ゲームとアカデミーの素敵なカンケイ(第1回)――東京大学 大学院情報学環 馬場章教授(2/4 ページ)
「ゲームとアカデミーの素敵なカンケイ」は、ゲームを学術的に研究するさまざまな人たちにフォーカスして、その研究内容や将来の構想についてうかがっていく。第1回目は、日本デジタルゲーム学会会長でありCESAの理事をつとめる、東京大学 大学院情報学環教授の馬場章先生。日本の最高学府では、どんな研究が行われているのか……?
ゲーム大国日本が、ゲーム研究で立ち後れている事実から
―― 馬場先生は、とにかく世界中を飛び回ってらっしゃいます。学生の方からも「馬場先生はいつ寝てらっしゃるのか……」という話を伺ったことがあります。
馬場 8月はドイツのライプチヒで開催されたゲームズコンベンションに参加していましたし、9月はアテネに行きますし、10月には台北とアラブ首長国連邦のドバイ、11月にはロサンゼルスに出張の予定です……。国内での活動もありますが、だいたい、1年のうちで5分の1程度は海外にいまして、そのほとんどがデジタルゲームについての活動です。アテネはたまたまデジタルアーカイブについてですが、10月に行く台湾、ドバイもデジタルゲームについてですね。睡眠時間は平均3時間ぐらいでしょうか? 研究室で徹夜ということもよくあります。
―― やはり、海外の方がそういった研究が盛んなのでしょうか。馬場先生は、さまざまなインタビューで「日本はゲーム研究で立ち遅れている」とおっしゃっています。DiGRAも、もともと母体となる団体はフィンランドで設立されていますね。それを解消するために日本デジタルゲーム学会「DiGRA JAPAN」の立ち上げをされたということでしょうか。
馬場 これまでにも「ゲーム学会」や「日本シミュレーション&ゲーミング学会」など、ゲーム関連の学会は既にあることにはあったのですが、それとは違うコンセプトでゲームの学会を立ち上げようと2年前にDiGRA JAPANを立ち上げました。その時に出た新たなコンセプトの1つは、やはり「国際的な活動を重視する」というのがありまして、それは海外のゲーム研究に追い付きたい、産業に比べて日本でのゲームの研究が著しく遅れているという認識から出発しています。
―― 海外の場合、研究と産業が密接に連携して、そこから研究としても、産業としても良い結果が生まれているケースが多いのかと思います。それはゲームに限らず他の産業でも。
馬場 一般的に言えることですが、日本でも他の産業であれば、産学(産業・教育研究機関)の連携であるとか、産官学(産業・国、地方自治体・教育研究機関)の連携はかなり進んでいると思っています。それに比べて日本のゲーム産業は今まで世界的に見て優等生だったにも関わらず、国内の産学連携、あるいは産官学の連携が著しく遅れている、そういう問題があると思うんですね。
―― その原因はどこにあるのでしょうか?
馬場 産官学それぞれに責任があると思いますが、共通していることはゲームの社会的な地位の低さが原因だと思います。例えば学、大学や研究機関の研究者の側でいうと、ゲームが研究の対象になり得るという認識がなかったと思うんですよ。私の目から見て「あなたのやっている技術研究は実はゲームにも応用できるんじゃないんですか?」と言ってみても本人はその自覚がなかったり。それは技術だけではなく、他の分野の研究にも言えることなんですが……。
産業界の側も、大学と連携できる、あるいは国の一流の機関と連携できるだけのテーマだという認識がゲーム業界の中に無かったと思うんですよね。ゲームを作り出している企業、産側は「自分たちの作っているものに、学に対して何か引け目を持っていなかったか? そういう意識が産業界の側にありはしなかったか?」と私は思うわけです。ただ、最近は徐々に産学官の距離が近くなってきているのではないかと思います。きっかけのひとつは、韓国など他の国々が産業としてのゲームに注目をして、しかも政府が力を入れるという政策が成功したことがあります。日本でも経済産業省を中心にデジタルコンテンツやゲーム産業に、それなりに注目をするようになってきたわけですが……。
―― それでも、海外に比べて連携の度合いは足りていない?
馬場 まったく足りていないですね。理想的な産学連携の姿としては、やはり相互乗り入れが必要です。例えば半導体の研究であれば、企業の研究者が大学の研究室で研究すると思うんです。あるいは大学の研究者や学生が企業に行って一緒に研究するとか。物理的にも人的にも相互乗り入れがあるわけです。ところがゲーム研究についてはそういうことはほとんど……実は私のところで始めたので、一切ではないんですけれども……ない。
私の認識で言うならば「産学連携しよう、連携したい」と思ったところですらお互いの窓口を探している段階じゃないのかなと。ゲームの産学連携が商業的に成功した事例は一部ではあります、川島隆太先生の「東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング」などですね。「脳トレ」は商品化に結びつき、すばらしいセールスを記録しましたが、これはきわめて特殊な例で、「脳トレ」を産学連携の一般的なスタイルと捉えられてしまうとまた間口が狭まってしまいます。もっと他の分野で進んでいるような産学連携に近づけるためには、ゲーム産業界と研究機関・学校等が物理的にも人的にも乗り入れていくような。そういう形が理想ではないかなと思います。
―― 最近は、大学や大学院を卒業した後にゲームメーカーに入る方も少しずつ増えている印象を受けます。
馬場 そうですね、現に私の研究室や情報学環からもゲーム会社に就職している卒業生は少なくありません。全国的に見ても確かに増えてきていると思いますし、そこにはDiGRA JAPANもその役割を少しでも果たしているかなと思います。DiGRA JAPANの研究会や公開講座で大学の研究者や開発者の方々が顔を合わせる場が多くなった。名刺交換をし、コミュニケーションが発生し、もっと深いところへと話が発展するチャンスが生まれているのかな、と。
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