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インタビュー

“非情な戦争の中の人間ドラマ”を描くチャレンジタイトル「戦場のヴァルキュリア」インタビュー(2/4 ページ)

セガから4月24日に発売されるプレイステーション 3「戦場のヴァルキュリア」は、戦場でくり広げられる人間ドラマを描いている作品だ。いわゆる“シリーズもの”とは異なり、1からチャレンジした作品だが、本作の魅力について、プロデューサーを務めた野中竜太郎氏と、チーフプロデューサーの西野陽氏に話を聞いた。

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アクションの要素も取り入れた新バトルシステム「BLiTZ」(ブリッツ)

――今回取り入れられたバトルシステム「BLiTZ(Battle of Live Tactical Zone systems:ブリッツ)」についてお伺いしたいのですが。

野中 小部隊が敵の大部隊と戦うわけですから、いままでお話ししてきたように“作戦で勝つ”ということになると思うんです。そういう意味からも、用兵、仲間の使い方では、自由度が高いように設計したかったんです。「BLiTZ」に「コマンドモード」だけでなくアクション要素も入っているのは、上からああだこうだ言っているだけでなく、自分がその場に立って走っているという感覚が、より重要だと思ったからです。

 シミュレーションという形をそのまま実現してしまうと、ちょっと離れたところで、上から物を見ているような感覚になってしまいますよね。一人一人のキャラクターと交流があって、そこからドラマが生まれてくるといったテーマを考えた時に、戦いが人ごとであるかのようにゲームを進めるのではなく、弾が飛び交っている中を自分が進んでいるという感覚を生かしたいと思いました。そこで“アクション性”をゲームシステムの中に組み込み、「BLiTZ」という形にしました。これに加えて「CP(コマンドポイント)」を入れたことで、用兵のおもしろさが出ました。

――「AP(アクションポイント)」も、キャラクターがいったん動いてしまうと、元の位置に戻っても回復しない、というのもポイントですね。

西野 「AP」は“戦争の瞬間瞬間をとらえる”という意味があります。実際にどこかへ歩いていけば動いたという事実は残るので、「AP」が戻るなんてあり得ないわけですよ。動いてしまえば何かが起こりますし。突然撃たれるかもしれないし、味方が倒れているかもしれないわけですから。そういうところをちゃんと出そう、というのがこのシステムなんです。

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野中 実際の戦争でも、戦場に出た怖さ、みたいなものがあるわけじゃないですか。どこから弾が撃たれるか分からないという……。角を曲がったら戦車がいたりして(笑)。戦車は銃で撃っても倒せませんので。

 そういう感じを表現するためには、敵が全部見えていては“一歩踏み出す緊張感”が出ませんし、行動をキャンセルするようなことができてしまえば、簡単になってしまいます。戦場での緊張感がある中で戦っていくと、連帯感というか、“戦友”という感じが出るのかなと。戦場で実際体験するようなことを、ゲームの中に落とし込みたかったんですね。

西野 一戦をクリアした時には「また今日も生き残った……」という感じがしますよね。

野中 わたしたちの考えている“戦場のドラマ”には、そういった部分もあるんです。シナリオ上の戦場ドラマももちろん描かれているんですが、それだけじゃなくて、プレイヤー自身が仲間の義勇兵と一緒に戦っている、味方が撃たれたら助けに行こうか、どうしようかといった緊張感もひっくるめて、戦場のドラマになるわけです。気に入っているキャラクターだけど、あそこに行かせていいのか、とか、むしろ撃たれるなら行かないほうがいいんじゃないか、とか(笑)。

西野 もし気に入らないキャラクターがいるなら、そいつを突っ込ませるとか(笑)。それも自由、です。

野中 わたしもお気に入りのキャラクターがいるんですが、そいつは撃たれ強い気がするんですよ。でも開発チームに聞くと「それは関係ないですね」と。思いこみの問題みたいです(笑)。

――こいつだったら弾を当てやすい気がする、と思う時もありますよね。

西野 そういうことで実際に戦地を乗り切れたりするんだろうな、と思いますしね。

野中 わたしがもしプレイヤーだったら「隠しパラメーターとかあるんじゃないか」(笑)と思う時もあるんですが、気のせいなんですよね。「こいつはちょっと使えるな」、あるいは「こいつはいいやつのはずなのに、わたしが使うとダメだなあ」とか。たとえ自分にとってはダメであっても、ほかのキャラクターと比べて、極端に能力が低いわけじゃないんですよ。ただ、プレイしているとそんな気がする、という思いこみも含めた気持ちが、皆さんに出ると思うんですよね。

 登場キャラクターは50人もいますので、こうした感情移入も、ある種の戦場ドラマだと思うんです。「こいつと一緒に戦場をくぐり抜けた」、みたいな。そういったところを楽しんでいただくのも、このゲームの醍醐味かなと思いますね。

リアルなミリタリーを描きつつフィクションの要素が入れられる人を起用

――本作では本庄雷太さんがキャラクターの原案を担当していらっしゃいますが、本庄さんを起用したのはどのような経緯からですか?

