進化しようという姿勢を持って“てっぺん”を目指せ――セガ 鈴木裕氏(後編):ヒライタケシの「投げる前から変化球」(その1)(2/3 ページ)
新連載「ヒライタケシの『投げる前から変化球』」第2回目は、前回に引き続きセガの鈴木裕氏にご登場いただく。日本のゲームクリエイターの質は変わってきているのか? それとも自らが変革を求めなくなったのか?
進化しようという姿勢を持って“てっぺん”を目指せ
平井 今のハードウェアで裕さんが、目指したい作品とかありますか。
鈴木 前から言ってるんですけど、技術者に対して1つ“寂しいな”と思うことがあって。グラフィックスとかCPUとかメモリとか、「ゲームを作るんだったらこれくらいあれば十分だ」って言っちゃうじゃないですか。今の人は。それはかなり悲しいですよね。それは言わないほうがいいと思うんですよ。「いくらでも欲しい」って言ってる人の方がいいですよね。マシンのパワーはあるだけあった方がいいんですよ。やっぱりフラクタルの計算やフーリエ級数など、非常に難しい計算、重い計算がいろいろあるじゃないですか。もし重い計算を実現することが可能ならば、そこには絶対に新しい表現ができるわけだから。ということは、進化しようっていう姿勢がないんですよね。そこに。
平井 “枠の中でモノを作る”という考え方になってしまうんですよね。
鈴木 だから新しいものが生まれない。だからアメリカに負けるんですよ。
平井 海外に行ってエンジニアと話をすると「今のマシンはスペックが足りない」って言う人は多いですよ。AIを研究している方も、同じことを言いますね。
鈴木 あんなこともこんなこともやりたいという人は多いでしょうね。だって僕が最初に扱ったパソコンは、メモリが32バイトでしたからね。CPUは機械語だから、1命令入れると1バイト使っちゃうわけです。
平井 ビットレートで256ビット。
鈴木 ええ。HPのすごいマシンを使わせてもらった当時でも同じでしたね。ああ、その前のフロッピーディスクが160Kバイト。でも「K」が付いたら、32から160にゼロが3つ付いて大きくなった。そのとき覚えてるのがマシンのハードディスク容量ですね。20メガバイト(笑)。
平井 当時「メガ」が付いたらもうこれ以上いらないというくらいでしたね(笑)。
鈴木 でもそのときのハードディスクは机くらいの大きさがあって、重量500キロ(笑)。20メガバイトで500キロですよ。それでいまだに覚えているのが、オフィスの引越しで同じフロア内で移動するときがあって。ただし「動かしてハードクラッシュ、ヘッドクラッシュを起こすと困る」というので、移動するのにもメーカーへ電話しなければならないんですよ。今でも覚えてるんですが、移動コストが“10メートルいくら”って決まってるんですよ。10メートル1万円みたいな決まりがあるんですね。
平井 最初の設置場所が大事ですね(笑)。
鈴木 10メートルいくら、階段1段いくら、みたいな話で。今でも覚えてますけど、新しいオフィスに行く途中で、一度床が抜けました(爆笑)。500キロくらいですもんね(笑)。だから今ね、これね……(USBメモリを出して)4ギガですよこれ。なんなのよ、これ、という感じですね。
平井 僕のカメラにも16ギガバイトのメモリが入ってます。
鈴木 そういう時代だったんですよね。ただ結局、今も昔も変わらないといえば変わらないので、それを何に使うかですよ。だから、全然足りないって言ってる方がいいでしょう。どんどんどんどん貪欲であってほしい。夢がないですよね。“現状でいい”って言ってるんですから。そういう技術者は困りますよね。夢が実現するって思い込んでてもいいんですけど、夢っていますぐなかなかできないこともあるから、それ実現をするためにはね。目標が低いんじゃないですか。
平井 そういう意味では、昔はソフトウェアがハードウェアを牽引してましたよね、しっかり。
鈴木 今も昔も、ソフトがハードを牽引しなきゃダメですよ。ハードの人には悪いけど、絶対。
平井 そうですよね。裕さんというのは、そういうスタンスの代表だったなって思います。確かに今は、そういうソフトウェアが少ないですよね。特に「ワンソース・マルチユース」という形で、マルチプラットフォームを意識しているので、一番低いハードスペックに合わせて作っているものが増えてきていると思いますね。ですので限界にチャレンジするタイプの作品が出てきてないという。是非裕さんに期待したいところですが。
鈴木 そこに引っ張り上げられてければいいですけどね。“てっぺん”をやんなきゃ面白くないですし。ちょっと頑張ります(笑)。
ゲームクリエイターは野心を持て
平井 ゲームクリエイターに求められているものは何でしょうか? 一言じゃ言えないと思いますけど。
