第20回:プレイヤー同士でいざ勝負! 対戦プレイはなぜ面白いのか?:なぜ、人はゲームにハマルのか?(3/4 ページ)
「なぜ、人はゲームにハマルのか?」をまじめに考察する不定期企画の20回目は、相手と戦うことで初めて起きる“ゲームを続けたくなる”仕組みについて。
ソフトでも、ハードでも! こんなところにも隠されていた対戦ゲームのヒットのヒミツ
対戦ゲームがヒットする理由は、ソフト自体の出来がいいからにもちろん決まっていますが、実はそれと同じくらい重要なポイントがもう1つあります。それはゲームの外側の部分、すなわちハード面に工夫を凝らして画期的なアイデアを導入したことです。
分かりやすい例としては、任天堂が1989年にゲームボーイ用ソフトとして発売された落ち物パズルゲームの「テトリス」があります。本作は1人で遊んでも十分に面白いゲームですが、別売りの通信ケーブルを接続すればプレイヤー同士で対戦ができる機能がついていたのが大ヒットの決め手でした。これも対戦ゲームの歴史を語るうえでは欠かせない超重要ポイントでしょう。
1990年代前半になると、「ストII」の大ブレイクを機に全国各地のゲームセンターで対戦格闘ブームが到来しますが、ここでもゲームのソフトではなくハコの部分を改造した運営方法が発明されたことも人気を集める大きな要因となりました。
と、ここまで書けば長年の対戦格闘ゲーム好きには筆者が何を書きたいのかお察しいただけるでしょう。そうです、対戦ゲームを運営するゲームセンター側のアイデアによって実現した、いわゆる「通信対戦筐体」が登場したことも歴史上のある意味大きな事件でした。なお、ここで言う「通信対戦筐体」とは1枚のビデオゲーム基板(ソフト)を2台の筐体(ハード)につなぎ、それぞれのプレイヤーが別個の筐体でプレイできるようにしたもの指します。
「通信対戦筐体」を使用する最大のメリットは、見知らぬ人同士でも気軽に対戦を楽しめるところにあります。例えば、2台のアップライト型の筐体を背中合わせに設置すれば、例え知らない人と目を合わせたり話しかけるのが不得手な人であっても、筐体がちょうどブラインドの代わりになるおかげで物理的にも心理的にも障壁を取り除く効果があるというワケです。もし「通信対戦筐体」がなかったとしたら、突然見ず知らずの人が自分のすぐ隣に(テーブル型筐体の場合はすぐ真向かいに)座ることになりますから、「本当は遊びたいけど、途中で誰かに乱入されるのは何となく怖いからやりたくなあ……」などというように、多くの人がプレイすること自体に抵抗を感じてしまうことでしょう。
誰でも好きなタイミングで対戦プレイに参加できる「乱入」あるいは「乱入対戦」という遊び方が定着した背景には、実はハード面の改良が大きく貢献していたのです。
そして1995年になると、セガからあらかじめ背中合わせにモニターおよびコンパネ(操作部分)が2台くっついた筐体、その名も「バーサスシティ」が発売されました。このような機械をわざわざ開発したという事実からも、当時の対戦型ビデオゲームに対する需要がいかに高かったのかがお分かりいただけることでしょう。また1997年にナムコが発売した「サイバーリード」のように、さらに時代が進むと外部映像出力などの機能をあらかじめ搭載した筐体も登場するようになりました。
- 参考サイト:「バーサスシティ」、「サイバーリード2」
さらに「バーサスシティ」では、筐体上部にあるLED(※2ケタの文字を表示する装置)を利用して対戦プレイを盛り上げる工夫もしています。例えば、この筐体で「バーチャファイター2」を稼働させると、お互いの技がヒットするたびにダメージ量をLEDに表示するようになっていました。これによって、プレイヤーは数値を見ながらプレイすることで技の性能を研究したり、次の作戦を考えたりしながらゲームを楽しめる効果が新たに生み出されました。また、セガが1995年に発売したサッカーゲームの「バーチャストライカー」では、ゴールを決めるとLED上に「GOAL」と表示したり、筐体上部のランプが点滅するなどの演出を盛り込み、対戦プレイをさらに盛り上げる工夫をしていたのです。
