これがないとゲームが作れない!? 3Dグラフィックツールの世界最大手、Autodesk(オートデスク)ってなんだ?(2/2 ページ)
「オートデスクなしではゲームが作れない」とは果たしてどういうことなのか? 3Dのモデリングツールを掌握したオートデスクのキーパーソン、ハゲティ氏のインタビューを交えて紹介したい。
2Dのアドビ、3Dのオートデスク
なかでも2008年11月、オートデスクがソフトイマージ買収を発表した際は、ゲーム開発者の間で衝撃が走ったという。分かりやすく例えをるなら「もし3大携帯電話キャリアが1つになったら?」と考えればイメージしやすいかもしれない。
携帯電話の端末は似通っている部分もあるが、個々の持ち味もあって、その人が持っている携帯電話を見ればなんとなくその個性も見えてくる。
「現在でも数十万円、かつては何百万もしたソフトウェアですから、デザイナー自身の好みは関係ないですよ。個人で買う人なんて滅多にいません。会社の方針やプロジェクトリーダーの得意不得意で決まることが多いですね。でもどのソフトが得意かで『その人がこれまでどういう現場を経てきたか』がなんとなく分かったりはします。『Mayaが得意ってことは任天堂系かな?』『3ds Maxならセガかな?』といった具合にね」(熊倉氏)
人の出入りが激しいゲーム業界らしい話ではあるが、確かに出来上がったCGから使用ツールを判別するのはプロでも困難というほどMaya、3ds Max、Softimageの3つは用途や機能が近く、それだけ激しくシノギを削り合う存在だった。ところがここに来て3本すべてをオートデスク一社が提供するようになったのだから、現場の衝撃は想像しやすい。実際どう受け止めているのだろうか。
「買収に関しては前向きに受け止めている開発者は多いと思います。むしろ現場には、今回の件で『互いのソフトの連携を高めてほしい』という期待がありますね。元々別々の会社が作ったソフトですから、似た機能でも各ソフトごとに微妙にショートカットキーが違っているので押し間違えたり、ひとつのソフトで作ったファイルを別のソフトで開くとエラーが出たり、というトラブルは現場の作業ではどうしても発生してしまいます」(熊倉氏)
また個々のソフトが非常に高度すぎる点にも弊害はあるという。
「ゲームの制作では『ここまでの機能はいらないのに』というケースが多いんです。いずれも世界最先端のフルCG映画が作れるような機能があるんですが、残念ながらゲームではその半分以下の機能しか使いません。というのもCG映画は、高価なコンピューターで1コマ1コマ何時間もかけて出力したものをいったん“録画”して流しているんです。一方で家庭用ゲームはハードの性能が決まっていますし、プレイヤーの反応に合わせてリアルタイムで描画していて、いかにコンピュータの処理を軽減しながら綺麗な映像を出すかが課題なんです。ですから現在のソフトを進化させるだけでなく、ゲーム開発用に機能を選別して、その分処理が軽くなるようなバージョンを出してほしいですね。出すとなると大変でしょうけど、これは多くのゲーム開発者が望んでいるはずですよ」(熊倉氏)
これだけ高度なソフトとなると習熟に時間を要することも課題だという。
「ある程度CGを勉強してきた新人でも、現場でどれか1本を多少使えるようになるには最低1カ月、あるいは数カ月かかります。それぐらい難しい。おそらく日本の開発者で3本すべての機能を完璧に理解している人なんていなんじゃないかな?」(熊倉氏)
ゲームの開発費の大部分は人件費といわれ、制作コストの肥大化は、作業期間の長期化、必要人員の増大によってもたらされている。そのコストを削減するため、多くのゲーム開発現場では個人の作業効率を高め、タイトなスケジュールをなんとかこなすことで対処するのが常だ。これはオートデスクのソフトに限ったことではないのだが、プロ用ツールではこうした「使いこなせるまでの期間」がひとつの課題だ。
3Dグラフィックのイノベーションは作業効率
もちろんこうしたソフトウェアは作業効率を落とすために進化しているわけではない。ほんの20〜30年前まで建築物は、まず設計者が頭の中で“完成形”をイメージし、それを紙の図面に起こしていた。このため正確にイメージを描けるのは経験やカンを養った熟練工に限られた。プロジェクトに関わるすべての人が同じイメージを共有するためには、新たに図を起したり、模型を作ったりと多くの手作業・時間を費やす必要があった。それがCADの時代になり、瞬時にわかりやすく画像で見せられるようになった。つまりイメージの共有にかかる時間が飛躍的に短くなった。3Dによるイノベーションとはこうした作業効率の向上にあったのだ。これはCGの世界でも同じことが言える。
