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インタビュー

4月から大学での講義もスタートする「シリアスゲーム」って知ってますか?ゲームとアカデミーの素敵なカンケイ(第3回)(2/4 ページ)

ゲームを学術的に捉えて研究を行うさまざまな人たちをフォーカスして、その内容や将来についてお話を伺う当連載。今回は「社会の諸領域の問題を解決するゲーム」について研究を行うシリアスゲームジャパンの藤本徹氏をフォーカス。

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アメリカで「信長の野望」を題材にした授業が?

―― ペンシルバニア州立大学には、もう6年間も在籍されているわけですが、何度か帰国しておられますね。

藤本 ここ2年は日本とアメリカを行ったり来たりしていました。それで、帰国している時期にセミナーやカンファレンスをまとめて行って、という感じでしたが、ここ半年は自分の博士論文研究をまとめるために集中する必要があったので、向こうで自分の作ったツールを使って色々と実験を繰り返していました。

 博士論文研究はゲーム的なフィードバックの手法を取り入れたもので、MMORPGの「クエスト」の手法で学習課題を与えて、あちこちに行って情報を集めて、それで最後に結果をまとめるというものです。まとめのところは従来の学習のようにリポートを書いてもらう、選択問題に答えてもらうといったものなのですが、ゲーム的なフィードバックの使い方を学習のコンテンツの分脈の中でどういう形で生かせるかというのが研究の基本的なアイデアです。もともとは馬場先生の研究プロジェクトと同じくコーエーさんの「大航海時代 Online」を学校の現場で使うという研究から始まって、それが派生して学習とゲームの要素を取り出して研究のテーマにしたという感じですね。

 今使っているのは英語で作ったコンテンツですが「信長の野望 Online」の世界観を使っての日本史学習。それを、ペンシルバニア州立大学の学生達に使って勉強してもらって、その評価をしています。評価の段階で色々な問題が出てくるので、そのデザインを改良して何度も繰り返し実験をして、最後に論文を書くという感じで研究を進めています。それについては日米で今年の後半ぐらいから、成果を発表しようと思っています。

―― 日本とアメリカでのシリアスゲームの研究に対するスタンスの違いというものはありましたか?

藤本 まず、そもそもシリアスゲームの研究の量が違います。研究者の人数も違いますし、扱っている領域も違います。医療分野もあれば教育分野もあれば、軍関係のシミュレーションを作っている人達います。開発者と研究者が産学連携的なプロジェクトを立ち上げてかなり大規模にやっているものが多いですね。

 日本では東京大学の馬場先生のところなど、大規模なプロジェクトはわずかで、後は個別に教育工学などの分野のゲームに関心のある研究者達がやっている小規模な研究がいくつかはありますが……。

―― ゲーム大国ともいわれる日本ですが、やはり研究分野においては非常に出遅れているのでしょうか。

藤本 従来から進められていた研究とエンターテイメントゲームの業界とがうまくリンクしていなかっただけという部分があります。例えば、日本シミュレーション&ゲーミング学会があります。そこはアナログゲームの研究者達が中心なのですが、ゲームの研究という意味ではずっと何十年も続けられています。その中で、デジタルゲームですとか、あるいは教育シミュレーションのツールを開発したものを使った研究をしている人達もいます。エンターテイメントゲーム業界とのリンクがあまり強くなかったというところが、もうひとつ日本で注目されてこなかった理由だと思います。

 今回の流れは海外から「シリアスゲームというのがあるよ」というので入ってきたということですね。

東京工芸大学での新授業スタート

―― 2009年の4月から東京工芸大学で「シリアスゲーム論」を開始されるということですが、きっかけはどのようなものだったのでしょうか。

藤本 はい。芸術学部アニメーション学科ゲームコースですね。ここの主任をパックマンを作られた岩谷徹先生が務めています。まだ、ゲームコースが開学する前、3年ぐらい前に、岩谷先生からゲームコースを準備されている時にご連絡をいただきまして。「シリアスゲーム論を文科省に申請するカリキュラムの中に入れておいたからよろしく」と。それで私も非常にそれに興味を持ちまして、ゲームクリエイター志望の人達にシリアスゲームという考え方を持っていただきたかったので、いい機会だということでお引き受けさせてもらいました。

―― それでは3年前から「2009年にはこれをやります」ということが決定していたということですね。

藤本 「3年生以上の専門科目として設置する予定なので、その心づもりでいて下さい」といわれていました。基礎科目を終えた3年生、この次に3年生になる人達向けに教えるコースになります。

―― 藤本さんのブログで講義案を作られていましたが、ほぼこれでフィックスでしょうか?

藤本 後は、詳しくどの部分をやるかというところで、全体の構成はそんな感じで考えています。後は1〜2回授業をやってみて「この部分はちょっと厳しいな」というところは微調整する感じです。ゲームクリエイターになりたい二十歳前後の子と私は接したことがないので、1回授業をやってみて反応の良いところ悪いところを見極めて、後半の講座を組み立てていこうと思っています。

東京工芸大学 芸術学部 アニメーション学科 ゲームコース(2009年度前期)――シリアスゲーム論 シラバス案

1.ガイダンス -ワークショップ(1)ゲーム経験を強みに

2.シリアスゲームとは(1)ゲームと学習 -ワークショップ(2)学習経験を振り返る

3.シリアスゲームとは(2)対象と領域 -ワークショップ(3)シリアスゲームの発想

4.シリアスゲームの事例研究(1)教育へのゲーム利用 -グループプロジェクトキックオフ

5.シリアスゲームの事例研究(2)社会問題とゲーム -ワークショップ(4)企画トレーニング

6.学習要素を理解するためのフレームワーク -ワークショップ(5)学習要素の整理

7.グループプロジェクト企画提案

8.エンターテインメントとシリアスの境界(ゲスト講演)

9.シリアスゲームビジネスの実際(ゲスト講演)

10シリアスゲーム企画の実際(ゲスト講演)

11.グループプロジェクト中間報告

12.リアスゲームの事例研究(3)目的とデザイン -ワークショップ(6)経験から次の実践へ

13.シリアスゲームの事例研究(4)成果の評価 -ワークショップ(7)評価項目の作成

14.シリアスゲームの社会的意義と可能性

15.グループプロジェクト成果発表会、まとめ

※招待ゲストの都合等により、授業の日程や内容を変更する場合あり。

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