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10円が大切だった時代の優しい物語はこうして生まれた「放課後少年」インタビュー(4/5 ページ)

昭和50年代の「昭和町」を舞台としたニンテンドーDSソフト「放課後少年」。どこか懐かしいこのゲームは、柔らかなタッチのイラストともに、人を優しい気分にさせてくれる。今回はこのゲームを作った、プロデューサーの猿田雅之氏と、ディレクターの鴻上謙史氏に、このゲームが生まれた背景について聞いてみた。

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友達がいて家族がいる――優しい心になれるゲームに

猿田 駄菓子屋のおばちゃんもそうですが、大人が子どもに対して、いい意味で厳しかったですね。子どもをちゃんと見ていて、厳しくしかるところはしかって。そこでコミュニティが出来上がっていた部分もあると思うので、そこは忘れないほうがいいなと思うんですよ。「悪いことしたら怒られるよ」というのは入れておかないとダメだなと。“ちゃんと怒ってくれる人”は大事だなと思っていたんですよね。

 そういう意味では、今よりも人間関係が濃かったですね。プライバシーなんてなくて。狭い地域だとみんなお互いのことを知っていますし。それがよかったというか、密度が高かったのがよかったと思うんですけど。人と人との結びつきがすごく強かった時代ですよね。そこは実はテーマとしていて、家族でも友達の話はするし、いろいろな人がいろいろな話をしているというのは、すごく出したかった所なんです。

鴻上 なので、晩ご飯のシーンも入れています。

猿田 食卓で必ず家族がそろってごはんを食べて、そのときにはいろいろな話をしていることって必ずあったなあと。一家団らんのシーンはすごく重要だと思っています。鴻上は友達同士での話は重要だと、そこをメインに考えています。わたしは家族の話を入れてくれ、と強くお願いして入れてもらったという経緯ではあります。鴻上とわたしとで、外と内を分けて考えていたというか。

 外に出ると自分も友達もみんな仲良くしていて、家に帰ると家族で仲良く話をしていて……。そういうのってほんわかするというか、優しい気持ちになれますよね。テーマとして「優しいゲーム」というか、“優しさ”をすごく出したかったんです。

 そこもあって、今回のキャラクターデザインは、すべて鴻上が担当しているんです。

――そうだったんですね。

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鴻上 最初の企画書を提出するときに、みんながイメージしているキャラクターはこんな感じがいいですよ、と描いたら、いつの間にかそれを清書することに……(笑)。

猿田 企画書に書いた絵がすごくよくて。優しい絵なんですよね。それが気に入りまして、これを前面に出すべきだと思い、鴻上に全部描いてもらいました。鴻上の持っている優しさが絵に出ていますし、ストーリーでも、優しいお話を作るんです。いろいろなことがあってもみんなが優しい、という。そういうのは入っていますね。すんなり入っていけるし、あのころの時代に戻って遊んでみたくなるような気持ちになるためにも、優しさはキーワードですね。

鴻上 背景のデザインも担当したので大変でした(笑)。

猿田 企画、デザイン、シナリオのベースすべて鴻上が担当しました。ディレクターとはいえ、創作部分は鴻上が全部やっていますので……。

鴻上 ただ、ベースをすべて作ったので、イメージをスタッフで共有することができて、ブレがなく最後まで作り上げられました。こういうやり方もありかなと。

猿田 今は大人数で、いろいろなタイプの専門家がいてゲームを作るんですが、1つの世界観を統一するのはなかなか難しいんです。流れ作業で仕事をしていますので。規模はそれほど大きくないゲームですので、それも可能だったんですが。そこは無理を言ってお願いしてしまいました(笑)。

