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CEDECは「新しいこと」と「次にくること」を提示する――「CEDECの10年、これからの10年」CEDEC 2008基調講演

9月9日、日本最大級のゲーム開発者カンファレンス「CESA DEVELOPERS CONFERENCE 2008」が始まった。先陣を切るのは、CESA副会長兼技術委員会委員長を務める、コーエー代表取締役社長の松原健二氏。CEDECのこれまでを紐とき、これからを指し示す。

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「CEDECの10年、これからの10年」と題して基調講演を行った松原健二氏

 9月9日から11日にかけて世田谷区にある昭和女子大学を会場に開催される、日本最大級のゲーム開発者カンファレンス「CESA DEVELOPERS CONFERENCE 2008」(CEDEC 2008)が開幕した。その先陣をきったのが、主催者である社団法人コンピュータエンターテインメント協会で副会長兼技術委員会委員長を務める、コーエー代表取締役社長の松原健二氏。

 基調講演として語られたのは、CEDEC 2008最初のセッションとしてこれ以上ないプロローグとなる「CEDECの10年、これからの10年」というタイトルがつけられている。今年、CEDECは10周年を迎えた。ゲーム開発者のスキルアップを目指して始まったCEDECも、近年ではその規模を拡大し、約100のセッションと2000人近い参加者を集めている。松原氏はその歴史と、そしてこれからのあるべき姿を提示しようというのだ。

基調講演が行われたホールはほぼ満席で、立ち見も出るほどの盛況ぶりだった
当時、松原氏がバイブルとして参考にしていたのが「コンピュータ・アーキテクチャ 設計・実現・評価の定量的アプローチ」

 松原氏はまず、東京大学大学院工学部情報工学修了後、日立製作所に入社しエンジニアとしてCPUとスーパーコンピュータ2台を開発。米国留学後に、日本オラクルで2000年問題などを担当し、2001年にコーエーに入社したと簡単に自身の経歴を紹介。ゲーム業界に7年しか携わっていないと断っておきながら、CEDECのなりたちをひもとく。

 CEDECはそもそも、1998年春から1999年春まで5回開催された「技術戦略説明会」として始まった。ここではハードウェア技術情報などをCESA会員に公開するといった趣旨で、第4回では「『ファイナルファンタジーVII』の開発について」や「ドリームキャストのハードウェア概要と開発環境について」といった内容の、わずか1日だけの東京ゲームショウ併催のイベントとして行われた。この技術戦略説明会を、ゲーム制作のあらゆる情報を提供する場へと発展させ改称したのが「CESAデベロッパーズカンファレンス東京」(CEDEC TOKYO 1999)となる。「CEDEC TOKYO 1999」は、2日間、25セッション(プログラミング、グラフィックデザイン、プロデュース、サウンドの4部門)が用意された。当時の開催概要を見る限り、“ゲーム開発にかかわる技術情報の公開と交流”と、技術者同士の知識の共有はもちろんのこと、交流にも主眼が向いていることが分かる。開発技術の向上やコンテンツ制作への活用、そして次世代への還元を見据えたコンセプトが打ち出され、現在に至っている。

 CEDECは、1999年に第1回が開催された後、時代に則してネットワーク分野の独立やセッション増加に伴い3日間開催を試行、ラウンドテーブルの導入、東京ゲームショウでの「CEDECプレミアム」開催など、さまざまな取り組みがなされている。そして今年のCEDEC 2008では、開発者が技術を評価し、開発者を表彰する「CEDEC AWARDS」を開催する(9月10日に授賞式が予定されている)ほか、産学連携のアカデミックと業界をつなぐ場として「CEDEC ラボ」が創設されている。なお、“聞く”CEDECから“参加する”CEDECへと発展させるためのラウンドテーブルの充実や、グローバルな視点を養う海外セッションの創設、セッションの品質向上と統一性を保つための大手開発メーカーの実務エキスパートが担当するセッション・プロデューサー制の導入、フレキシブルな参加を可能としたセッション事前登録の廃止など施策している。

CEDECの前身となった第4回「技術戦略説明会」のセッション数は7つ
各セッションの聴講者を積み上げた数ではあるが、各施策が功を奏し、総数が伸びることを期待すると松原氏
1999年には25セッションだったCEDECも、2008年には100を超えている

CEDEC関連として「GDC」を紹介。今では世界最大のゲーム産業イベントとして成長した。CEDECはGDCを模範とし、さらなる拡大を狙う
GDCでのセッションタイトルを分類すると、時代の流れに敏感に反応し、次世代ものを扱う内容が2008年にはひとつもなくなった

