ユーザーに対しての“約束”を守りたいゆえの再開発へ――GMO Games代表取締役社長 アンディ・クォン氏へインタビュー
3D冒険アクションMMORPG「キノスワールド〜パジャマの騎士〜」のサービスが一時休止する。なぜこんな事態に陥ったのか? GMO Gamesのクォン氏に話をうかがった。
GMO Gamesは、3D冒険アクションMMORPG「キノスワールド〜パジャマの騎士〜」のサービスを、10月31日(金)午後5時をもって一時休止し、来秋に再開すると発表されたのは先日のこと。本日10月17日午後5時をもって新規会員登録も一時停止することになっている。
既報では、「今後の展開について慎重な協議を重ね、現状満足がいくレベルに達っしていないと判断。GMO Games初の自社ブランドコンテンツとする準備のため、オープンβサービスを一時休止し、来秋再開する」と発表していた。今回、GMO Games代表取締役社長のアンディ・クォン氏にお話をうかがう機会を得たので、「キノスワールド〜パジャマの騎士〜」サービス一時休止について聞いてみた。
アンディ・クォン氏(以下、敬称略) 「キノスワールド〜パジャマの騎士〜」のプレスカンファレンスにおいて、我々はユーザーといくつかの約束をしました。その中でも、韓国のもの(韓国では「LUDIX Online」としてサービスされていた)ではなく日本のゲームとしてユーザーに提供したいという約束について、望ましい形で提供できていなかったことに悔いを残しています。本作を期待していたユーザーがなぜ離れてしまったのかを考えるに、我々が普段からしてはいけないと心に誓っていたことを、まさにしていていたのではないか……。
今、日本国内では500近くのオンラインゲームがサービスされていると言われていますが、その中の1つとしてうまくいかなければそれでいいと捨て去るには、ゲームに対する我々の哲学に反するものがあった。ちゃんとしたサービスを行い、ユーザーをテスター扱いしないという約束を守るよう務めてきましたが、予想外の不具合が相次ぎ、うまくサービスを提供できませんでした。7月11日にオープンβテストを実施しましたが、ワタシ自身3日間徹夜で遊ぶ、これでは駄目だと3日後には韓国の開発元・NFRONTへ出向き、修正を申し出ました。その際は、すぐに直せるとの解答を得ていたのですが、それはなかなか実行されることはなかったのです。
サービスを中止するのもひとつの判断だったと思いますが、我々は納得できなかったのです。もっとちゃんとしたサービスができたはずではないかと。その後悔が一時休止、再開発の1つ目の理由です。
そして2つ目は約束にも付随することですが、国産タイトルを増やしたいという思いがありました。ゲーム事業は文化産業の1つととらえています。その国特有の文化を反映されるべきなのです。例を挙げれば中国では8割韓国産タイトルだった市場が現在、半分以上が国産タイトルに推移しています。これもひとえに中国ユーザーのかゆいところにまで手が届く仕様に、国産タイトルが成長しているからにほかなりません。
日本のPCオンライン事業を盛り上げるためにも、国産タイトルが多くサービスされるべきですし、もっと日本のテーストを乗せるべき、ユーザーとインタラクティブに意見を交換していくべきなのです。そこで、開発元から買い取り再開発することを決意したわけです。
―― 開発元であるNFRONTとはどういった話がなされたのでしょうか?
クォン 最初の1カ月は具体的な話はありませんでした。まずは不具合を修正しようと躍起できたから。途中、修正がうまくいかず外部のコンサルタントを呼んだりもしましたが、根本的な解決はなされないままでした。そうして開発元と意見交換をしていく中で、さきほどの話にも出ましたが、哲学の違いというか、ゲームに対する考え方の違いを感じるに至りました。
ユーザーが減っていく中、現場は頑張っていましたが、8月には役員と買い取って開発し直すことを検討しだしました。そして、8月末には具体的に話を進めていく、GMOインターネットグループ全体の会議にもかけ、9月後半に内部の調整が取れ発表となったわけです。
ユーザーの中には、「だまされた」という気持ちになっている方も多いと思います。しかし、我々も予想外のことで戸惑っているんです。それでも我々は真摯でいたかった。我々自身、ユーザーとして納得できるものにしないといけないと思ったんです。
―― 実際協議を重ねる中で感じた、ゲームに対しての考え方の違いとは?