「現在は多くの映画制作で弊社のソフトウェアを使っていただいていますが、作品にCGを使うだけでなく、『スタッフとイメージを共有するため』にCGを利用される監督さんもいらっしゃいます」(オートデスク・安田氏)
つまり事前に監督のイメージをダイレクトに投影したプロトタイプのCGを作り、そこから作業に入るという手法だ。まず監督が絵コンテを作り、その監督と何十年も一緒に作ってきたスタッフが阿吽の呼吸で現場をセッティングしていく……という従来型の手法とは隔世の感がある。ゲームの場合は、映像のみならず複雑な要素が絡まり合って「面白さ」が紡がれていくので、投資リスクを回避する意味でもより強固にイメージ固めをしていくことが今後も重要になっていくに違いない。
2Dグラフィックのツールでアドビ(※1)を王者とするなら、3Dではオートデスクというのは当分揺るがない事実だ。我々が今後どんなゲームソフトで遊べるか、どんなすごいCGの映画が観られるかは、オートデスクがどのようなツールをクリエイターに提供できるかも大きく関わっていると言っても過言ではない。
最後に、先月来日したオートデスクのゲーム関連事業のキーパーソン、ハゲティ氏のインタビューからオートデスクが目指すゲーム開発の未来像を感じ取ってほしい。
Mary Beth Haggerty氏へのインタビュー
―― 専門部署Gaming Technology Groupを立ち上げるなど、オートデスクが現在ゲーム関連事業に注力されているのはどういう理由からですか?
Haggerty氏 ひとつはゲーム業界がエンターテインメント業界の中でも特に急成長している分野だからです。私どもの調査では、2006〜2007年の世界のゲーム業界の成長率は+43%で、2007〜2008年は後半の不況にもかかわらず20〜25%増という予測もあり、英国においては、ゲーム産業は音楽・ビデオ業界を近く追い抜きそうだというデータもあるほどです。2つめは、ゲーム開発によってもたらされる技術が、今後さまざまな映像分野で応用可能である点。3つめはゲームの開発者と話をしていると、必ず出てくる話題「開発コストの肥大化」について、弊社が提供する製品をお使いいただくことで、これを少しでも低減できるのではないかということです。
―― では具体的な取り組みとは?
Haggerty氏 Softimageの買収など製品ポートフォリオの拡大もそうなのですが、今回は最近提供しはじめた2つのミドルウェアを紹介したいと思います。ひとつ目は「HumanIK」。「フルボディ・インバース・キネマティクス」という技術を使い、例えば「キャラクターがテーブルの上のカップをつかむ」という動作をさせる場合、従来のように、ひとつひとつの関節を手作業で設定していかなくても、自動的に全身の関節を調節して自然に掴む動作を行わせることができます。このソフトはUBIソフトウェアの「Assassin's Creed」や「Prince of Persia」などですでに採用されているんですよ。
2つめは「Kynapse」というゲームAIのミドルウェアです。ゲーム中に出てくるNPCが自ら考えて移動する経路を決めるもので、例えば通路上に突然壁が崩れてきても、それをきちんと避けて歩くよう設定することができます。動作も非常に軽く、“街の雑踏”のように大勢の人が行き交っている様子を簡単かつ自然に表現することができます。それ以外にも現在いくつかのミドルウェアの開発が進んでおり、今後はこうしたミドルウェアの提供にも力をいれてまいります。もちろんこれまでのパッケージソフトウェアへの投資も積極的に行っていきますよ。
―― 御社のゲーム関連事業における目標とはなんでしょうか?
Haggerty氏 私たちの役割は、“Creative Visionary”。私たちはゲームや映画など映像を作られている方々をそう総称しているのですが、想像を現実のものとするためのお手伝いをすることです。弊社が提供するソリューションによって、作業をより効率的にしていただき、そこで出来た時間でよりクリティブで面白いゲームや映像作品を作っていただけたらと思います。
―― ありがとうございました。今後も期待しております。
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