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トラウマになるので音楽は後からつけたほうがいい――チュンソフト 中村光一氏(後編)ヒライタケシの「投げる前から変化球」(その5)(1/2 ページ)

ヒライタケシの「投げる前から変化球」後編では、引き続きチュンソフト代表取締役社長・中村光一氏を迎えて、ゲーム業界の展望について語ってもらいました。

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「トラウマになるので音楽は後からつけたほうがいい――チュンソフト 中村光一氏(前編)はこちら

技術の進歩があっても楽にならない?

左がチュンソフト代表取締役社長・中村光一氏。右がヒライタケシ氏

平井武史氏(以下、敬称略) 今後の意気込みなど教えてください。

中村光一氏(以下、敬称略) 開発費の高騰などもあって、環境的に新しいものをなかなかポンポン作れないので、チュンソフトというより業界で何かできたらいいなという思いがあります。マシンが進歩すると、エンジニアたちはその技術に追いつくのにまた時間がかかるじゃないですか。

平井 慣れるのに1年2年かかりますね。

中村 やっとマシンを把握したころになると次のマシンという話になる。そのイタチごっこ。ボクはいつかはコンピュータの性能が開発現場を楽にしてくれるんじゃないかと思っているんですけどね。現実はなかなかそうならない。

平井 同じサイクルで3年周期で来てますよね。ボクも開発続けていけば楽になるのかと思っていましたが、全然楽にならない。技術がいくら進歩しても作品に転化されるわけではないのが現状ですよね。2Dから3Dに変わったように、今はいろんな業種が入ってものを作らないといけなくて、若い人が何から入ったもんだろうかと悩んでいる。そんな子たちに、ボクは好きなことをしてくださいと答えているんですが、やっぱりそれで悩むんですよね。覚えることがあまりにも多い。

中村 今のゲーム機ってなんでもできるという状態だからこそ困ることもあるんですよ。なんでもできるけど、開発コストもかかる。ファミコンの頃ってものすごく制約があって、色数といい、オブジェクトが並ばないとかメモリが足りないとか制約だらけ。それを納めるのが職人芸というか。

平井 アイディアなどテクニカルがたくさんありましたよね。よくあるんですが、「プログラムやりたいんですが、何から始めたらいいのでしょうか」と聞かれるんです。「エキスパートな何かを見つけて」とか曖昧なことしか言えなくて。与えられすぎる不幸せというか。ちょっと調べると情報があふれていることもあってか、プログラミングもどこかで見たことあるようなものばかりになっちゃった。昔は、人のプログラミングみるとワクワクしたものなんですが、今はみんなが同じような書き方をしてて。ボクはさみしくなるんですよね。

中村 僕らの時代は自己流でしかなくて、もしくは人のを逆アセンブラするとかしかなくて。

平井 日本は明文化するのが遅れているので、技術だけはあるのに発想力がなくなってきているんじゃないかなと思うんです。元々は発想力があったのに。日本人が得意としていた発想力が不足しているのはどう思いますか?

中村 ある意味しょうがないよね。技術革新があった時に、新しいアイディアがのっかってきて業界が栄えるみたいな。よく最近は音楽CDが売れなくなったとかいうけど、それは音楽がつまらなくなったのではなくて、かつてはレコードからCDに変わったように、新しいものに変わっているだけじゃないかと。ゲームも成熟期よりもまさにハードが売れている時にソフトが売れていくものでしょ。新しい技術が出た時に何かできないかと考えて、競争している時が楽しいんですよね。

平井 開発をする一番最初は、アイディアを発想する瞬間ですから。今、うちの会社では能動的にアイディアを出し合おうと言ってますね。会議体になると発言しづらいので。チュンソフトではなにかそういうことをやってますか?

中村 けっこうブレストを集まってやってます。でも、たいていボクが「それじゃ売れないよ」とかいう立場になっちゃって(苦笑)。アイディアはみんな面白いのを出してくるんですけど、それをどうするかなんですよ。聞いてみた瞬間、やってみたいと思えるもの。それをどうするか。ソフトに飢えていたけど、今は時間もないしお小遣いもないし、PCもケータイもある中で、お金を出して遊ぶというソフトじゃないといけない。

平井 ハイエンドのソフトは、ほかでできないものじゃないといけないという命題があるので、どうしても大きく発想力を超えているものじゃないと。以前、中村さんが話していた、「サプライズを起こし続けなければいけない」というのは言葉として気に入っていて。

中村 サプライズなりは考えても、世の中的にできないものが増えてるじゃないですか。例えば、ゲームをやっていて、ケータイのメールアドレスを登録しておけば、ゲームと同期した脅迫文が送られてくるとかやりたいけど、普通に駄目でしょ? 個人情報の問題とかモラルとか。なかなか思い切ったことができなくなってますよね。

平井 日本が世界から見て特殊とみられる現状をどう思いますか?

中村 日本が特殊というか、ユーザーは今までゲームにお金を大量につかってきたと思うんです。ゆえに、ゲームをかぎ分ける能力が高いんじゃないかと思うんです。そこは違うかな。

平井 ユニークなものを面白いと思う感性は日本人は高いと思いますよね。でも、海外の人の方がドライに評価しているように思いますね。その方向が一方向すぎて窮屈には思いますけど。日本人としてボクは誇りを持っていたいので、いかにいろんな発想をしながらそれを世界に広めていけるかチャレンジしたいと思っています。

中村 ネットが発展して情報を集めやすくなってて、これがいい悪いというのも瞬時で分かるようになってて、試し買いがなくなってますよね。ユーザーにしてみれば絶対においしいもの、面白いものを買えるようになりましたが、面白い面白くないという絶対的評価が権威を振るっているようで……。フライングでゲットした人の意見のみで判断されているんじゃないかな。


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