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ポケットの中の“太平洋”戦争「太平洋の嵐 〜戦艦大和、暁に出撃す!〜」レビュー(2/2 ページ)

太平洋戦争の戦略級ゲーム、と聞くとそのボリュームに圧倒されて、とても最後まで終わらないと思ってしまう。そんな超重量級ゲームも軽量小型のPSPなら最後までやりぬけるのだ。

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PC版のゲームルールを網羅したPSP版

 経験済みゲーマーにとって、PSP版で気になるのは「あの大掛かりなゲームルールが、PSPにすべて組み込まれているのか」「PSP版ではルールや機能が省略されているのではないか」「PC版で大量に用意されたデータをPSPの限られたリソースでうまく参照することはできるか」「PC版で重かったマップスクロールはPSP版で大丈夫か」といったあたりだろう。

 ゲームルールにおいては、(驚くことに)PC版で用意された項目のほぼすべてをPSP版は継承している。冒頭に述べたロジスティックルールだけでなく、メニューで呼び出せる情報の種類、ゲーマーが実行できる命令の内容もPC版と同じだ。ゲーマーにできることは、PC版とPSP版とで違いはないと思っていい。

PC版の「太平洋の嵐5」と同様の3DマップがPSP版でも用意されている。アンチエイリアスや異方性フィルタリングが設定できたPC版と異なり、画質設定は用意されていないが、マップスクロールは速く、ストレスはほとんど感じない

 「太平洋の嵐」をプレイするとき、プレイヤーは膨大なデータを参照しながら部隊の運用を立案していく。PC版でも苦労するこの作業が、マウスが使えず(PSPにはアナログスティックもあるが、その操作性はマウスに遠く及ばない)、ディスプレイの解像度がPCより限られるPSPでそれが可能なのか危惧するユーザーも多いだろう(筆者もこの点を最も不安に思っていた)。しかし、PSP版の画面デザインは、ストレスを感じさせることなく各種データのチャートを参照できるようになっている。PC版のように広いディスプレイに多くのチャートを並べることはできないものの、PSP本体に用意された多数のボタンを駆使して画面を切り替えることで、多数のチャートを画面に表示できる。

艦隊や飛行隊の出撃では移動経路のウェイポイントをアナログパッドで指定する。カーソルが近くにある根拠地に自動で重なってくれるが、艦隊の経路入力ではそれが“あだ”となるときもある

 参照しているデータの種類によって画面遷移の操作が統一されていない部分があり、そこで一瞬戸惑うことは多々あるものの(特に駐機一覧リストでは、○ボタンに「破棄」が割り当てられているので要注意)、行える操作と押すボタンのガイダンスが常時表示されているため、操作で分からなくなることはない。画面も瞬時に切り替わるため多数のチャートを参照したいときでもストレスはあまり感じない(ただ、最後に表示させた項目の状態を残しておける機能を用意し、根拠地一覧で使えるソート機能がもっと充実させると、データの参照はもっと楽になるだろう)。

PC版を超えるPSPのマップ表示

 同じことはマップにもいえる。アンチエイリアスや異方性フィルタリングなど、3D機能を利用していたために、ある程度のパワーを持ったGPUを搭載していないとスクロールが遅かったPC版と異なり、PSP版のマップスクロールはかなり速くなっている。インテルの統合型チップセットを搭載したPCで「太平洋の嵐」シリーズをプレイしていたユーザーなら、かえってPSP版のマップスクロールが快適に思えるはずだ。

 PSP版でも「3D表示」モードのふかん表示と平面の2D表示それぞれで拡大と広域を切り替えるようになるが(地図を最も拡大したいときは3Dの拡大表示を使う。このモードでないと細かい艦隊移動の経路入力ができない)、その切り替えも「R」ボタンですばやくできる。マップに関して、PSP版はPC版をしのぐ操作性を実現しているといってもいいだろう。

