究極のプログラマーは「真田さん」!?――技術者のあり方とは :ヒライタケシの「投げる前から変化球」(その2)(3/3 ページ)
ちょっと間が空いてしまったが、ヒライタケシの「投げる前から変化球」第2回目をお届けしよう。今回はヘキサドライブの松下正和氏に登場していただこう。松下氏は大手ゲーム会社に在籍後独立。現在はゲームプログラマーの制作集団を率いている。平井氏との間で、どのような会話が展開するのか……。
次の世代へ―――これからのゲーム業界へ入ってくる人に期待すること
平井 これからゲーム業界に参加する若い人に、松下さんが期待してることって何ですか?
松下 プログラマーでも最近は、学生の時からメインプログラマーを目指したいと言う人が増えています。それはいいことなんですが、スーパーサブと呼ばれる縁の下の力持ち的な存在も必要なんです。メインプログラマーというのは、決して偉いわけではないですから。ですので、若い人には仕事の表の部分だけを見て欲しくない、と思っています。
ゲームを面白くする部分を作るプログラマーや、シェーダーや物理エンジンなどの技術面を支える人も素晴らしいんです。ただ、メディアなどにはどうしても、メインプログラマーやディレクターという肩書きの人が出てきますから。
平井 確かにディレクター、プロデューサー志望の人にはよくお会いしますね。どうしても露出が多いし、クレジットでは名前が目立ちやすいですし。
松下 まだ、ディレクターとかプロデューサーの仕事そのものが、誤解されているような気がします。プログラマーのままでいたとしても、ゲーム制作には深く関わっていられます。
平井 メインプログラマーになるのが最終目的ではなくて、枠にとらわれず何をしたいのか、どんなプログラムをしたいのかという主張をきちんとできる人が理想です。例えばアニメーションに強くなりたい、フレームワークをやりたいといった、1つの要素のエキスパートを目指す人が、メインプログラマーとして業界で生き残っていると思います。幅も深さも両方意識できる人といいますか。
そういう意味では、日常でも開発に集中するだけではなく、基礎研究がセットになることがベターですね。開発の中に全てがあるわけではないからです。今やりたいこと、やるべきことが、手がけているタイトルの開発の中にそろっているわけではない状況下でいかに基礎研究にもチャレンジできるか、です。開発ばかりやっていると、物は見えるけれど研究意識がなくなって古くなってしまう。研究ばかりやっているとサービス意識がなくなってアウトプットができなくなってしまいます。ここの、両方のバランスを取れる人が将来的に生き残れる。若い人はここを目指してほしいと思うんです。
松下 それは本当にその通りですね。加えて、プログラマーの仕事はプログラミングだけじゃないということは強く意識したほうがいいです。ゲームを面白くするためなら、良くてアウトプットが伴えばある意味手段は何でもいいんです。もっとみんな、“攻めの姿勢”でやってほしいですね。
平井 プログラムの話で伝え忘れたことがありました。厳しくスタッフに言ってるのは「データ依存するプログラムを書くな」という点です。必ずプログラムの中にデータを入れろと。あとはUIには厳しい目でチェックをします。人間の目線の流れは決まっているので、それを忘れずにUIを設計しろ。座標がプログラムの中に入ってたりすると「これはやめてください」と言います。
松下 ユーザー視点を忘れないということですね。これはわたしも先輩からずっと言われてきたことですが、たまに「パラメーターを全部外に出して調整してください」という人がいるんですよ。それはダメだと。プログラマーたるもの、ある程度「これ面白いですよね」ぐらいまで調整した物をプランナーに渡せ、と。小・中・大の攻撃が全部同じダメージだったら、それが面白いとは決して思えない。つまり、プログラムとして完成してるとは言えないでしょう。
平井 コーディング意識とアウトプット意識は違いますからね。プログラミングって料理と似ていて、素晴らしいスパイスがあったとしても、それだけ食べても美味いかどうかわかりません。そのスパイスに最適な料理を作って一緒に出さないと意味がないんですよ。
松下 アウトプットにこだわるのはプログラマーにとって大切ですよね。途中の過程にも、もちろんこだわりますが、途中って修正ききますから。
