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“よくできたゲーム”と“面白いゲーム”の違いとは?――マリオの父、宮本茂氏の設計哲学(前編)(5/5 ページ)

マリオシリーズや『Wii Fit』などで世界的な支持を獲得している任天堂の宮本茂氏。ゲームデザイナーとしての30年間の業績が評価され、第13回文化庁メディア芸術祭では功労賞が贈られた。受賞者シンポジウムでは、エンターテインメント部門主査の河津秋敏氏が聞き役となり、宮本氏が自身のゲーム設計哲学を語った。

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面白いのは僕らだけと違うかな

宮本 このあたりまでが3Dゲームになった第2世代と思っているのですが、ここから僕はすごく変わります。マリオカートシリーズなどを作るとお客さんも喜んでくれるのですが、「面白いのは僕らだけと違うかな」と思ったのです。任天堂にはマリオクラブというデバッグをするところがあって、そこでデバッグをしている人たちにアンケートをとると、「ここを直したほうがいい」などと言ってくれます。しかし、そこで「パーフェクトだ」と言われても、「ゲームを遊ぶということが前提になっている人にとっては面白くても、ゲームを遊ばない人にとってはちっとも面白くないのではないか」と考え始めたのです。

 僕はチームの中で「世の中には“よくできたゲーム”と“面白いゲーム”がある」と言っています。僕らは自分たちのノウハウを突っ込めば、よくできたゲームはいつでもどんなものでも作れる。しかし、「それがお客さんにとって面白いゲームであるという保証は全然ない」ということです。だから、例えば『週刊ファミ通』のクロスレビューでゲーム評価がすごく高かったのに売れないものがあるとすると、ゲーム業界の中で生きていると「どうして?」と思うわけです。「評価が高ければ売れるんでしょ」と思っているので。社内でも「人よりよくできたゲームを作れば評価される」と思っている。

 ところが、世の中にはゲームなんてどうでもよかったりする人もたくさんいるわけなので、「やっぱりもっと面白いものを作らないといけないよね」ということに視点が移ります。原点に帰って、「インタラクティブ(双方向的)な面白さというのは何なのかな」とかいろいろ考えて、「ハード自体もそんな風に作っていかないと、これからの未来は広がっていかない」と思い始めました。

 僕は工業デザイナーなので、ファミコンのころからずっとコントローラーを作ってきたんですね。「ゼルダやマリオを遊ぶために」とか考えてコントローラーを作っていくと、どんどん複雑になってくる。3Dで遊ぶようになると、もっと複雑になっていく。そうして複雑になったコントローラーは、「分からない人にはもう触れないだろうな」と思うわけです。

 Macintoshを最初に見た時、僕は電源が切れなかった。「電源が切れないものを売っていていいのか?」と思ったのですが、ファミコンは電源スイッチとリセットボタンが付いているだけなのですばらしいと思っていました。しかし、自分たちが作っているものが、いつのまにかそういうものに近づいているということを感じていたのです。

 それで、ニンテンドーDS(以下、DS)でペン1本で遊んでみよう、「触ったら反応する」ということの面白さをみんなに感じてもらおうと思いました。その中で『脳を鍛える大人のDSトレーニング』(2005年)とか『ピクロスDS』(2007年)とか、ゲームというメディアに置き換えたほうが便利な本をゲームにしていきました。本でパズルを解いていると、鉛筆で真っ黒になって消すと汚くなりますが、デジタルだとメモしてもすぐに消せますので。

 それから触るなら犬をやろうということで『nintendogs』(2005年)を作りました。会社の中でこれを提案すると、「ああ育成ゲームね」と言われるんですね。「いや、犬と触れ合うゲームなので、育成ゲームと言わないでほしい」みたいなことを考えたりするのですが。


『nintendogs』

 『Wii Sports』(2006年)ではテニスの場合、キャラクターが勝手に走ってプレイヤーは振るだけでいいんです。フォアハンドで振るか、バックハンドで振るかを選べるだけで、つまり「テニスプレイヤーを自分で動かさなくても、テニスは本当に面白く遊べるか? 意外と遊べる」というものを作ってみました。

 一方、やっぱり昔から作り慣れたものを本当は作りたいので、『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』(2006年)を作りました。僕らの年代は鞍馬天狗が馬に乗ったりする姿を見ていて、パカパカパカパカ走るリズムが好きなので、絶対馬に乗せてやろうと思って作りました。

『Wii Sports』(左)、『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』(右)

 『スーパーマリオ64』ではマリオを3Dにすることで、インタラクティブな魅力がすごく出たと思うんですね。当時、僕はハムスターを家の中で放し飼いにしていたのですが、縦横無尽に走り回るのがかわいくて、「それと同じようにマリオを走らしたい」とか思っていたのですが、「難しい」「3Dで酔ってしまう」とかいろんな人がいました。

 そこで、「マリオは誰でも触れるゲームにしたい」という思いがあるので、球体を使って重力の中心を1点に置いた『スーパーマリオギャラクシー』(2007年)を作りました。3Dでは走っていくと、自分がどこにいったのか分からなくて迷うんですね。また、ラジコンと一緒で手前に方向転換して走ると、左に曲がるためにどちらの方向のレバーを押したらいいのか分からなくなるということもあります。

 それが球体の上に乗っていると意外と楽なんです。球体の上をただ前に走っていても、もとのところに戻るので迷わないんです。それなら重力をもっといじってみようということで、複数の球体それぞれの中心に重力があるということにして、球体と球体の間を飛び回っていくというアクションゲームにしました。誰でも遊べるようになったのですが、「やっぱりアクションゲームって好きな人じゃないと難しい」と言われたりもします。

 →後編に続く


『スーパーマリオギャラクシー』

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