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インタビュー

「職業:写真家 趣味:ゲーム制作」――板垣伴信氏にインタビュー

現在、テクモと裁判をくり広げている板垣伴信氏。有名クリエイターがこれまで在籍した会社を訴えるというショッキングな出来事に、驚いた人も多いに違いない。現在の板垣氏の心境をお聞きするとともに、板垣氏がこれから目指すゲームの方向性を含めて話を聞いてみた。

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――今回の提訴は衝撃的でした。裁判を起こされたということで、板垣さんのファンを含め、ユーザーは「これからどうなるんだろう」と思った人もいると思うのですが。

板垣伴信氏(以下、敬称略) 今その話を聞いて一番最初に頭に思い浮かんだことですが……。「DEAD OR ALIVE 4」の開発と調整を手伝ってくれた「明日の鉄人」という人たちが6人いるんですよ。本当にいい人たちばかりでね。酒もよく飲むんですが。あの当時は、彼らは朝9時から夜の6時まで自分の会社や学校に行って、終わったらその足でうちの事務所に来て、そこから朝まで調整ですよ。そこからスーツに着替えてまた働いて、そして戻ってきて調整という。僕はとにかくありがたかった。彼らの頑張りがなければ、あのゲームが出来上がらなかったのは間違いない。半年ほど前に、その彼らから、「最後にもう一度だけバランス調整をしてもらえないか」と言われて、それなら提案書を出してくれと言ったところ、彼らは6人で3カ月くらい協議を重ねて、揉んで……。このキャラはこうしたほうがいい、あのキャラはこうだという、提案書をいただいているんです。それが、こうした事態になっては、少なくとももう僕には彼らの期待に応えることができないから。

 ファンの人たちが僕の今後についてどう思うか、というご質問でしたが、それは私が6月3日に声明を出さざるを得なくなった時に一番最初に考えたことですから。結果的に声明が「NINJA GAIDEN 2」の発売日直前になってしまったのが、非常に無念でした。ただ僕が思うに、「DEAD OR ALIVE」ファンや「NINJA GAIDEN」ファンは骨太な人が多いし、オプティミスティック(楽天的)というか、生き方が上手な人が多いので、まあ板垣は板垣でなんかやるでしょ、と考えてくれていると思っています。

――そうは言っても、心配されている方も多いと思います。

板垣 ここは日本ですから、裁判というものを無条件に忌避する土壌がある。例えば「立つ鳥跡を濁さず」という言葉がありますが、口さがない人は僕のことを「立つ鳥跡を濁しまくり」とか言ったりもするでしょう。だけど僕からちゃんと伝えておきたいのは、今回の件は、澄んだ水の中に僕が泥をまいているわけではありません。むしろ逆ですから。僕は濁った水を真水にしてから立とうと思っているわけで。これがほんとの「立つ鳥跡を濁さず」だと思っていますよ。

――板垣さんがいらっしゃらなくても「DOA」シリーズや「NINJA GAIDEN」シリーズを作れるんだ、ということをテクモさんはおっしゃっていますが、この件についてどう思われますか。

板垣 それは僕がとやかく言うことではないですね。ただ、例えばですが、じゃあ、今のかすみとまったく同じテイストじゃなければ、かわいくないのかというと、僕は違うと思うんですよ。例えばもし松本零士先生がかすみちゃんを描いたとしたら、そりゃもう、先生にしか描けない絶品の美少女になるでしょう。あるいは宮崎駿先生が描いてもそうだと思います。何が言いたいかというと、彼女はあくまで“役者”であって、腕のある人が演出すれば “かわいいかすみちゃん”として演技するんじゃないのかな? だから結局は、監督の美意識で決まることです。そういう意味じゃ、実は映画の「DOA」はまだ見ていないんです。正直言うと「興味がない」ということですよ。

僕はもう明日のことを考えているので、昨日のことは断ち切って進んでいますから。だからこそ最初に言ったように、6人、あの時いっしょにやってくれたファンの希望に“僕が”応えることができないのは残念だ、ということですね。ただ、新しい監督がそれを叶えてくれるかもしれないし。

――最近はどのようなゲームに興味を持たれましたか?

板垣 小島秀夫監督の「メタルギア ソリッド 4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」を送っていただきました。特典映像に僕が出ているらしいんです。確かに撮影したのは覚えていますよ(笑)。でもどこに映っているのか分からなくて……。僕は小島監督を本当に尊敬していまして。すごいゲームに仕上がって、本当に良かったと思います。かっこいいですよね。

――これまでXbox 360を中心に仕事をされていた印象が強いんですが、プレイステーション 3とXbox 360の違いはどこにあるとお考えですか?