 PC版でマウスを使っていた根拠地や艦隊の選択操作は、PSPのアナログパッドで行うが、こちらも、ポインタカーソルが拠点の近くにきたら自動で拠点と重なってくれるため、「拠点とカーソルが重ならなくてイライラ」ということもない。ただ、この機能にも欠点があって、艦隊や航空編隊の経路入力において、拠点に近くに経路を指定しようとしても、ポインタカーソルが勝手に拠点に移動して、プレイヤーが望む地点を指定できないことがある(例えば、東京から出港する艦隊の経路で、陸からたいぶ離れないと横須賀にカーソルが勝手に移動してしまう)。

未経験ゲーマーはPCの体験版にあるチュートリアルを参照すべし

 未経験ゲーマーにとって、太平洋の嵐は、これまでのPSP向けストラテジーゲームとはまったく違う、極端な場合は「プレイ不可能」なゲームに見えるかもしれない。攻撃部隊の編成と、部隊ごとに与える進撃経路、攻撃目標の指示といった命令操作はルールブックを見なくても推察できるだろうが、大掛かりな、生産、加工、補給という物資の流れと、それぞれの物資を「どこから」「どこまで」「どのくらい」動かす輸送計画の立案はどうしたらいいのか、多くの未経験ゲーマーは戸惑ってしまうはずだ(筆者もボードウォーゲームやSSIのPacific Warなど、太平洋戦争の戦略級ウォーゲームをそれなりに経験しているが、それでも太平洋の嵐を最初にプレイしたときは、なにをどうしたらいいか見当もつかなかった)。

 ただ、この段階で「なんじゃこりゃ」と評価してしまうのはあまりにも惜しい。ここで頓挫してしまったユーザーは、ぜひ、システムソフト・アルファーのWebページにあるPC版「太平洋の嵐 5」の体験版をダウンロードして欲しい。体験版には、PC版のルールブックを全ページ収録したPDFファイルが用意されているが、その冒頭に記載されている「チュートリアル」を読めば、複雑怪奇に見えるロジスティックルールで何をすればいいのかが見えてくる。要は「原料が採取される根拠地から近くの大規模港に定期陸上輸送を設定して物資を集積し、その「ハブ」港から加工する根拠地へ(定期)海上輸送を設定する」ことになるわけだが、その説明があるかないかで太平洋の嵐のハードルの高さがだいぶ違ってくるはずだ。

 チュートリアルを見れば分かるように、物資の流れは、燃料系と素材系に整理できる。いずれも、原料採取→精製加工→部隊補給(あるいは工場補給)→作戦消費(あるいは生産消費)という段階を経る。整理すれば、物の流れは把握しやすいが、難しいのが、「どこで」「なにが」「[採取|精製加工|消費]」されるのか、という、根拠地属性の把握だ。一応、「根拠地一覧」というメニューで、このデータを知ることはできるが、用意されているソート機能が限られている(これでもPC版と同様なのだが)ため、なかなか容易でない。ただ、幸いなことに、大量に原料が採取される根拠地と大規模な精製加工を持つ根拠地は数が限られるため、いったん覚えてしまえば(プレイをしているうちに自然と覚えてしまう)あとは楽になる。

巨大な組織を円滑に運営することに喜びを感じる「官僚シム」

 物資の単位が1トン刻みであることや、航空機が1機単位、搭乗員も1人単位という“精度”が、ゲームデザインのなかでどれだけ有効に機能しているのか。兵器1つ1つに用意された3Dグラフィックや戦闘シーンで挿入される3Dアニメーションにどれだけの意義を見出すのか(そういう観点から、このゲームのアピールポイントとして大きく訴求されている“3Dアニメーション”について、このレビューでは言及していない)。戦略級のウォーゲーム、しかも、実質的に半日単位でプレイヤーが命令を下さなければならないスケールで、戦闘があるたびに戦術レベルの命令をしなければならない必要性と、そこまで細かく下される戦術局面の命令に有効性はあるのか(先に述べた理由と同様に、戦術局面における操作と戦闘結果の妥当性についてもこのレビューではコメントしない)。偵察機を3機離陸させただけで、半日攻撃隊が発進できなくなる飛行場の作戦能力の設定はどうなのか。などなど、戦略ウォーゲームとして見た場合のゲームデザインについて、いろいろと意見があるところでもあるが、これについては、「それらすべてが“太平洋の嵐”のコンセプトである」と述べるにとどめよう。