野中 キャラクターを作るに当たっては、キャラ自身に魅力があるのはもちろんですが、戦争を描いているので、ミリタリーの知識もしっかりしてなければいけません。ただし、“ヴァルキュリア”という架空の設定も登場するので、フィクションも入っていてほしいわけです。なので単純にミリタリーに詳しい方や、キャラクターだけを書ける方ではなく、すべてをひっくるめた知識のある方を起用したかったんです。

 本庄さんは雑誌のコラムイラストや、同人誌で活躍されている方でして、本庄さんの作品を見るとミリタリーの知識だけでなく、フィクションの描き方もすごくうまいんです。重戦車だけどタイヤがゴムになっていたりして、“本当だけどあり得ない世界”を描ける方です。そこで本庄さんをスカウトして、キャラクター原案をお願いしました。

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西野 本庄さんのイラストを見た時に、生活感があるところにすごく引かれたんです。本作でも描いていますが、戦車の上でスイカを食べているようなシーンとか、日常の中に戦車があるとこういう風景なんだろうな、という……。単なる戦闘シーンだけではない部分も描かれますし、今回のテーマにはすごく合っていますね。

野中 やっぱり、ただ単にスタイリッシュなだけでもダメですし、リアルなだけでもよくありません。ウェルキンの首には地図が下がっているんですが、これは戦車長だったらよく地図を見るだろう、という本庄さんのアイディアです。

西野 衣装デザインも含めて、キャラクター原案を作っていただきましたので。

野中 あと、ひざ当てにも甲冑(かっちゅう)のようなものを付けているんです。これは、最初は第二次世界大戦の軍服をそのまま表現する予定でした。でもその当時の軍服は機能的にできていまして、最近のデザインとあまり変わっていないんですね。そこで、どうやったらレトロ感というか、ファンタジー感が出るのかと思った時に出てきたのが、第一次世界大戦当時の軍服です。この当時の軍服は、中世からの民族衣装のようなものを引きずっているデザインなんです。フランス軍の軍服は、帽子に鳥の羽が付いていたりして。そういう方向性を本庄さんが提案してくれて、甲冑を付けたらいいんじゃないか、となりました。

 ただし、ただ単に付いているのではなく、銃を撃つ時には片ひざを付いて撃つから、ひざにはひざ当てが必要だろう、とか、そのまま付けるとひざの裏が痛いから、太ももの所からぶら下げよう、とか。ウェルキンにしても、戦車長だからノドにマイクが付いているだろう、とか。そうした細かいリアリティの積み重ねをしてくれたのも本庄さんですね。ただしリアリティの中にあっても、ヴァルキュリアが来たら「どーん」と撃ってしまうとか(笑)。“ウソ“もきちんと入れられる、すべての世界を描いていただけたのが本庄さんでした。

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西野 でも、本庄さんには大変な思いをさせてしまったかもしれません。一時期はずっと開発の方に詰めていましたから。

野中 本庄さんは、最初お願いした時には東京に住んでいなかったんです。夜な夜な電話で打ち合わせをしていたんですが、詰めの時期になって、電話では間に合わないので上京していただいて。最初は2週間くらいと言っていたのが半年になってしまったりして(笑)。ひどいことをしたなあとは思いますが(苦笑)、そのおかげでいいものが出来上がりました。

西野 キャラクターは相当もみましたからね。

野中 開発チームで、シナリオを作っている人や、戦車などのメカデザイン、銃器デザイン、世界観設定を担当している「設定班」というのがあったんですが、その中に本庄さんに入っていただきました。メインはキャラクター原案でしたが、ほかのアイテムをデザインする時にもアイディアをもらったりして進めました。

本当は100人登場する予定だった!?

――設定と言えば、メイン以外の一般兵についても、「人物総覧」にプロフィールが詳しく描かれているのは驚きました。

野中 こういう設定があるのは大事だと思うんです。これが最終的にはキャラクターの“厚み”になるじゃないですか。このキャラは意外とこんなやつだった、みたいな。

西野 本当は100人くらい作ってくれ、って言ったんですけどね(笑)。さすがにそれは無理です、50人くらいにしてください、と(爆笑)。

野中 100人作るのが大変だったというのは確かにあります(笑)。でも100人いると、1人くらいいなくなっても「まあいいか」と思っちゃうじゃないですか。それにキャラクターの差別化が弱くなりますし。

 一般兵については、本庄さんだけじゃなく、うちの開発チームのメンバーがデザインしたキャラクターもいます。中には担当者の謎なセンスが爆発した“ほとばしり”で入れたキャラクターもいます(笑)。そのあたりは実際に使ってみて楽しんでください。オフィシャルブログで使っている「ホーマー・ピエローニ」と「イーディ・ネルソン」の2人は、ブログだと“コミック担当”みたいになっていますが、味のあるキャラクターなんで……。

西野 ブログを始める時にも50人から選抜したんですよ。どのキャラクターにブログを担当させるか(笑)。おもしろいキャラクターにやらせるべきだ、となって、あの2人が登場しているんです。

野中 メインキャラクターが食われますよね(笑)。中にはやる気のないキャラクターもいるんですよ。使っていると、急に言うことを聞かなくなったりして。でもそれってシミュレーションゲームとしていいのか(爆笑)。やる気がないから職場放棄するんです。「かったりー」みたいな(笑)。

西野 まあそれも義勇軍ならではですね。普通の軍隊だとそんなのはあり得ませんから(笑)。寄せ集めのよく分からないやつがいっぱいいる、という感じは出せているかなと思いますね。

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