こちらはセッションの内訳。やはりプログラミングとゲームデザインが多い。これはCEDECでも同様
GDCとは異なり、学会が中心となる「SIGGRAPH」(Special Interest Group on Computer GRAHics)。1974年に第1回目が開催され、毎年夏に開催されているSIGGRAPHは、アメリカコンピュータ学会のCG分科会による国際会議。GDCとの参加者数を比較すると肉薄していることが分かる

 Xbox 360、Wii、プレイステーション 3といったいわゆる次世代機と呼ばれたものが登場する以前、今後はグローバルに高性能新世代機へ移行が進み、高性能新世代機の機能を生かしたゲームが続々登場し、ハード・ソフトの相乗効果を生むと思われていた。しかし、結果として高性能新世代機が市場を支配するとは限らなかったと、松原氏は日本、北米、欧州におけるプラットフォームの販売台数を比較してみせる。

 2007年の世界のゲームコンテンツ市場規模は、3兆7972億円と前年の34%増となったが、北米35%、欧州32%と堅調な中、日本が14%と芳しくない。家庭用ゲームソフト市場規模は、2002年に3000億円と欧州と同等だったものが、2006年には日本が横ばいを維持していたのに対し、欧州は5000億円を超え右肩上がりの成長を示している(北米もしかり)。地域別シェアを比較すると全世界的にニンテンドーDSやWiiが好調なのは変わらないが、欧州ではPS3が、北米ではXbox 360がシェアを伸ばしていることなど地域差があるものの、日本に比べて新世代機が普及していることは明らかだ。それは、「Grand Theft Auto IV」が販売本数が1000万本を超えたことからも、日本の市場との乖離(かいり)が見て取れる。欧米市場は新世代機の普及が進んでいることから、開発経験の蓄積が先行しており、日本との格差が発生しているのだ。ハードそのもののポテンシャルを生かしきれているかどうかは置いておくとしても、現時点ではその遅れが開いていることは否めないと松原氏。しかし、市場が小さいから、新世代機で売っていくことが難しいから投資はできないと、研究開発を後回しにしていいのかということではないと苦言を呈する。研究開発を続けなければ今後の多様化にますます取り残されることが明白だからだ。

 松原氏は今後、ゲーム開発技術に求められることとして、プラットフォームの多様化への迅速な対応と、ゲームプレイヤーの多様化への対応、そしてグローバル多様化への対応を呼びかけた。特にグローバル多様化への対応については、先行する北米はもちろんのこと、欧州としてひとくくりにできないほど独自のニーズを持つ、それぞれの地域別での対応が必要になるとのこと。また、ITの基礎研究のスピードは速く、高度化している現在、研究対象を絞り込み、ゲーム開発へ応用するまでの時間をどう短縮していくかが鍵になると賛同を求めた上で、将来基礎研究の動向と応用との親和性を提示することと、技術開発の発表や聴講、交流の場が重要になると、CEDECの意義がますます高まるとした。

 それを受けてCESAでは、ゲーム開発技術レベルを高め、高品質なコンテンツ、高効率な開発を実現するため、支援および啓もうを行うことを目的としてCESA技術委員会を設立し、ゲーム開発技術のロードマップの作成、アカデミックとの連携による研究を支援、最新ゲーム開発技術をCEDECだけでなく国内外に紹介していくことなどを目標として活動を行っていると松原氏。その一環として、今年からCESA技術委員会の下部組織として、CEDEC全体の運営の統括・支援ならびにカンファレンスの全プログラム・コンテンツの策定と実行を担当するCEDECアドバイザリーボードが設立されている。

 CEDECはゲーム市場の発展拡大に求められる、技術開発情報の発信&開発者交流の場としたいと改めて当初のコンセプトを引き合いに出し、今後の指標となるキーワードとしてこれから出てくるであろう「新しいこと」を提供し、ゲーム市場でどういったものが「次にくること」なのかを情報発信する、開発者交流の場を設けていくと、さらなる技術者への協力を松原氏は呼びかける。

 CEDECは、いわば方向を指し示す羅針盤のような役目を担おうというのだ。それゆえに、よりよくどう発展させていくのかは参加する人々からのフィードバックに期待するところが大きい。


 なお、今年のCEDEC 2008では、本日行われた松原氏のほかに、9月10日にはカプコンの稲船敬二氏が、そして9月11日は任天堂の宮本茂氏が基調講演で登壇する予定となっている。基調講演のほかにも、CEDEC10周年記念パネルディスカッションとして「すべてはここからはじまった 〜スペースインベーダーとパックマンから学ぶ事、そして次世代へ〜」をはじめとした、100を超える注目のセッションが行われている。

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