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立ち上がれ、ミドルエイジ。これがオヤジのウェイ・オブ・ライフ「ゴッド・オブ・ウォー 落日の悲愴曲」レビュー(1/2 ページ)

PS2最高ランクのアクションゲームとして、非常に高い人気と信頼を集める「ゴッド・オブ・ウォー」シリーズがPSPで初リリース。携帯機のレベルを凌駕する、豪快かつ荘厳な叙事詩を魂の奥底で感じ取れ。

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いざ、蛮勇咲き乱れる古代世界へ旅立とう

 そう、これだ。これなのだ。

 正直言って、PSPでのリリースが決まった時には不安だった。何しろ、「ゴッド・オブ・ウォー」と言えば、抜群の操作性と、秀逸な美術を誇るシリーズ。すでにプレイステーション 2で2作品を発表した後で、携帯機に移ったのではどうしても見劣りするのではないか。もしそうなってしまったら、あまりツライ。悲しい。不安になるのは否めない。

 だが、そんな心配がまったくの取り越し苦労に過ぎないことは、ゲームを始めればすぐに分かる。よくここまでやったものだ。グラフィックはPS2、それも第2作「ゴッド・オブ・ウォーII 終焉への序曲」と比べてもほとんど遜色ないと言っていい。これは本当に驚かされた。据え置き機に比べると小さい携帯機の画面をフル活用し、キャラクターを縦横無尽に操るという、アクションゲームの根源的魅力を見事に構築している。すごい。英語圏の国々での圧倒的な人気があればこそ、ここまでこだわることもできるのだろうが、それにしても脱帽だ。疑ったことを謝りたくなるほど、とにかく素晴らしい。

携帯機にしてこのクオリティ。これならば、何も文句を言うことはない

 ゲームとしての基本的な構造は変わっていない。主人公であるクレイトスを操作し、出現する敵を倒し、フィールドに仕掛けられた謎を解いてステージをクリアしていく。世界観はギリシャ神話を基調にしながら、それらのモチーフを巧みにアレンジし、独特の様式美を作り出すことに成功している。相当な熟練を求められる“試練”や、一度クリアすると解禁になる最高難易度“God Mode”も健在。複数の隠しコスチュームも用意されているので、セカンドプレイ以降も新たな感覚で楽しめる。据え置き機で発売された前2作同様にこれらの極め要素を一通り盛り込んでいることもファンにはうれしい。


ギリシャ神話に基づく怪物たちとの激闘。ある程度ヒットポイントを減らすと画面の指示に従ってボタンを押していくCSアタックが発動する。この方法で倒すと、通常よりもボーナスを多くもらえる

 ストーリー的には、第1作のさらに前にあたり、クレイトスがまだ神々に仕えていた頃の戦いを描いている。第2作でオリュンポス崩壊を志すようになるクレイトスだが、この時点ではまだそこまで神々への怨みを抱いていない。このあたりの微妙な心理はセリフによく現れている。前2作でたぎっていた憤怒がないのだ。そのため、ここでのクレイトスはどこかあきらめを感じながらも、それでも神にすがるしかない、悲劇の英雄として描かれている。

 それがどんな経緯で神々への怒りを爆発させるようになるかは、今作、さらには前2作をプレイしてのお楽しみとして、ここでは伏せておく。思わず唸ってしまうほどのドラマチックな物語が展開するので未体験の方はぜひともプレイをお奨めしたい。メイド・イン・USAなら何でもありがたがる必要はないと思うが、このシリーズに関しては、明らかに日本国内で過小評価されている。世界水準のアクションゲームを知るうえでも、ゲームというメディアでここまで壮大なドラマが描けるのを知るうえでも、1人でも多くの方にプレイして戴きたいと思う。

ゲームを通して一般教養を磨くのもアリ

ゼウスの娘にして、アテナイの守護者である女神アテナ。オリュンポス十二神の中でもメジャーな存在だが、ゴッド・オブ・ウォーシリーズでは主役級の重要な位置づけが与えられている

 とはいっても、残念ながら、日本人がこのシリーズを味わう時、欧米人よりも不利な面があるのは否定できない。ギリシャ神話に関する知識の相対量がどうしても違うためだ。ギリシャ神話は欧米人によっては一般教養の範疇に入る。もちろん個人差はあるだろう。それはたとえれば、日本人でも日本神話について詳しい人とそれほどでもない人がいるのと同じだ。ただ、「ゴッド・オブ・ウォー」シリーズでは、ギリシャ神話への理解がストーリーをより深く楽しめるかに影響してくるので、知識の差がゲームをどこまで深く楽しめるかという点に関わってくる。念のために断っておくが、普通にプレイして普通に物語を楽しむという点では何の問題もない。ストーリーの裏にあるアレンジの上手さ、そこから垣間見えるクリエイター陣のセンスの良さがギリシャ神話への造詣の深さと直結しているのである。こればかりは知らないと分からない。