鴻上 でも楽しかったんで、それはそれということでいいです(笑)。

――キャラクターの曲線が何とも言えずいいんですよね。

鴻上 曲線を強調するようにデザインしました。ほかのスタッフにイメージイラストを担当していただいたものもありましたが、とにかく「なで肩にして」と指示しました。

猿田 いまどきの絵は“エッジが立つ”デザインになってしまう場合が多いんですが、とにかくそれを修正しました。

 鴻上は、スポーツゲームなどのモーションデザインを担当するのが仕事だったんです。なので、本来は動きに関しての専門家です。ただし鴻上の絵が最初にありましたので……。ある意味チャレンジですよね。そこは。ただそれがすごくハマりました。その分負担も大きかったでしょうけど。

鴻上 嵐のような1年でした(笑)。

細かなところにちりばめられている「イタズラ心」

――「放課後少年」ですが、細かいところがすごく楽しいなと思いました。黒板のイタズラ書きや画びょうのイタズラなど……。

鴻上 あのあたりは、世界観のイメージを共通して持てたために生まれたものですね。スタッフが勝手に作ったんです(笑)。ミーティングのときに「こんなのができたらいいね」と話していたら本当に作ってくれたりして。新しいバージョンのテスト版をプレイしたら「言ってたのが本当に入ってる!」とか(笑)。スタッフもノリノリで作っていましたので、細かい部分ではすごく助かっています。

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猿田 制作スタッフがすごく楽しかったみたいですね。若い世代の方もスタッフには多いわけですが、昔の遊びなので全然知らないし、すごく楽しんで作れたみたいです。

 先ほど「優しい話」とは言いましたが、子どもって、そうではない面もすごく持っています。イタズラが大好きで、悪いことをしたくてしょうがないわけです。鴻上はいい話を作るんですが、わたしは、子どもはそうじゃないと、どちらかというと悪くしてくれ、と(笑)。ぎりぎりまで悪いことをしてほしいので、イタズラはぎりぎりまで入れてほしいと言いました。

鴻上 線引きは難しかったですね。やり過ぎると怒られちゃうし。

猿田 こんなにいい子はいないだろうとか、かわいすぎないか、とか。もう少し小ずるい感じで、といったように。イタズラ書きをしたり、画びょうを刺したりといった出来事は、ぜひ入れてくれという感じでした。

鴻上 ゲーム的には意味は全くなくていい、と言って作らせましたので。ユーザーにとって意味がなくても楽しければいい、と。

猿田 意味なんてないですよね(笑)。スリルとか、そういうことだけですので。ただ「昔、あったあった」という。子どもって、日々何でもないことを積み重ねているんですよね。その中で成長しているので、やっていることって単純です。

 今回のゲームの中でも単純なことばかりを入れているので、実を言うとつながりもないですし、淡泊なのかなとも思うんですが、でもそういうものだった、という感覚があるので、そこはリアルだなと思っています。怒られるまで、つまらないことを毎日繰り返していたなと。怒られても同じことをやっていましたから。ストーリーはあるんですが、自由な時間も多いんですね。そのときにはシミュレーション的にプレイしてもいい、という世界です。好きなことやって時間を過ごしてください、という所は、リアルに出ていると思います。

――わたしも、逆上がりの練習をしました(笑)。

猿田 毎日やりますよね(笑)。ああいうことを日々積み重ねると成長するよ、ということを見せたかったので。特別な操作はないんですが、やっていくとランキングも上がっていくんです。自分の部屋に貼ってある成績表を見ると、うまくなっていくのが分かるんですが、そういうのも楽しいかなと。ラジオ体操のハンコを集めているイメージなんですけど、共感できる部分でもあるし、成長する要素として、単純であるけれども日々積み重ねていくことは大事であるとか。

鴻上 イタズラ書きでは、何を描きました?

――わたしは相合い傘とか、棒人間とかですかね……。

鴻上 スタッフに渡すと、ほとんどが“とぐろ”をまいてました……(苦笑)。

猿田 あれを黒板に描いて、先生に怒られると最高なんですよ(笑)。「何やってんだ」って言われるのが。わざと変な絵を描いて、先生に怒られるのを見るのが面白いんです。別に先生は絵柄を見て怒っている訳じゃないんですけど、できるだけくだらない絵を描いて、怒られようとするのが楽しいんですよ。

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