ライバルが照らすアイドルたちの新たな魅力──携帯ゲーム機ならではの“燃えるアイマス進化形”:「アイドルマスターSP」レビュー(2/3 ページ)
アーケード、Xbox 360で好評を博した「アイドルマスター」が、満を持してPSPで登場した。ライバルとの出会いが紡ぎだす新たなストーリー、アーケード以来の蓄積によって洗練されたシステムとグラフィック。これは単なる移植ではない、アイドルマスターのひとつの到達点だ。
お互いを光らせあう“ライバル”
つまり、ストーリープロデュースの魅力とは、ライバルの魅力と言い換えてもいい。その意味で、961プロの3人は申し分ない存在だ。我那覇響、四条貴音はアイドルマスターSPから登場した新キャラクターだが、設定や性格付け、立ち位置を決める時点から“ライバル”としての在り方を織り込んでいるだけあり、向かい合った時の印象度は非常に強い。彼女たちは、765プロに所属するアイドルたちが憧れ、追いかけるほど光輝く存在でなければならないからだ。
しかし、それ以上に新鮮なのは、庇護者でありパートナーであるプロデューサーに見せていたのとはまったく違う表情を見せる、765プロのアイドルたちだ。本物の才能を持った同年代のライバルに向き合った時、アイドルたちはそれぞれに違った反応を見せる。パーフェクトサンで言えば、春香は響の中に憧れのアイドル像を見出し、まっすぐに追いかけていく。真はダンスで対抗意識を燃やし、対等のライバルとして火花を散らす。
もっとも意外だったのは、ゲームが進むにつれ本当の強さと包み込むような優しさを見せたやよいだった。アイドルたちの前に現れる961プロの少女たちの登場の仕方や、彼女たちが抱えている過去・問題は共通だ。しかし、彼女たちが出会う相手が変わると、お互いの対応や性格によって、まったく関係が変わっていくのが本当に面白い。春香役の中村繪里子さんが話していた印象的なエピソードに“響は最初、春香に本当に冷たいのに、やよいには本当に優しいから、最初はやよいでやりたい”という笑い話があったのだが、選んだキャラクターによって、それぐらいストーリーの色あいはガラリと変わる。
そして、それはアイドルたちを映す鏡である961プロの側も同様だ。アイドルたちと違う関わり方をするということは、そのたびに961プロの少女たちも違った面を見せるということ。心の壁をやすやすと乗り越えてくる亜美&真美を相手にした貴音と、自分とどこか似た強さと脆さを持った伊織と王女の称号と誇りを賭けて戦う貴音では、見せる表情がまったく違うのだ。
自分が思い入れを持った765プロのキャラクターと深い心の交流をし、関わってくる961プロのキャラクターには、知らず知らずのうちにプロデューサーとしてのプレイヤーも感情移入してしまう。そうした展開が、961プロ側から見れば3パターンも用意されているのだから、ある意味、アイドルマスターSPの主役は961プロの少女たちであると言い換えてもいいほどだ。
美希に関しては多少スタンスが違い、Xbox 360版で登場した美希の別の魅力をパラレルな世界で描き出す意味合いが強い。ストーリーも、ライバルとまっすぐにぶつかりあうほか2本に比べると、少しビター。ミッシングムーンに登場する765プロ側の3人が、千早、律子、あずさという年長組なのは必然のチョイスと言えるだろう。また、悪役としてこの上なくいい味を出しているのが、子安武人さんが演じる黒井社長だ。黒井社長は作中で、とにかくやりすぎなぐらいに分かりやすい悪役として描かれる。各ストーリーによって、黒井社長に悪度やコミカルさに微妙な温度差があるのも面白いが、彼が961プロの少女たちを騙し、誘導して初期の対立を煽っていることが、その後、素直に分かりあうことを可能にしている。卑劣低劣の権化のような黒井社長がそれでも嫌味にならないのは、ひとえに子安さんの魅力ある声と演技のたまものだろう。
バランス調整の絶妙なさじ加減
さて、そうしたストーリーを追いかける上で難しい問題が“ゲームとしてのさじ加減”だ。テキストを追いかけるADVなら話は簡単だが、アイドルマスターSPはオーディションを軸にした対戦要素のあるゲームであり、そのオーディションがあるからこそ、961プロのライバルたちがいかに手強い存在であるかを肌で感じることができる。
だから、ゲームとしてある程度の歯ごたえを出しつつ、ちゃんとプレイすれば、初心者でもゴールを目指せるチューニングが必要となる。アイドルマスターSPのベースになっているのはアーケード版だが、最も大きな変化は、一日のスケジュールを朝・昼・夜の3つに分けたことだ。一日にレッスンと営業を同時に行ったり、レッスンとハードレッスンでレッスンを重点的に行うなどの選択枝が存在することで、同じ期間にできることの幅は飛躍的に広がっている。