 だが、何かを調べようと思ったら大判の百科事典を担ぎ出さねばならない時代など、とうの昔に終わっているではないか。ちょっと単語を入れて検索ソフトを走らせれば、ギリシャ神話の基礎知識ぐらいあっという間に手に入る。いっそのこと、ゲームをプレイしたのをきっかけに、ギリシャ神話についてちょっとばかり調べてみるのも悪くないだろう。そこで得た知識が今後どう役立つのかは分からないが、知識というのはそれ自体が人生を楽しくしてくれる。ゲームという双方向性のメディアを体験した後で辞書にあたれば、ただ漠然と本を読むのに比べて格段に脳裏に刻み込まれやすいだろう。世の中には、ゲームなんぞ時間の無駄、という無茶なことを平然と言う人がまだまだいる。そんな連中を見返すためにも、ゲームが知的好奇心の入口となることを知らしめてやろうではないか。

新解釈で甦るギリシャ神話の神々、魔人、怪物たち

 いささか話が大仰になってきたので、ちょっと巻き戻し。

 まあ、そんなわけでギリシャ神話をベースにしながら、それに新たな魅力を与えているのが、このシリーズの魅力といえる。これがあるがために、単なるアクションゲームを超え、厚みのある娯楽が形成されているのだ。

 しかし、今回はややマイナーなところに焦点を当てているのも事実である。ギリシャ神話といえば、ゼウスを筆頭とするオリュンポスの十二神、あるいはヘラクレス、ペルセウス、テセウスなどの英雄がメジャーなところだろう。欧米では、これにアルゴ号の冒険、オイデュプス王の物語、そして何と言ってもホメロスが唱ったイーリアスとオデュッセイア関連の英雄や事績が続く。このあたりまでなら、日本人でもそれなりに付いていけるかもしれない。

 ところが、落日の悲愴曲では、太陽神ヘリオス、その妹である暁の女神エオス、冥界の女王ペルセポネといったあたりの神格が物語の中核に納まっている。これはなかなかシブい。エオスなんて、よほど詳しい人でもなければ知らないだろう。ペルセポネにしても、名前ぐらいは覚えていても、そのエピソードを知る人など、あまりいないと思われる。

 そういうわけで、いささかマニアックな知識を求めているところはあるのだが、アレンジの巧みさはいささかも劣っていない。特に物語で重要な役割を担っているペルセポネは、まさに現代的な解釈によって甦った存在として注目に値する。

 ギリシャ神話におけるペルセポネは、非常に従属的な存在として描かれている。彼女は豊穣の女神にしてギリシャ十二神にも数えられるデメテルの娘。容姿端麗、純情可憐な乙女である。ところが、その美しさに目を付けた冥界の王、ハデスがさらって地下に幽閉し、無理矢理自分の妻にしてしまう。つまり略奪婚である。デメテルは娘が消えたことで嘆き悲しみ、そのせいで作物がいっさい実らなくなる。困ったゼウスが仲介に入り、ペルセポネをハデスの妻とするが、1年の半分は母のもとに帰ることを認める、という妥協案で解決する。

 さて、この決定にペルセポネはいっさい関与していない。自分の夫を決めるのに、何も意見を言わせてもらえないどころか、最初から議論の外に置かれているのである。しかも、もともと略奪婚だったのに、ハデス寄りの解決になっている。ゼウスが兄であり、男神であるハデスの顔を立てているのは一目瞭然だ。ここには当然ながら古代の家父長的制度が存在する。もちろん、ギリシャ神話はだいたい紀元前4〜5世紀に成立したといわれているから、約2500年以上も前のモラルを現代の感覚で云々するのは控えるべきだろう。ただ、そうはいってもこのペルセポネの描き方が21世紀では到底通用しないのも明らかだ。そこでスタッフはどうしたか。その答えは今作をプレイして直接確かめていただきたい。思わず、なるほどこう来たか、と思うこと請け合いである。

暁の女神エオス。太陽神ヘリオス、月神セレネと並び、天空の輝きを司る。血統上はウラノスとガイアの孫にあたり、ティターンの一員とされる
冥界の女王とされるペルセポネ。しかし、それは単にハデスの妻であるということから来ており、彼女自身が望んで就いた地位ではない

 ペルセポネ以外にも面白いアレンジはいろいろあるのだが、あまり挙げていてもキリがないし、第一、プレイ時の興を削ぐので後ひとつだけにとどめよう。筆者の個人的なお気に入りは、冥界の渡し守・カロンである。この世とあの世の境を流れる川を守り、死者の魂を冥府へと運ぶのが役割で、イラストでは古びたローブをまとったやつれた老人として描かれることが多い。どう考えてもあまり戦闘向きには思えないが、「落日の悲愴曲」では彼をステージボスクラスの強敵に引っ張り上げている。もともとの設定を考えると、ずいぶん無理しているなあ、と思うのだが、これがどうしてどうして。伝統的なイメージを遵守しつつ、見事に再生されたカロンのデザインを見よ。特にあの仮面はべらぼうに素晴らしい。絶賛!

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