鈴木 この業界で働きたい人だったら何でもいいんでしょうけど……。“クリエイティブ”っていう言葉がありますけど、“クリエイティブ”な動きをちゃんとしてほしいですね。説教がましく言いたくはないですが、この業界は苦労もたくさんありますよね。映画だったら、何年もかけて撮影することはほとんどないでしょうし、その期間、いろいろなことを我慢してれば終わるわけです。そして打ち上げをやって、フレッシュに何か次のことに取りかかれるわけですよ。でもゲーム業界は、ヘタすれば2年は逃げ場がないわけです、どこにも。
平井 なさそうですね(笑)。
鈴木 このように大変なこともあるけど、逆に、何にも代え難い達成感もあるわけです。せっかくこの業界に入るんだったら、他の業界より苦しいこともあるわけだから、一番楽しいのって“クリエイティブ”じゃないですかね。そこを追求しないんだったら、何のために入ったのよ、と言いたいですね。苦労も、辛いことも、どこの業界もそうですけど、一番やりがいがあって一番面白いのは“クリエイティブ”なんですよ。もし追求できる状況であれば、その場所でやらないでどうするの? という。
任されたのがたとえ請け負い仕事であったとしても、そこにはクリエイティブはあると思うんですよ。クリエイティブできる幅が、多い少ないだけの話ですよね。例えば、人よりよいプログラムを作ったり、人よりも速いプログラムを組むことでも、その中で自分の“クリエイティブ”を追求できると思うし。自己ベストでもいいし、比較対象があって、自分がちょっと進んでる、という感じでもいいんですけど、クリエイティブを追求しないと意味がないですよね。その楽しみを味わってない人とか、まだ知らない人ってたくさんいるんじゃないのかなって。
平井 特にこの時代は多いんでしょうね。
鈴木 作業のように仕事をしている人がいるかもしれないから、ゲーム業界だったら、クリエイティブがあるところで仕事をして欲しいですね。充実感も、達成感もあるし。人生を振り返ったときに充実感も違うと思いますし、せっかくこの職業に携わっているんなら、クリエイティブであってほしいですよね。
平井 僕も裕さんと仕事をしていて、終わったときの達成感はかなりありました。やり切ったという気持ちもそうですし、作ったものにも自信がある。そういうクリエイターが出てきてもらいたいですね。
鈴木 野心を持ってほしいですよね。“野心”って嫌な言葉かもしれないですが、ただ、なんか野心ていいですよね。“天下取った”とかでもいいし。極論を言えば。野心が欲しいですよね。ちょっと男っぽいというか、動物っぽいところ……。いい仕事をするには。
平井 でも最近、野心を出す所が限られてきているってのはありませんか? 例えば次世代機になると開発費もでかくなるとかよく言われることですけど、そうするとプロジェクトも大きくなって、どうしても黙って仕事をしなくてはいけないとか。
鈴木 でも開発費に関しては日本くらいですよ、あんなに膨大なお金を掛けるのは。無謀ですよね。採算性を考えてないような……。だからそれを「もっと出してくれ、すごいの作るから」って言ったら、それは野心じゃないですよね。ただやりたいがために、そんなところで仕事をもらっても……。ちっちゃく生んで大きく育てるのはいいけど、最終的には成功させてあげたい。今は誰が分からなくても、分かる人がいるとか。
ただ本気でやりたいんだったら、高い開発費だとGoがかからないわけなので、なんとかもらえる額までもってくるとか、工夫するとか、新しいツール入れるとか。極論を言うと、グラフィックスにお金が掛かるのなら、グラフィックスなしから考えるとか。
平井 やりようはあるんですよね。
鈴木 「どうあってもやるんだ」という意志さえ持ってればいいんですよ。生ぬるいところで、みんなと同じところから考えていると突破口は難しいんでしょうね。違うところからの発想というか、1回外れてみないと。
平井 今日お話させて頂いて、やっぱり自分も伸びたなって思うところは、裕さんに教えてもらったからなんだなと改めて感じました。
鈴木 アメリカの土壌として、オリジナリティは失敗成功に関わらず、皆が賞賛しますよね。チャレンジしたことに。成功した人でも、それが真似だったらダメですね。日本はいわゆる“追い越せ追い抜けのマネの文化”だったりするじゃないですか。真っ先にマネした者が勝ちという。だから我々はオリジナリティーで勝負したいですね。だっていまさら真似したって無理ですよ、日本は人件費が高いので。真似するなら、中国の企業が真似したほうがうんと安く出来上がりますので。ここまで日本の人件費なんかが上がった状態で、そのまま真似しても採算に合わないんですよ。
平井 10倍使えますしね。10人体制が100人になりますし。
鈴木 だから企画力とか、成功したノウハウとか。高付加価値で稼ぐしかないんですよ。日本は。
平井 “できないできない”の体質から、“できるできる”の体質に変わってってもらいたいなと。
鈴木 そうですね。
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