板垣 僕的にいえば、プレイステーション・プラットフォームというのは、“ウィンテル”PCに対して日本のコンピュータを作り上げるという、久夛良木健さんの挑戦者としてのスピリッツを体現すべく、「プレイステーション」から計画されていたことだと思うんですよ。だから久夛良木さんはPS3に対して「これはゲーム機じゃない」ということを常々おっしゃっていたわけですが。僕はソフト屋ですが、ハード屋としての久夛良木さんの指導力はすごいものがあると思っています。

 米国のパットン将軍の部下が書いた、パットンのエピソードをまとめた本がありまして。パットンに言わせれば、「指導者にとって大事なことは、非常識と常識のバランスをうまく取ることである」と。常識だけじゃ指導者にはなれないんですよ。時に、人が踏み出せないことに踏み出してしまうくらい、度胸のある人じゃないと、ウィンテルPCに対抗するものを作ろうなんて思いませんよね。そういった思想の先に出来上がったのがPS3だと思っていますので。

 それに対してXbox 360は初代のXboxからファブレスで、肥沃なPC市場で償却が進んだ高性能なチップを組み合わせて、コストや設計にかかわる設備投資を抑えて、安くてすごいマシンを作っちゃおうという発想ですから、思想がまったく違いますよね。僕がXboxに賭けた理由はそこなんです。だいたい3年先のことは読めますから。じゃあその上で走るゲームがどう違うのかと言えば同じに作れば同じになるでしょう。ただそれはお客さんから見た目であって、僕ら作り手にしてみれば、その間を取り持たなければいけないので、強力なマシンの方がやはり、お客さんに満足してもらえるゲームを作りやすい。そういうことですよね。

――退社されてからは、どのようなお気持ちで過ごされたのでしょうか。

板垣 僕ですか? 楽しくやってますよ。テニスやったり、写真撮ったり。テニスは相当やってますね……時間ができましたので。今度のAIGオープンもコートサイド取ったので楽しみです。去年のAIGはフェデラーが来るはずだったのにドタキャンされてがっかりだったけど(笑)。写真っていうのは、写真家になろうかと思いまして。いろいろ撮っています。そうそう、今月号の「EGM(Electronic Gaming Monthly)」に載っている僕の写真は、記者が僕のカメラで撮ったんです。撮ったというか撮らせたというか。写真が全然撮れない人で、「俺がここにこう立つから、こういう構図で撮れ」と言って撮ってもらった写真なんです。これがもう50分の1くらいのひどい歩留まりで。やっと撮れたと思ったら、アクセントのタバコが灰だらけになってたりして「やり直しだ!」みたいな(笑)。

 カメラはキヤノンが好きですね。メインは「EOS-1Ds Mark II」「EOS-1D Mark III」を使っています。Mark IIIはフェデラーを撮ろうと思って去年買ったんですけどね。ドタキャンでね(笑)。「EOS Kiss Digital N」も使ってますよ。キスデジなんかはジェットコースターに乗っている時に、後ろにいる娘をノーファインダで撮ったりするのには便利ですね。片手で持てますから。2GバイトくらいのCFカードを突っ込んで、適当に連写していれば一周してる間に面白い絵が何枚かは撮れてますし。TPOで選んでいますよ。

――充実した日々をお過ごしのようですね。

板垣 うん。とりあえず元気にやってますよ。そうですね、今は「職業:写真家。趣味:ゲーム制作」といったところでしょうか(笑)。という冗談を飛ばしていますが、いろいろ考えてはいますよ。“充電期間”という言い方はしたくないんで。やりたいことを全部やって……。今までやりたいことをやって生きてきた幸せな人間だと思うので、今もやりたいことをやる、と。写真を撮りたければ写真を撮って、酒を飲みたければ飲んで、テニスをしたければやって、あとは鉄道模型ですね(笑)。40歳までにはレイアウトを作ろうという人生計画だったんですが、41になっちゃったんで。いろいろあって1年遅れになりましたが、ようやくレイアウトを着工できまして。じゃあゲームはどうなってんだ? という話でしょうが(笑)、ちゃんと考えてますよ。

――鉄道模型のレイアウトを作っていらっしゃるんですね。これまでそういう話を聞いたことはありませんでした。

板垣 やってますよ。ただのおたくですから(笑)。僕らの年代のご多分に漏れず、中学のころからNゲージにはまっていまして。ほんと好きですよ。会社を辞めてから「Yahoo!オークション」で落としまくりまして、車両を買っています(笑)。ヤフオクを使いたいわけじゃないんですが、売っていないんですよ。カタログには載ってるのに、どこの店にも売ってない。仕方ないので初めてヤフオクをやりましたね。最初は取引実績ゼロなので、信用なしで誰も売ってくれなくて……。そこを「本当に買いますから、そこを何とか売ってください」みたいなことを書いたりして(笑)。僕は行っちゃうと行っちゃうんで、会社辞めてから1カ月で400〜500両増えたんじゃないんでしょうか。

 僕は中央線が大好きなんですよ。なのでまず101系の中央線を1編成買いました。そうすると、同じ編成がすれ違っているところを見たくなるじゃないですか(笑)。だから同じのをまた買うと。その次には、線路の脇の引き込み線に同じ編成が数本止まっているのを見たくなりますよね。という感じで4本、5本と増えて結局101系だらけと。好きなのは国鉄時代までの車両なので、101系、103系、201系、165系、115系……。そうなってくると中央総武緩行線も欲しくなるので、カナリアの101系でしょ、ATCなしの103系とか、どんどん増えていくんです(笑)。こう話していくと電車だけかと思うでしょ。機関車も好きなんですよ?(笑)。

――レイアウトはどれくらいのサイズを計画されているんでしょうか?

