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64年目の敗戦──「WAR PLAN PACIFIC」で太平洋戦争を3時間で追体験する真珠湾から菊水作戦まで食後にトレース(3/3 ページ)

IT系ゲームメディアというわけで、“64”年後という節目に「あの戦争」を追体験する。とはいっても、主流の“RTS”ではなく“旧態然”のウォーゲームで。

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タイムスケールが異なる海空陸の戦闘

 長期に渡る制海権の確保が問われるWPPの海戦は、第2次ソロモン海戦やサボ等沖夜戦、第3次ソロモン海戦といった個別の海戦を再現するのではなく、1カ月という期間における海上戦闘のすべてを表していると認識するのが妥当だ。だから、別々の艦隊に編成されていても、戦闘解決時には「攻略目標に投入された兵力の比較」という扱いでもかまわない。

 駆逐艦などの小艦艇はルンガ沖夜戦のように一時的な制海権は確保できるが、広域の制海権は維持できない。そういう制海権を決定するのは基地航空兵力や空母、戦艦になる(巡洋艦も戦艦が存在しない海域においては制海権の確保が可能になる)。それゆえ、広域制海権の継続的な確保が目的となるWPPでは、駆逐艦ユニットが省略されても史実の再現性に問題はない。

 航空兵力も瞬間的な空戦ではなく、1カ月という長期において継続する航空戦を扱っていると考えられる。長期的な航空戦の勝敗により影響するのはカタログスペックではなく、必要とされる地域へ投入できる機数と稼働率を維持する地上支援部隊、さらに国家的なパイロット養成体制だ。そういう意味で、戦略レベルのウォーゲームに航空機の型式による違いがないのも問題ないことになる。

 なお、WPPで潜水艦は戦術場面で必要となるユニットとして登場しない。ただ、戦略兵器としても潜水艦が認識されることはない。WPPで海上輸送路が意識されるのは、南方資源の輸送航路としてルソン、レイテ、台湾、沖縄の占領(制海権の確保)と維持が求められる部分に限られる。WPPでは、潜水艦による通商破壊も制海権、もしくは制空権が有利な側が実行できるという考えのようだ。史実においても、南方からの資源輸送が途絶えるのは1944年末期に米艦隊がフィリピンと台湾近海の制海権を確保してからだった。

WPPに登場する航空兵力は「艦上戦闘機」「艦上爆撃機」「艦上攻撃機」「陸上戦闘機」「陸上爆撃機」の違いしかない(写真=左)。空母の搭載される艦上機は1機単位で管理される。戦闘で失われた艦上機は港にとどまらないと補充されない(写真=右)

シンプルながら必要な要素は細かいところまで導入

 このように、プレイヤーが関与できる部分ではルールの簡素化を大胆に進めているWPPだが、それでもPC版であるがゆえに、ボードのWITPより細かいルールを用意している。例えば、VITPでは空母ユニットの1要素として大まかな戦力値で表現されていた空母搭載の艦上機が、WPPでは1機単位で管理される。敵と交戦すれば所属する艦上機が失われ、失われた艦上機は基地に帰って時間をかけないと回復しない。水上艦艇ユニットも搭載する主砲と副砲のサイズと門数、対空火力、甲板装甲と舷側装甲がデータで用意されていて、海空戦や水上戦ではそれらの値を使い分けて戦闘処理を行っている。一見大雑把にデザインされているように思えるWPPの艦船ユニットだが、スペックの精密度を競うほかのPCウォーゲームと同程度の精度は再現していることになる。

 このような「大まかな」規模のウォーゲームでは、展開が史実から大幅に逸脱してしまう傾向にあるが、WPPでは、勝利条件によってプレイヤーは史実に近い経緯をたどるようになる。これをプレイヤーの行動を規制するデザインを「陰謀ルール」と評価するか、史実の再現性が高いと評価するかは、プレイヤーの嗜好で分かれる。ただ、WPPのゲームデザインが史実の軍令系統指導者が遭遇したのと同じような状況を再現して、彼らと同じような考え方をプレイヤーにさせることに成功している。

 実際にAI相手に太平洋戦争を繰り返し戦ってみた感触では、AIはそれほど強くない。しかし、WPPはネットワーク対戦をサポートしている(システムで用意しているのネットワーク対戦機能は、LANで接続されたPCのIPアドレスを直打ちして接続する)ので、対人戦ならAIの弱さは問題にならないだろう。海外のネットワーク対戦対応PCゲームでよく言われることだが、AI戦はルールを覚えるためのトレーニングモードで、本番はネットワーク対戦だという。そういう意味でも、3時間で勝敗が決まり、かつ、勝利条件の設定によって最後まで勝敗が予測できない緊迫したゲーム展開になるWPPは、ネットワーク対戦に最も適した太平洋戦争ウォーゲームといえる。

 プレイヤーの負荷を軽減し3時間程度でゲームが終了するために、可能な限りシンプルなゲームデザインと必要最小限のユニットを採用したWPPには、生産ルールや海上護衛戦などのロジスティックルールは用意されていない。ほどよくチューニングされた戦闘処理によって、ゲームの展開とプレイヤーの思考は史実から大きく逸脱しない。雷撃が日本軍しかできないことや水上戦闘が発生しやすいなど、戦闘システムは、日本軍がやや有利になるように設定されているが、それでも、日本軍は軍事的に圧倒されていく。ただし、巧みに設定された勝利条件によって、惰性で戦争を継続することにはならずにすんでいる。デザイナーは「これは、ゲームバランスを取るために勝利条件だ。歴史的に日本が勝つことはありえない」とはいうものの、日本軍指導者は、史実でも和平の可能性を見いだすために「最後の大勝利」を意図していた。

 WPPは、3時間という現実的な時間の中で、太平洋戦争を史実に近い経緯で追体験できるツールとしても使える奥深さも持っている。タイトルの“怪しいイラスト”に惑わされることなく、多くのウォーゲーマーに日本海軍の滅びの美学を体感してもらいたい。

マリアナとレイテが連合軍に奪われて日本本土への空襲が始まった。さらに、シンガポールとジャワも失って南方資源が途絶えつつある日本(写真=左)。しかし、1945年10月までに戦争が終結せず、米政府は国内で盛り上がる反戦運動に耐えられず和平を申し出た。このように、連合軍に打撃を与えつつ戦争が長引くと、日本が勝利を収める可能性も出てくる(写真=右)

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