トラウマになるので音楽は後からつけたほうがいい――チュンソフト 中村光一氏(後編):ヒライタケシの「投げる前から変化球」(その5)(2/2 ページ)
ヒライタケシの「投げる前から変化球」後編では、引き続きチュンソフト代表取締役社長・中村光一氏を迎えて、ゲーム業界の展望について語ってもらいました。
一発当てることはできない業種になった?
平井 最後にこれからゲーム業界に入ってくる若い人たちになにかメッセージをお願いできますか?
中村 考え直したほうがいいぞ(笑)。よーく考えておいたほうがいい。どうしても入りたいなら任天堂に入りましょう(笑)。というのは冗談で、根本的に思っていたのはゲームや映画もそうだけど、そんなに毎年ぽんぽん作れるわけないでしょ。一生に何本か作れればいいものじゃないですか。現実問題、開発費はどんどんふくれていますよね。。
平井 ビジネスとクリエイティブって相反していることが多くなったんですかね。
中村 日本のゲーム業界のように、海のものとも山のものとも分からないものにはファンドすら集まりませんからね。試みとしてはありましたが。
平井 逆に日本がこれだけ駄目だ駄目だと言われてて、模倣するスタッフばかりになり、発想力のある人が少なくなってきた昨今、ぼくらはどんどん年を取っていっている。そんな時だからこそ、分業化されたそれぞれのジャンルの“言葉”を発する人間が出てくればヒーローになれると思うんです。第2の中村さんのような人が出てくることを心待ちしているんですよ。
中村 すごく難しいよね。本気で言うならすごく難しい。生半可な気持ちで入ると、それなりにつらいし、エライ目にあう。
平井 真剣にこの業界を盛り上げる気持ちを持っている人に入ってきてほしい。
中村 一発当てることは難しい業種でしょ。完全にできないとは言わないけど、昔は夢がありましたよね。それほど厳しい業種になっているんですよ。エンターテインメントというのであれば、例えば作家になるなら作家に、漫画家になるなら漫画家になる方が1人で成功する可能性が高いけど、ゲーム業界に来ると一人では無理。今後、スーパープログラマーとかスーパーグラフィッカーとかが出てくるというのが想像しづらくはあります。
平井 一度作ったからなれる、というものじゃないですよね。何本も制作した後に出てくるというのはあると思いますが。エンターテインメントなのに、そういう難しい業界になってしまっている。あえて言葉を選ばなければ、老舗のRPGを作りたいという人には新しい作品は見えないでしょう。自分のものをやりたいという情熱の強い人に入ってきてほしい。そうしたら変わるかもしれないと思っているんです。そうしなければ生まれてこないんでしょうね。
中村 田舎出身だったからこそ、ボクにとって発信できる場がメジャー誌しかなかったからこそボクの今があると思うんです。もし、東京にいたら秋葉原もあるし、発信できる場があるじゃないですか。
平井 こういう状況だから発信しやすい面というのはもちろんある。例えば、キューエンタテインメントが制作した「EVERY EXTEND EXTRA」(PSP専用ソフト、発売元:バンダイ)は、現役大学生が作ったフリーのゲームソフトが原案なんです。Flashゲームが家庭用ゲームに発展してくる事例も増えてきていますし、与えられた状況は受け止めて、そこから何ができるか考えるしかない。
中村 生まれたときから家にパソコンがあるのが普通、という状況はボクらのときと較べたら信じられないくらい恵まれていると思います。その環境を有効に使って欲しいですね。1回戦から勝ち上がるのではなくて、シードからのスタートなわけで。
平井 僕自身もインディーソフトからインスパイアされることもありますしね。現に今インターネットで展開しているプロダクトで注目している作品もあります。まだ荒削りだが可能性を感じるものはごろごろある。
中村 昔からのゲームユーザーの中には、巨大プロジェクトと化した“ゲーム”に飽いていたり物足りないと感じている人もいると思うんですよね。業界全体が、そういうユーザーにも目を向ける必要があると思います。そして作る側も、ツールや技術や情報は昔よりは得やすいはずだから、自由な発想と情熱で新しいものを作り出して欲しい。
平井 そこから生まれてくるものもあるんじゃないかと。古いものと新しいものが融合することは、お互いのためにもいいことですよね。刺激し合って。そのシナジー効果を最大限に広げる動きをこれからも行っていきたいです。本日はありがとうございました。
第5回2部構成後半でした。
中村光一氏はとても真摯な姿勢で臨んで頂けました。ここに深くお礼申し上げます。ありがとうございました。次回は麻雀でも盛り上がりましょう!
実は中村光一氏と対談していて自分の中で疑問を感じる瞬間がなんどかありました。これはもちろん中村氏に対してではなく自分が枠組みに捕らわれ過ぎてないだろうかという疑問でした。
「日本のエンタテインメントを良くしよう」という発想ではなく、もっと単純に「新しいエンタテインメントを創造しよう」で良いのではないかと。世間でもよく言われますが、ピンチの時代こそチャンスととらえ「ものづくり」の原点に立ち返ってみようと思います。
さて5回連載したということもあり次回の対談は、ボクにこの場を提供していただいた方を交えて、過去の対談も振り返りながら、逆にボクの考えをぶつける場にしたいと考えてます。ご期待下さい!
プロフィール
平井武史(ひらい たけし)
キューエンタテインメント 最高技術責任者/CTO
代表作:「シェンムー」「スペースチャンネル5 パート2」「メテオス」「メテオスオンライン」
エンジニアとしてハイエンドからモバイル、Web、システム管理までほぼすべての環境、言語を話す。ヘアショーのサロン映像、音楽プロデュースを行ったり、海中での写真集を提供したりと守備範囲は広い。海をこよなく愛するMSD(マスター・スクーバ・ダイバー)である。
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