立ち上がれ、ミドルエイジ。これがオヤジのウェイ・オブ・ライフ:「ゴッド・オブ・ウォー 落日の悲愴曲」レビュー(2/2 ページ)
PS2最高ランクのアクションゲームとして、非常に高い人気と信頼を集める「ゴッド・オブ・ウォー」シリーズがPSPで初リリース。携帯機のレベルを凌駕する、豪快かつ荘厳な叙事詩を魂の奥底で感じ取れ。
クレイトスが明示する日本ゲーム界の特異性
ここからは、圧倒的なクオリティを誇る「ゴッド・オブ・ウォー」シリーズが、なぜ日本であまり受け入れられないのか、という点について考えてみたい。ギリシャ神話という世界観がある程度その一因になっていることは事実だろう。ただ、日本人はファンタジーに対しては結構寛容で、割と何でも受け入れてしまう。その点から考えれば、ギリシャ神話など、メジャーなほうに属する。原因は別にあると見るべきだろう。
となると、やはり最大の原因はクレイトスという主人公なのではないか、と思えてくる。彼を一言で言えば、「むくつけきハゲオヤジ」。
うーむ、美男美女か、あるいは少年の主人公が多い日本のゲームにはこのタイプはあまりいない。というより、まずいない。しかもそのオヤジが「フンッ、フンッ」と、荒い息を吐きながら大地を走り、宙を舞い、水中を泳ぎ、敵を打ち倒す。なかなかに暑苦しい。このマッチョなイメージもマイナスなのかもしれない。
クレイトスのイメージはシリーズを通して一貫しているが、「落日の悲愴曲」では、従来とはちょっと違った雰囲気が出ている。オヤジはオヤジである。だが、それがいい方向に進化したのである。父として、一家の大黒柱としての風格が付いたのだ。それも家族のために自己を犠牲にする、いわば耐えるオヤジとしてのイメージ。背中で魅せるオヤジになったのである。
怒りが引っ込んだクレイトスは、その分、神々の無理難題に唯々諾々と従っている感じが強くなった。従来のファンは今回は生ぬるいな、と思うかもしれない。しかし、その理由が家族、とりわけ娘のため、となればどうだろう。実は筆者はこの点こそ「落日の悲愴曲」の根幹ではないかと考えている。日本のゲーム文化にも直結することではないかと思うので、以下、詳しく述べていきたい。
実はメインターゲットは中年層?
先程も言ったが、日本のゲームでは美男美女や少年が主人公になることが多い。これは作り手が、メインとなるプレイヤーを10代後半から20代半ばあたりに置いていることの現れだろう。かつて、ファミコンからスーパーファミコンがメインハードだった時代、つまり1990年代中盤まではゲームの最大のプレイヤーは間違いなく子供、それも男の子が多かった。だから主人公が少年になるのは当然だろう。その後、1994年の32ビット機登場以降、ゲームプレイヤーの対象年齢が上がり、20代中盤までをカバーするようになった。この頃、レース、スポーツ、音楽など、20代前半の層が関心を持つジャンルのゲームが急速に発展したことはこうした狙いと関係している。
それからさらに10年以上の時が流れた。かつてプレイステーションがリリースされた当時に20代中盤だった層も、現在では30代後半から40代前半ぐらいになっている。人生80年と考えても、もう立派な中年世代。晩婚が進んでいると言ってもすでに結婚し、子供を持っている人もいるはずだ。
ところが、なぜか日本のゲームにおける主人公には変化がなかった。相変わらず、少年と美男美女。少年はスーパーファミコン以前から、美男美女は32ビット機以降の流れから生まれた主人公像である。ここまではいい。ところがなぜか、そこで止まってしまったのだ。
子供の頃からゲームに親しみ、いまだにそれを生活の一部に取り込んでいる人は、もう30代半ば、下手をすれば40代になっているだろう。なのに、ゲームをプレイしようと思うと、自分と同年代の主人公はいない。それはまあ、腹のせり出したオヤジがエンターテイメントになるかは微妙だが、それにしても同年代の主人公がほとんどいないというのは、いくら何でも極端ではないだろうか。
このことはゲームの多様性という問題に結びつく。いろいろなタイプのゲームが共存することは業界の活性化という点で大きな意味を持つと考えられるが、日本のゲーム界ではその多様性が失われている。それも海外では、クレイトスのように魅力的なオヤジキャラが大人気を呼んでいる時代に。
オヤジは頑張る。家族のため、娘のために
映画、小説、コミックなどが年代に応じて多様性を持っているのに比べても、ゲームはいささかアンバランスに思える。より良き未来のためにも、こうした状況は変えていかねばならないだろうが、そういう観点から見た時にも「落日の悲愴曲」は一考に値する価値を持つ。よくプロ野球などで40代の選手が頑張ってオヤジ世代のヒーローなどと呼ばれることがあるが、ゲームにおいては現在のところ、その名誉を受けるに値する最大の存在がクレイトスなのでないだろうか。
粗暴だが家族だけは心から愛していたオヤジの願い、悲しみ、絶望、怒り。それらが極限まで高まって生まれる究極の虚無感。まだシリーズ未体験の人は、それをこれから味わえる特権を有している。まずは「落日の悲愴曲」から始め、前2作もプレイしてその魅力を堪能して戴きたい。
もちろん、クレイトスはオヤジ世代だけのヒーローではない。その激しくも悲しい生き方は世代を超える普遍性を有している。それでもこのヒーローは、一定以上の年齢に達し、家族の存在を意識した者にとってより一層強く訴えてくるのだ。ゲームを愛するミドルエイジのプレイヤーよ。ここに諸兄を熱くさせるドラマがある!
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