クォン 韓国の開発会社全般でいえるのですが、あまりにもシステムチックに物事を考える傾向があるんです。例えばPvPに関していえば、韓国ではシステムとして実装するだけと個別に分けて考える傾向にあるのに対し、日本では目的がしっかりあり、なんのためにやるのかというのを明確にしておかないといけない。だからこそ日本での展開ではストーリー重視でいこうとしていたわけです。
また、本作はパズルをクリアしていき成長していくのですが、ゲーム中4つあるクラスの1つでしかクリアできないパズルがあっては意味がないんです。韓国側としてはだからこそパーティーを組んで協力プレイをするのだといいますが、それは理論上の話であって、現実はいきなりパーティーを組んでとはいきません。しっかりコミュニティーをつなぐシステムがないと厳しい。その点でもギャップを感じました。
そして、なによりゲームバランスの考え方が違いました。ワタシ自身ユーザーとして遊んでいるのですが、特にバランスの悪さに辟易したのは事実です。
もちろん、葛藤はありました。サービスそのものをやめるべきか、それともこのまま正式サービスに入ってやっていくべきか……。でも、ユーザーとして納得できなかったんです。このゲームはもっと面白くなるはずです。ちゃんとこのゲームは面白いと思われるよう、愛着を持ってもらえるよう評価してもらいたいという思いに至ったのです。
―― ユーザーからの要望意見で多かったものはなんですか?
クォン 不具合を除けば、ゲームバランスについてが多かったです。あとはあまりにも単純すぎるということや、スキルの数が少ない、クラスが少ないなどでしょうか。
―― ユーザー数はどう推移したのでしょうか?
クォン 目標の3割、4割程度です。最初はいい調子だったのですが、不具合で急激に落ちました。一番残念に思うのは、中高レベルのユーザーをがっかりさせたことです。不具合があっても楽しんでくれたユーザーに、ゲームそのもので落胆させた。ワタシもかなり怒りました。
―― 引き取らずにコントロールすることもできたのではないでしょうか?
クォン 実際にやってはいたのですが、ある程度の限界を感じていました。先ほど話した開発するにあたってゲームに対する相違はいかんともしがたい。人間は経験してないことは分からないものです。子供を実際育ててみないと分からないという感覚と似ています。韓国の開発元に、日本はこうなのだと説明しても根本的なところは理解できないものでしょう。日本独自のシナリオなどを入れて韓国と異なるものにしていますから、その点でも相違がありました。
―― クローズドβの前段階で判断はできなかったのでしょうか?
クォン 予想外のことだったんです。韓国である程度、サービスしたものだったのですが、オープンβテストでユーザーが増えたことで発生した不具合が多かった……。直していけると思っていましたが、時間がかかりすぎました。そもそも、開発会社とはスタッフの増員計画を取り交わしていたのですが、実際はスタッフの増員は行われず、限られたリソースの中で不測の事態に対処するのに人を投入せざるをえなく、修正が進まず、悪循環に陥ってしまった。最終的には10人以下で対処していたことになります。
―― 再開発するにあたりどういう風にしたいというビジョンはありますか?
クォン 一応、再開発に3年、4年かけるわけにはいきませんから、基本的なアーキテクチャは維持します。つまり、横スクロールは変わらないのですが、それ以外はどう変わるかこれから協議していきます。かなり大幅な改革をしたいとは思っています。ある程度、ソースコードも把握しているので、1年でどれくらいできるか検討している最中です。
―― サービス再開はいつくらいを目処にしていますか?
クォン 1年後には正式サービスしたいと考えているので、来年の夏くらいにはβテストにこぎつけたいと思っています。ゲーム開発社出身であるGMOゲームズコリアのユン・ジェス氏を中心に、日本から韓国にスタッフを常駐させ、国産ゲームとして生まれ変わらせる予定です。ユンとは10数年の仲なので、互いにゲームに対する哲学を知っています。韓国が開発の拠点となりますが、日本をターゲットに多くの日本人と日本を知るスタッフで同じ考えのもと、進めていきたいと考えています。
―― 再開するにあたって、ユーザーの目は厳しくなると思います。
クォン 根本的にいいゲームには人が集まるという信念があります。ハードルが高くなるのは覚悟の上です。そのハードルをどう排除していくか。1年の間に、開発ブログなどでユーザーとやりとりし、リアルタイムでユーザーとのコミュニケーションをやっていきます。そして、タイトルに興味を持ってもらいたい。そういう意味でもサブタイトルは分かりませんが、キノスの名前は残すと思います。現在、イラストレーターの平尾さんに作業してもらっているので、順次そのイラストも公開していきたいと思います。信頼を取り戻すしかありません。正々堂々頑張っていきたいです。
―― ユーザーに対してひと言お願いします。
クォン オンラインゲームの歴史は韓国ですら10年です。産業として子供と言わざるをえません。日本国内に定着して5年ほど経ちますが、いまだ盛り上がっていないのが現状です。それは、オンラインゲームへの不信であり影が目立つからと推測しています。我々としては、産業として発展していくんだという姿勢を見せることが大事で、ゲームに対して愛情もって育てていくのが大事と考えています。
問題があってそれを改善していくことが正常な産業の姿であり、そうして市場は成長していきます。責任をもって変えていきますので、応援していただければ幸いです。
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