはおもしろいですよね。
小谷 わたしも「ゲームやろうぜ!」の出身ですし、「ブラボーミュージック」にしろ、「激走トマランナー」にしろ、野戦場のような現場をとりまとめてきましたから(笑)。ただ、こうしたゲームを作ってきたクリエイターからは、純粋なアイディアがぽんと出てくるんですよ。
ぼくはこれまではクリエイターに対してゲームをおもしろくするためのヒントだけを出すようにやってきましたが、「PATAPON(パタポン)」はゲームデザインをどうするかというところから考えましたし、システムから歌の作詞まで全部担当しました。「ブラボーミュージック」のときは、偉大な作曲家の曲をどう使うか、というところで悩みましたが、「PATAPON(パタポン)」では、「おもしろい曲というのはどうなんよ?」ということから考えました。ボタンを押したらこういう音楽が返ってきて、とか、セッションのような仕組みにしたり。音楽面では足立賢明さんという、「XI[sai]」の時から一緒に仕事をしている方と作ることができました。そういう部分では、「PATAPON(パタポン)」は、スタッフのクリエイティビティもモチベーションも、すごく高かったですね。
――携帯ゲーム機は据え置き機と違って、いつでもプレイできるのが魅力ですね。
小谷 PSPは、立ち上げを任された部署にいましたので、特別な思いがありますね。PSPが発表されたその翌月にチームが編成されたんですが、そこから発売までの1年間、我々がPSPの未来を作るんだと夢見て、仲間たちと取り組んできたんです。いまでは、PSPというプラットフォームで思い描いていたものがようやく形になってきましたね。個人的には携帯ゲーム機がほしい、ほしい、と思ってましたし(笑)。PSPはどんどん応援していきたいですね。
――小谷さんがいま注目されているのはどのようなことなんでしょうか。
小谷 変なアイディアはあるんですけどね(笑)。年末にはみんな田舎へ帰るじゃないですか。ぼくの場合は、孫がおじいちゃんの家に集まるわけです。昔なら据え置き機で、おじいちゃんも眺めながらわいわい遊んでいたんですが、最近は携帯ゲーム機ばかりで遊ぶので、寂しがっているんですね。ですので、据え置き機と携帯ゲーム機が混ざって何かできるようなものを作りたいと思っています。
新型のPSP-2000から、TVに映せるじゃないですか。例えば、孫が持っている1台をTVに映してみんなでプレイするゲームが作れたらいいですね。おじいちゃんが手助けしたりして。携帯ゲーム機というメディアで、おじいちゃんも団らんに混ざりながら、孫が必至にプレイしているのをサポートする、みたいな遊び方ができないのかなと考えています。うちのおじいちゃんを喜ばせるためにも(笑)。
――では最後に、読者に向けてひと言お願いします。
小谷 歌って踊って楽しく、というゲームですので、理屈じゃないところで“楽しそうなゲームだな“と感じたら、それを信じてぜひ買ってください。絶対にその勘は正しいです!
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