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ポケットの中の“太平洋”戦争「太平洋の嵐 〜戦艦大和、暁に出撃す!〜」レビュー(1/2 ページ)

太平洋戦争の戦略級ゲーム、と聞くとそのボリュームに圧倒されて、とても最後まで終わらないと思ってしまう。そんな超重量級ゲームも軽量小型のPSPなら最後までやりぬけるのだ。

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世界でまれなる太平洋戦争の戦略級ウォーゲーム

PSP版「太平洋の嵐 〜戦艦大和、暁に出撃す!」のオープニング画面。題字は元海軍大佐の源田実氏が揮毫したもの、というのは有名な話
やっぱり主役は「大和」か。収録された約370種の兵器にはそれぞれ3D画像をはじめとする詳細なデータが用意されている(ただ、ウォーゲームにおいて、詳細なデータと“それらしい”戦闘結果は別物であることに注意したい)

 PSP対応ゲームタイトルとしては、ほぼ初めてとなる太平洋戦争の戦略級ウォーゲームが登場した。え、「提督の決断」があるじゃないか、という意見もあるだろうが、“〜決断”は、太平洋戦争という事象を“それらしく”再現するよりも、細かいカタログスペックを実装させたキャラクター(兵器)にフォーカスを当てて、プレイヤーをいかにして楽しませるせるかに重点をおいた、エンターテイメント的な性質を強調したゲームタイトルだとわたしは思う。多少なりともボードウォーゲームの雰囲気と“それらしさ”を備えたPSP向けゲームタイトルとなると、やはり「太平洋の嵐」が初めてとなる。

 PSP向けゲームタイトルのカテゴリーが豊富な米国でも、この種のゲームタイトルは見たことがない。「Steel Horizon」が海戦ゲームとして挙げられるかもしれないが、これは、「提督の決断」のゲームスケールに“奇想天外”なストーリーを組み合わせた、一種独特なゲームになっているという(ゲームを楽しむというよりストーリーを楽しむのがベスト、というレビューも見かける)。そうなると、「太平洋の嵐 〜戦艦大和、暁に出撃す!」(以下、太平洋の嵐)は、世界で唯一のPSP向けの戦略級ウォーゲームということにもなる。

巨大で複雑な「物流システム」が小さなPSPに完全収録

 戦略級太平洋戦争のゲームに興味を持つ、“日本”の“PC”ゲームユーザーにとって、「太平洋の嵐」シリーズは説明するまでもないほどのメジャーな存在だ。1941年12月8日に(日本が米英に宣戦して)始まった太平洋戦争を扱ったこのゲームは、ベースデザインが発表されてから20年以上経つロングセラーで、2007年には最新作となる「太平洋の嵐5」がリリースされている。今回登場したPSP版はこの「太平洋の嵐5」をベースにしている。

用意されているシナリオは、史実、仮想おりまぜて日本側シナリオ17本、連合軍側シナリオ7本がプレイできる
ロジスティックや生産ルールを変更して日本軍を史実以上に有利にする設定も用意されている。この設定で日本軍をありえないぐらい強力にし、連合軍を撃破しつつ米国本土に上陸して「勝った勝った」と喜ぶのは不毛、という考えは、今の時代にそぐわないらしい

 「太平洋の嵐」で求められる勝利条件は、(勝利のレベルの違いはあれど)敵の重要拠点をより多く占領することと、シンプルに設定されている。戦争の過程でそれだけ物的人的に損害を受けていようともそれは考慮されない。しかし、第1作が登場した当初からユーザーにつけられた「輸送ゲー」という“称号”が示すように、ゲームでは、太平洋戦争の重要な要素の1つである「生産と補給」をいかに円滑に実施するかに、ゲーマーの労力のほとんどが費やされる。

 勝利条件として唯一与えられている「重要拠点の占領」を実現するには、そこに陸軍部隊を進出させて敵守備隊を戦闘によって撃滅しなければ(あるいは退けなければ)ならない。陸上戦闘で勝利するには、敵を圧倒する部隊と弾薬を戦場に送り届け、陸上兵力を維持するために部隊規模に見合った食糧を手配する必要がある。

 兵力と物資は生産拠点から敵兵力の妨害を排除しつつ輸送船団や輜重部隊によって輸送することになるが、輸送船団を動かすにも敵の妨害を排除する艦隊や航空隊を動かすにも、燃料(船は重油、飛行機はガソリン)と搭乗員が必要だ。とうぜん、敵を圧倒する規模の兵力(艦船に、戦闘機、爆撃機)も求められる。

 軍隊を動かす燃料や弾薬、艦船や飛行機を生み出す鉄と軽銀(ジュラルミン)は、それぞれ、原料となる原油、鉄鉱石、ボーキサイトを精製して生産する。これら、原料(と製鉄に使う石炭)も産出される拠点から精製する拠点まで輸送しなければならず、さらに、精製された燃料と鉄、軽銀はそれらを消費する拠点(重油は港、ガソリンは航空基地や空母が停泊する港、鉄と軽銀は造船所や飛行機工場がある拠点)まで、これまた輸送することになる。

 ここまで書いている本人も「もう、たくさん」と思っているが、飛行機に乗せる搭乗員も「指導教官」がいる飛行場で育成し、一人前になった搭乗員は乗る飛行機がある航空基地まで「輸送機/飛行艇」で輸送する。搭乗員を育てる指導教官は、4段階設定されている「練度」の最高レベルに達した搭乗員を前線から引き抜いて、新卒搭乗員が訓練している航空基地に赴任させなければならない。

 ここまで読んだ多くのPSPゲーマーがめまいを起こすほどに複雑に思える(ただし、あとから述べるように、チュートリアルを読むと、物資の流れについてはだいぶ整理されるはずだ)「生産、補給、ロジスティック」の関連ルールは、PSP版にも「そっくりそのまま」受け継がれている。PSPの小さな筐体の中でこのような“巨大な物流システム”が動いていることに、筆者はちょっと感動したほどだ。

戦闘シーンの3Dグラフィックスも「太平洋の嵐5」と同じように収録されている。ただ、登場するキャラクターが変わるだけで、シーンごとの背景や動きはすべて同じなので、何度も繰り返されると飽きてくるかもしれない。そういうときは戦闘シーンをスキップする機能を利用するといいだろう

“経験済み”か”未経験”で分かれる評価基準

 「PSP版の『太平洋の嵐』が気になって気になって」というゲーマーの属性は2種類に分けられる。1つは、PC版の「太平洋の嵐」ユーザーがPSP版に興味を持つ「PC版で戦略急ボードウォーゲーム系は経験済み」ゲーマーで、もう1つは、戦略級ウォーゲームに興味を持っているけど、「大戦略には旧海軍が出てこないし、『提督の決断』より“それらしく”なるゲームはないだろうか」という「PCで戦略級ボード系ウォーゲームは未経験」ゲーマーだ。“ギレンの野望”でストラテジーゲームに興味を持ち、「太平洋の嵐」のうわさを聞いて「連合艦隊を動かしてみたいのぅ」と思ったゲーマーもこちらに近い。

 “経験済み”ゲーマーが気になるのは「PSP版とPC版とでどのような違いがあるのか」に集約されるだろうし、“未経験”ゲーマーは(事前に流れている評判などから)「複雑すぎて自分にはプレイできないのではないだろうか」と不安に思っているだろう。特に、“プレイ可能なゲームの複雑さ”の分水嶺は「経験済み」「未経験」で大きく異なってくる。

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