平井 僕の経験でも、自分が作ったシステムの中で、自分が想像している以上のことをやるプログラマーというのはいるんですよね。
「シェンムー」の時の話ですけれど、イベントプログラマーとシステムプログラマーは別枠で、イベントプログラマーはシステムプログラムのインタフェースを使ってしかコーディングできないんです。これは、システムが更新されても、全てのイベントをコンパイルし直さないといけない、ということが起きないように切り分けていたんです。
ところが、この環境ではまだできないだろうということを、いい意味で裏切ってくれるんです。セッションにも似た関係で、それができるなら、じゃあこの環境ならどうなんだろうといろいろと試せて楽しかったですよ。
松下 今はツールベースの開発環境に対して、みんなが効率を求め出しているので……。セッションみたいっていうのはいいですね。ある種の理想です。
平井 効率化という意味をエンジニアじゃない人にも分かりやすく伝えるためには、どうしたらいいんでしょう。
松下 ツール込みのシステムにして、なるべく画面上にその情報を出すとかになっちゃいますよね。
平井 僕も最終的なアウトプットがグラフィックになるのがいい形なんだと思います。客観的に判断できるし一目瞭然でしょう。
松下 昔はデザイナーもプランナーも、プログラマーに任せて信じるしかなかったんですが、客観的に判断してもらえるシステムやツールを作ることで作品の精度はあがります。プログラマーはしんどくなりますけど。
平井 そうですよね。さて、ここまでも強引にまとめますと、やはり「プランナー視点に立ち、ユーザー視点に立ち、料理を見据えたスパイスを」といった部分がお話として印象深いのですが、つまり、どういうことでしょう?
松下 そうですね……。やはり「真田さん」であることが必要なんだと思います(笑)。
平井 (笑)。それでは最後に、今後の抱負を聞かせていただけますか。
松下 ヘキサドライブも設立してから1年と4カ月しかたっておらず、チャレンジを始めたばかりです。このチャレンジをもっともっと続けて、新しいアウトプットをしていきたいですね。
平井 これまでとは違うコラボレーションを松下さんの会社とは一緒にやっていきたいですし、僕自身もその時が楽しみです。本日はありがとうございました。
ヒライからのひと言
第2回はヘキサドライブ代表取締役の松下さんにご登場頂きました。 大手企業エースプログラマーが独立してエンジニア集団を率いておりその体制に技術者として純粋にうらやましく思います。
ボクと松下さんはゲーム業界でいえばちょうど第二次世代といってもよいのではないでしょうか。
3D全盛期以前から業界に入って今まさにその渦中で技術とサービスの両面からプロダクションを創造する同志といっても過言ではないでしょう。今回の対談ではプログラマーとしての心構えや考え方、メインプログラマーの要素にフォーカスしたディスカッションとなりました。
日本ではゲーム業界だけでなく、かなり珍しいエンジニア同士の対談で内容としても、エンジニアだけでなく開発者や開発者を目指す方々に分かりやすいものになっていると思います。
改めて内容を読み返してみて、プログラマーというファンクションにしばられてお見合いすることなく、最終形を想像してコミュニケーションすることが大切なんだと再認識しました。皆さんに少しでも響くところがあれば大変うれしいです。
次回の対談候補はエンターテインメント業界というキーワードは一緒ですが、いわゆるゲーム機業界ではない一流の技術者とサービス、アウトプットにフォーカスしたディスカッションをしていきたいと思います。また違ったエンジニアの考え方や可能性を知ることができるのではないでしょうか。ご期待下さい。
プロフィール
平井武史(ひらい たけし)
キューエンタテインメント 最高技術責任者/CTO
代表作:「シェンムー」「スペースチャンネル5 パート2」「メテオス」「メテオスオンライン」
エンジニアとしてハイエンドからモバイル、Web、システム管理までほぼ全ての環境、言語を話す。
ヘアショーのサロン映像、音楽プロデュースを行ったり、海中での写真集を提供したりと守備範囲は広い。
海をこよなく愛するMSD(マスター・スクーバ・ダイバー)である。
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