ITmedia ガジェット 過去記事一覧
検索
ニュース

“よくできたゲーム”と“面白いゲーム”の違いとは?――マリオの父、宮本茂氏の設計哲学(前編)(4/5 ページ)

マリオシリーズや『Wii Fit』などで世界的な支持を獲得している任天堂の宮本茂氏。ゲームデザイナーとしての30年間の業績が評価され、第13回文化庁メディア芸術祭では功労賞が贈られた。受賞者シンポジウムでは、エンターテインメント部門主査の河津秋敏氏が聞き役となり、宮本氏が自身のゲーム設計哲学を語った。

PC用表示 関連情報
advertisement

いつまでもマリオしかやらないんですか

宮本 『スーパーマリオ64』や『ゼルダの伝説 時のオカリナ』などが3Dゲームの基本を作ったと言われます。そのころ僕は3Dの勉強をするためにPCの3Dレースゲームを見ていたのですが、自分のクルマが画面に描かれていないんですね。自分がコックピットから見ているということなので。

 僕らのゲーム感覚だと、マリオをコックピットに描かないと、そこにいるのが分からないと思うし、描くのが基本なんです。そこで描こうとすると、意外なことが分かりました。マリオを描くと、その分のポリゴン処理能力が必要になるんです。「マリオを描く分の能力を活用すれば、背景がもっと描けるんじゃないか」ということです。「そういう処理の限界に挑戦しながら、みんな作っているんだな」と思いました。

 また、それまでの3Dゲームでは、ある固定の視点からものを見ていました。僕らは演出をしたいので、そうではなく3Dゲームの中にカメラがあることにして、「そのカメラをどういう風に作るのか」ということが3Dゲームの基本になると思ったのです。映画の演出のように、プレイヤーキャラクターを客観的に見る演出がしたかったので、複数のカメラがあるということを軸に3Dゲームを作ろうと思いました。

 そこで『スーパーマリオ64』ではジュゲムというキャラクターがカメラをぶら下げている絵を作って、プレイヤーに「これからあなたはカメラを触るんですよ」ということを分かってもらい、カメラを動かしてもらう。

 それが『ゼルダの伝説 時のオカリナ』になると、剣で戦闘をする時にはカメラが背後に回りこんで、誰かにロックオンした状態でカメラが動くとか、塔を上っていくときには塔を中心にカメラがグルグル回って、どこにいてもプレイヤーキャラクターがちゃんと見えるようにするとか、複数のカメラを使うという仕組みを作ったんです。それが多分「3Dアクションゲームの基本を作った」と評価されるところだと思います。「自分がやったことがないことに入っていくのは、いろんな発見があってとても楽しいな」という時期です。

 マリオとゼルダばかりを20年近く続けていると、「いつまでもマリオしかやらないんですか」と周りから言われるので、「たまには違うキャラクターも作りたいな」ということで始めたのが『ピクミン』(2001年)です。「どうせキャラクターを作るなら、女子高生に受けたいな」と思って作りました(笑)。


『ピクミン』

 狙い通り結構受けたのですが、一番受けたのはCM用に作った音楽(『愛のうた〜ピクミンのテーマ』)だと思います。その音楽がすごくかわいいので非常に評価されて、それで海外も売ろうと思ったのですが、「何か意味分かんない」という反応でした。フランス語にもして(『VOS MEILLEURS AMIS - SONG OF LOVE』)、情緒があってすごくいいのですが、フランス人も「分からない」と言いますね。海外では「すごいモンスターがアリを食べるぞ」みたいなゲームととらえられています。

 僕は3Dゲームを作りながら、「映像を見るんじゃなくて、映像に触るんだ」というテーマを『ゼルダの伝説 時のオカリナ』の時に決めていました。僕はアニメや漫画をやりたかったので『ゼルダの伝説 風のタクト』(2002年)は、「アニメの映像にも触りたい」ということで作りました。『マリオカート ダブルダッシュ!!』(2003年)はシリーズもので、新しいハードになると新作を出して2〜3年経っても売れ続けるというものです。

『ゼルダの伝説 風のタクト』(左)、『マリオカート ダブルダッシュ!!』(右)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る