板垣 1200×3600ミリを考えてます。このサイズになると情景を作るのが大変ですけど、思えばゲームの背景CGを作るのはこれに比べれば楽ですよね。だれか手伝ってくんないかなと思ってるんですけど(笑)。

――駅のホームは何両編成くらいを想定しているんでしょうか?

板垣 このサイズだと頑張れば16両編成が止まるんですけど、コーナーの半径が小さくなっちゃいますからね。あとコーナーを抜けてきてすぐホームでは情緒がないですから、11両が止まれるくらいで我慢してます(笑)。ホームに入る前のダブルスリップが複雑に絡み合っているところとか、出発信号機が並んでいるところとか、そういうのがいいじゃないですか。ホームは貨物を含めて7番線くらいまで、あとは電留線が5本くらいかな。そうそう、ターンテーブルも落としましたよ、ヤフオクで(笑)。線路の配置はTOMIXの「鉄道模型レイアウター」を使っています。これが便利で(笑)。

――今後どのようなゲームを作りたいとお考えですか。

板垣 第二次世界大戦のゲームを作るとか、宇宙戦争のゲームを作るとか、いろいろなうわさが飛んでいるんですが(笑)。あれはコタクというところの記者さんが、なんかいい奴だったんで、ちょっとおもしろがって言っちゃったところもあるんですけどね。確かに戦争のゲームはいつか作ってみたいけど、まだいいかな。やりたいことと自分にできること、すべきことは必ずしも一致しないと思うんです。もちろん僕はゲームを作るのが好きですから、これからもゲームを作っていくんですが。でも、次に作るのもアクションゲームですよね。僕からアクションを取ったら何が残るのか、と。これまで作ってきたのは全部アクションゲームですからね。スポーツゲームもアクションであると言えるし。

 学生のころ趣味で作っていた時には「ガンダムを制御するゲーム」を作ったこともあります。ガンプラにPCを繋げて制御するという意味じゃないですよ(笑)。画面の中で、並行投影ですけど、ガンダムの各関節を操作して歩いているように見せる、と言う。ただ、インバースキネマティックスとか、そうしたことはその当時知らなかったので、角度制御で作りました。でもそれだと、地に足がつかないんですよ(笑)。何にしても、わたしはアニメーションに興味があって、もともとアニメばっかり見ていましたし。特定のゲーム名は出しませんが、僕が作ってきたゲームには、松本零士先生へのオマージュがたくさん入っているんですね。セリフとか着想とか。

――最近でもアニメはご覧になりますか?

板垣 アニメはよく見るというか、娘がずっと見ているんで。朝、起きるとアニメがついていて、家に帰るとやっぱりアニメ関係のチャンネルしか流れていないので。変な時代ですよね。「ベル薔薇」とか「エースをねらえ!」とかについて、娘と喧々囂々ですよ(笑)。「岡ひろみ」より「マキ」のほうが好きだなとか、これは「岡ひろみ」というより「宗方仁」の物語だと感じるよね、とか。そんな話をしてますね。好きだ嫌いだとやってますよ。ガンダムだとやっぱりガトーですかねえ。

 昔はいいアニメがいっぱいありましたよね。僕は日本のアニメを見て育ったので、アニメの良さとか美しさを感じてきました。アニメというのは状況を端的に描いて感動を引き出しますよね。それはゲームに通じますから、僕の作品作りに色濃く影響を与えていますし、そのあたりの“芸風”は今後も変わらないしょう。ただ、ゲームをプレイする人が広がりを見せていますから、場面によっては流れに合わせた方がいい時もあるかもしれませんね。

――深夜アニメとかも、ご覧になったり?

板垣 深夜って夜ってことですか? 見ませんよ。夜は飲んでますので(笑)

 そういえば最近じゃ「私塾」みたいなこともやっていまして。仕事としてではなく遊びとしてね。遊びを作る遊び。遊びを遊ぶ遊びというのかな? デザイン論であるとか、考え方とか、勝負論など。わたしのゲームデザインの根底にはギャンブルがありますから、ギャンブルをお教えする場合は、ちょっと授業料をいただいたりするんですけど(笑)。そういったことを教えて欲しいという人にはお教えしたり。

 若い人が出てこないと。僕は全然引退する気もないですが、30代とか25歳くらいの人がばんばん出てきた方が楽しいでしょう。もっと鼻っ柱の強い人がいっぱい出てきてほしいですね。

――今日はありがとうございました。

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