アーケード版ではファン人数で頂点を目指すためにはアイドルとの交流をある程度あきらめなければならない部分があったが、アイドルマスターSPでは各ランクで交流し、絆を深めながらも、アイドルとしても頂点を極められる時間の余裕がある。筆者の場合は、特に意識しなくても、心の赴くままに千早をプロデュースしていたらプロデューサー評価は100点だった。時間に余裕を持たせたことでプレイスタイルに幅が出て、同時にゲームのテンポアップの効果も果たしているのだ。
もうひとつ大きいのは、キャラクターの能力減衰の軽減だ。アーケード版では、アイドルたちの能力は、経験を重ねるとある時期から低下していく。早熟なほど減衰は早く、急激。ある意味恐ろしいまでにリアルなチューニングだった。また、オーディションに一定期間出ないとやはり能力が減衰(=周囲に忘れられて評価が下がる?)していた。これは育成ゲームとして絶妙なバランスを提供していた反面、ある程度ゲームについての理解が進まないと、“トップに近づいていたのに、訳も分からずキャラクターのレベルがみるみる下がっていく”といった事態が起こりうる。ストーリープロデュースではそのあたりが軽減され、ちゃんと練習させたアイドルは、ちゃんとその分育つ(ただし、オーディションに長期間出なかったり、同じ持ち歌を使い続けるとゆるやかには能力が低下するのは変わらない)。持ち歌も5曲まで選べるので、適度な(10週〜13週ぐらいか)サイクルで曲を変えていけば、理不尽な弱り方はしない。バランス良くレッスンを重ねればどのキャラクターも最高レベルにたどり着くし、流行に合わせると評価が高まりやすいのは、感覚的にも理解しやすい。レッスン難易度も、かなりいいバランスに調整されていると感じる。
しかし、アイドルマスターSPが譲らなかった点、それは決してオーディションはぬるくしないことだ。やってみると分かるが、油断しているとあっという間に、IU予選などの大事なオーディションに落ちる。CPUが決して馬鹿ではないのだ。特に高レベルアイドルのCPUには侮れないものがあり、「中村井まいP」など、対人戦を思わせる打ち回しをしてくるCPUもいる。
レベルが高い相手ほど思い出ボムを効果的に使ってくる傾向があり、レベル差があるから……と気を抜いていたら、終盤に複数のCPUが思い出ボムを連発してきてあえなく落選、なんてこともままある。また、性格の難しいアイドルを相手にした場合、なれないうちはなかなか営業でパーフェクトやグッドがとれない仕様も健在だ。初心者にとっては、意外に苦戦する部分もあるゲーム性は、変わっていないのだ。
では、どこが変わっているのか。それは、初心者と失敗に対する手厚いサポートだ。ストーリープロデュース中、IU予選に負ければ、そこで敗退となる。が、そこからコンティニューで復活することができるのだ。失敗するとついリセットしたくなるのが現代人の性というものだが、アイドルマスターSPはちゃんと失敗してもやり直しがきくので、最初はぜひバッドコミュニケーションや、オーディション落選を楽しんでほしい。失敗した時やどん底の時のキャラクターにも、シナリオと声優さんはちゃんと魂を吹き込んでいるので、これを見ないのはもったいない。ゲームに慣れてからそういうシーンや演技を回収するのは“作業”になりがちだが、初心者のころにした失敗は得がたい“思い出”になる。ユーザーの側で“黒春香”のようなネタ設定が定着しつつあるが、テンションどん底の時の春香のレッスン後の「ありがとうございました」を聞けば、そんなネタが生まれる理由もわかるはずだ。
また、インターフェース面でも改善がされている。個人的に地味だが大きいと思うのが、衣装の試着だ。アイドルマスターSPでは、衣装変更で実際に着せてみた後、パラメーターの確認をして、衣装を何度でも交換できる。アーケード版ではある程度データの把握と経験がないとバランス良く強い衣装は選べなかったが、アイドルマスターSPでは納得いくまで、パラメーター/バランス/見た目を追求できるのは大きい。その週やるべきことにはオススメマークがつくので、最初は素直に従うといい。特に約束したスケジュール、曲変更のタイミング、オーディションに参加するタイミングは、最初はナビゲーションに従ったほうが無難だ。
ファン人数的には黒井社長が挑んでくるライバルオーディションで集められるファン人数が非常に効率が良いので、うまく利用すれば劇的にファンを増やせるはずだ。もちろん、ファン10万人規模のオーディションはそれなりに厳しい。そうした上を目指すものには厳しさを残しつつ、初心者には手厚いサポートをしているのが、アイドルマスターSPの良さと言えるだろう。
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