10円が大切だった時代の優しい物語はこうして生まれた:「放課後少年」インタビュー(5/5 ページ)
昭和50年代の「昭和町」を舞台としたニンテンドーDSソフト「放課後少年」。どこか懐かしいこのゲームは、柔らかなタッチのイラストともに、人を優しい気分にさせてくれる。今回はこのゲームを作った、プロデューサーの猿田雅之氏と、ディレクターの鴻上謙史氏に、このゲームが生まれた背景について聞いてみた。
当時の曲を入れるということは、かなりの冒険でした
――「放課後少年」ではラジオとカセットで、当時の曲が聴けるようになっていますね。これはすごい試みだと思うんですが。
猿田 何をやるんだ? というくらいむちゃをしてみました。「音楽ゲームを作っているんじゃないので(ちょっと……)」という声をいろいろな方面からいただいたんですが、曲ってすごく大事ですよね。曲1つでその時代に一気に帰れますし。そこはすごく注力しました。
ただし容量が限られているので、希望する曲すべてを網羅することは無理でしたが、何とかぎりぎりまで入れてみました。プレイしていても、誰かがどこかに引っかかるものがある曲など、自分としては“これは外せない”という曲をチョイスしたつもりです。
実はもっといろいろやりたいこともあったんですけどね。アイドルの世代が移り変わっていく、といったことも見せたかったですね。キャンディーズからピンクレディーに移って、その次に別のアイドルが出てくるというような……。年代が幅広く取れればいいなとも思ったんですが、容量が厳しくて入らないんですよね。だったら、昭和50年代にヒットした曲で、最も記憶に残っていて、「放課後少年」の世界に合う曲を考えて選択しました。ただし好きな曲である、ということは重要でしたけど。
――聴きましたが、ニンテンドーDSでも、ずいぶんときれいに音が入るようになったんですね。
猿田 そうですね。きれいな音で入るように、ぎりぎりまで容量を取っています。楽曲は、歌が聴ける曲とBGMだけの曲に分かれていますが、BGMだけの曲は新しく作り直しました。ニンテンドーDS上でいかにきれいに聴けるかを考えてアレンジしてあります。歌の部分は、できるだけ当時のまま、きれいな音で、ニンテンドーDS上で聞けることを目指しましたので、家にあるカセットで聴く音はすごくきれいですよ。
本当は、ノイズなり何なり加工をして落とした方がリアルなのかとも思ったんですが、せっかく聞いていただくのできれいにしようと。子供のころも、できるだけクリアに聞きたかったはずなんですよ。わたしなんかもレコードを聴くときにもクリーナーをさんざんかけて、プチプチが取れるまできれいにしたり。生録も家族全員を静かにさせて、電気のオンオフもやめさせたりして(笑)。それくらいにして慎重に曲を録っていた位なので、音のきれいさにはこだわっていた所もあります。
聴いていて「これは!」と思った曲はありましたか?
――やっぱり「およげたいやきくん」ですね。小学校の時、給食の時間でよくかかってました。
猿田 あの曲は外せなかったですね。誰に聴いても「これ」というので。
鴻上 まず決定、という感じでした。
――あとは「ビューティペア」ですね。
鴻上 「かけめぐる青春」は最後まで悩んだんですけどね。でもやっぱり入れよう、と。
猿田 熱いんだよ、あれは(笑)。熱いかどうかが結構重要ですね(爆笑)。でも、曲名を1個出すだけでこのようにいろいろな話ができますし、思い出しますよね。こういうことからも、1つの大きなテーマとして“曲を入れる”というアイディアが出てきたんです。時代性というものを表すためにも。どこまでリアルにするべきかと言うところでは、あまり限定はしたくなかったので、幅広く入れてはいるんですが、その時代を語るときに曲を出せば、すごく話が早いですね。
サラリーマンの帰路は“放課後”
――先ほど容量のお話も出ましたが、容量を大きくするためには据え置き機でのゲーム作りでもいいかと思うんです。ニンテンドーDSでなぜ作ろうと思ったのでしょうか。
猿田 まあ、今は忙しい人も多いのでなかなか時間も取れないでしょうし、据え置き機ですとお子さんも遊んでいるでしょうし……。大人の方がちょっとの合間にちらっと見て感動していただけるような、小さな自分の思い入れを感じてもらうのにニンテンドーDSはなじむなと思ったのと、当時の遊びはかなりアナログ感覚なものが多かったので、そのアナログ感を生かすのにタッチペンはすごくマッチしたインタフェースでした。どんな方でも、タッチペンなら何か遊んでもらえるのではないかと思っていたので、そういう意味ではニンテンドーDSはぴったりですね。
鴻上 企画書を出すときにも、帰りの電車の中でサラリーマンの人がニンテンドーDSをプレイしているときに何か遊べるゲーム、というイメージがありました。サラリーマンの人にとっては今が放課後なのかなと。そういうあたりからもテーマが「放課後」ということになっています。会社で疲れたあとに、このゲームをプレイしてほっとしてから家に帰ってね、という思いがありますね。
猿田 手軽に遊べるコンパクトさは、ニンテンドーDSならではですね。こういうストーリーはパーソナルな思い出じゃないですか。それは、大きなテレビで見るというよりも、手元に置いておきたくなるような……。こっそりやるほうがいいんですよね。イタズラ書きもできませんし(笑)。なので、今回の企画は、すごくいい経験でしたね。いろいろな意味で。
鴻上 今までにない感じでしたので。チャレンジな感じはしていましたから……。
猿田 ちょっと時代に合っていない企画なのかな、とも思うんですよ。今は皆さん時間がないので、とにかく急いで遊ばなければならないですよね。
それとは逆行して、ちょっとでもほっとできるようなもの、急がなくてもいいんじゃない? ということをゲームにできないかと。ですので割とゆったりした感じのゲームですよね。焦ってクリアするタイプではないので。
――ただし、「宇宙旅行ゲーム」もそうですけど、熱中するものも多いですね。牛乳ビンのふた集めとか。
猿田 集めましたよね。子供のころは牛乳ビンのふたを吹いて飛ばして遊んでいました。ただしこれも、地域によって違うんです。実は今回悩んだんですが、ゲームによっては地域ルールがかなりありまして。呼び方も違うし、遊び方も違ったので、それをどうしようかと。
本当は地域を選んで、ご当地用のルールを再現して遊べればいいんですが、それは無理です、と(笑)。ただ根っこは一緒なので、基本ルールを作って遊んでもらうのがいいのかなと。そこを念頭に置きました。フタについてはルールは違っても、コレクションすることは同じかなと思いましたので、そこを入れていったというところでしょうか。
子どもって何でも集めたくなって、珍しいものが見つかったときに、それを“レア”なアイテムにしてしまうんです。あとは勝ち負けで交換したりとか。そういうシーンはゲームの中でも再現したかったんです。できるだけそのあたりは網羅したつもりです。
――最後に、読者に向けてひと言お願いします。
鴻上 遊んだ以上はゆっくりしてねと言いたいですね。暖かい世界もあるんだよということを感じてもらえればうれしいです。
猿田 いろいろと話してきましたが、優しいゲームを作りたかったということもあるので、ほっとひと息、優しい気持ちになっていただいて、家族なり、友達なりを思い出していただけるような、暖かいゲームになればいいと思っています。30代や40代の大人の方に遊んで頂きたいと思います。それから、良かったらお子さんとご一緒に!
また、若い方にも“昔はこうだったんだよ”ということを感じて頂けたらうれしいですね。是非遊んでみてください。
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