同じく、「サイバーリード」にもLED表示機能が搭載されていました。これを利用すると、例えば「鉄拳3」は使用した技の名前がLED上に表示されたり、「鉄拳タッグトーナメント」では大きなダメージを受けてピンチになったキャラクターの「休ませて!」というセリフが表示されるなど、数々の面白い演出が見られるようになっていました。
なお余談になりますが、KONAMIが1993年に発売したアーケード用バスケットボールゲームの「スラムダンク」や、1994年発売のサッカーゲーム「サッカースーパースターズ」では、1人でCPU戦をプレイ中に別のプレイヤーが入ってくると「対戦者出現!」などと画面に表示され、対戦プレイモードに移行するかどうかを先にプレイした側が選択できる機能がついていました。もし腕に自信がなければ対戦を拒否することもできるので、初心者でも安心して「通信対戦筐体」で遊ぶことができるという仕組みです。
対戦格闘ゲームがブームだった時代は、人気タイトルを何台も設置したお店がたくさんありましたが、もちろんすべての店がそうだとは限りません。しかし、このようなシステムがあれば「通信対戦筐体」でしか稼働していない店であっても、初心者が安心してCPUを相手に腕を磨くことができますよね!
このようなお店でのオペレーション、およびハード面での工夫が対戦ゲームの面白さを支えていたことは、ビデオゲームの歴史を語るうえで必要不可欠であると筆者は考えますが、はたしてみなさんはどう思われますか?
まだまだあります、対戦ゲームによって生み出された大発明!
格闘ゲームに限らず、総じてアクションゲームでは対戦プレイ時にプレイヤー間の実力差が顕著に出てしまうもの。ソフトを発売日に購入してずっとやり込んでいる人と、その日初めて遊ぶプレイヤーとが対戦した場合は当然ながら力量が大きく違うので、しばらくの間はスリリングな勝負を楽しむことができません。
そこで登場するのが、あらかじめプレイヤーごとにハンディキャップがつけられるアイデアです。例えば、1992年にセガがメガドライブ用ソフトとして発売した落ち物パズルゲームの「ぷよぷよ」では、スタート時に「激甘」「甘口」「中辛」「辛口」「激辛」の全5段階から難易度を自由に設定して遊べるようになっています。以下のムービーを見れば明らかなように、「激甘」で始めたプレイヤーは落下物(ぷよ)がゆっくり落ちてくるのに対して、「激辛」を選択したプレイヤーは落下スピードが格段に速くなり、さらに開始直後に「おじゃまぷよ」と呼ばれる障害物が大量に出現することでハンディをつけた状態でプレイができるようになっています。
元々はアーケードゲームだったものを家庭用に移植したタイトルについても、対戦プレイ時にハンディキャップをつけられるシステムを追加した例が数多くあります。以下のムービーは、ナムコが1998年に発売したプレイステーション版「鉄拳3」の対戦モードで、本作ではゲーム開始時に体力値の増減を設定することでハンディがつけられるようになっています。ちなみに「ストII」シリーズでは、1992年に発売されたスーパーファミコン版の対戦モードでは攻撃力を8段階で変えられるハンディキャップシステムがついていました。
アーケード版はその場でお金を払ってプレイする性質上、ハンディを自由につけられるルールにすると不公平感が出てしまいますが、家庭用であればプレイヤー同士で合意さえすればどれだけハンディをつけても何の問題もありませんし、なおかつ財布の中身を気にせず存分にトレーニングを積むことができますよね。
そしてもう1つ、今ではすっかり忘れ去られた感のあるビデオゲーム史上に残る世紀の大発明をご紹介しましょう。
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