 SSIの「Pacific War」がこうだったから、とか、ホビージャパンの「Pacific Fleet」がああだったのに、という理由で、「『太平洋の嵐』ってどうもね」と評するのは不毛だ。それは、ゲームデザインとプレイヤーの多様性を否定することになるし、「太平洋の嵐」シリーズがデビューから20年を経て、いまだに多くのユーザーから支持されているという事実も否定できない。

 「レビューとしてそれは無責任ではないか」という声には、「SSIやボードの太平洋戦争戦略級ウォーゲームの経験者として、『太平洋の嵐』をプレイした感覚は、ツクダホビーの“戦艦大和”“航空母艦”“一連のタスクフォースシリーズ”に近い」とコメントしておきたい。

空戦における戦術命令を下す画面(画面左)と海戦における戦術命令を下す画面(画面右)では、部隊を構成する各隊に対して行動を指示できる。が、その実効性については明確に把握するところまでプレイを重ねることができなかった。なお、この画面をスキップしていきなり戦闘結果を表示するモードも用意されている

PSPだからこそプレイしてほしい、超重量戦略級ゲーム

 PC版の“経験済み”ゲーマーは、ぜひ、PSP版を入手してほしい。こういう大河ドラマ的規模を持つベビーなゲームは、携帯できるデバイスを使ってすきま時間に1フェイズずつチマチマと積み重ねることで最後までやり通すことが可能になる。ゲームに要する時間がリアルタイムと同じ(3〜4年)になったとしても、それはそれで感慨深いプレイになるだろう。

 「少しでも現実に近いゲームで連合艦隊を戦わせたい」と思っているPSPゲーマーは、ルールブックを見ないで行う手探り状態の操作と1〜2ターン程度(いや、1〜2フェイズ程度かもしれない)のプレイで「うわー、こりゃ、ダメだ」とあきらめないで、ぜひ、PCの体験版をダウンロードして、そのルールブックにあるチュートリアルを読みながら再度挑んでほしい 。小さなPSPでも、いや、小さくていつでもプレイできるPSPだからこそ、こんなにも重厚で壮大なスケールをもったゲームが最後までプレイできることを経験していただきたい。

 なお、多くのユーザーが気になるだろう「AIの強さ」については、評価期間中にそれが十分判断できるだけのプレイが重ねられなかったので、この記事では言及していない。この評価を重視しているゲーマーには申し訳ないがご了承いただきたい。ただ、この手のゲームは「複雑な物資流通と膨大な部隊データをいかに管理して、巨大な組織を思い通りに動かしていくか」に喜びを感じるものでもある。1トン刻みの物資管理と燃料切れで沈んでいく艦船に頭がしびれていくうちに、「AIの賢さなんてどうでもいいや」という気分になってくるのも、また事実である。

蛇足1:ゲームタイトルにある「戦艦大和、暁に出撃す」であるが、菊水作戦において、大和は「暁」ではなく1945年4月6日の夕刻に出港している。
蛇足2:本文中に多用している「太平洋戦争」という呼称に不満を持つゲーマーも多いかと思うが、旧日本軍が使用していた「大東亜戦争」と呼ばせたいなら、せめて1937年あたりから行えるシナリオが欲しいところだ。
太平洋の嵐〜戦艦大和、暁に出撃す!〜
対応機種 PSP
ジャンル 戦略級ウォーゲーム
価格(税込) 5040円
CERO A区分(全年齢対象)

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