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この1年間のソーシャル化への取り組みでスピード感を取り戻した――鵜之澤伸CESA会長講演リポートTGS2012【基調講演】

TGS2012の開幕を飾る恒例企画「TGS2012基調講演」には、今年はCESAの鵜之澤会長とグリーの田中良和社長が登壇。まずは鵜之澤会長の講演の様子をお届けする。

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ソーシャル化=ゲーム業界衰退ではない

 今年からコンピュータエンターテインメント協会(CESA)の会長に就任した鵜之澤伸副社長は、旧バンダイ出身で現在はバンダイナムコゲームス代表取締役副社長を務めている。基調講演のスタートでは、ネットワークマシン「Pippin@」をはじめとした自身の経験に触れつつ、これまでのゲーム業界の歩みを振り返った。その上で「3年ぐらい前からゲーム業界には『ソーシャルの波』が来ていて、この流れはCESAとしても採り入れなくてはいけない」としつつも、「『ゲーム業界は右肩下がり、ソーシャルに食われている』とよくいわれますが、大手6社のゲーム売上という点ではそれほど変わっていません。売上という数字からでは見えにくいソーシャル化が進んでいるのが現状です」と、ソーシャル化=ゲーム業界の衰退、という見方に釘をさした。そのうえで、大手ゲームメーカーで進むソーシャル化への取り組みとして、

  • ファイアーエンブレム 覚醒(任天堂)
  • ガンダムバトルオペレーション(バンダイナムコゲームス)
  • ファンタシースターオンライン2(セガ)

という、この1年でサービスを開始した3タイトルのケースを紹介した。

「ガンダムバトルオペレーション」は約2カ月の売上で開発コスト回収に成功

 「ファイアーエンブレム 覚醒」については、鵜之澤氏が「任天堂の岩田社長から『CESA会長就任祝い』ということでかなり無理してデータを教えてもらった」そうで、そのデータによると、ニンテンドー3DS全体のネット接続率は75%に及んでおり、「ファイアーエンブレム」でもダウンロード売上が3.8億に達しているという。また、鵜之澤氏自身が関わる「ガンダムバトルオペレーション」は、基本無料プレイを採用しつつもすでに7億円の売上を達成し、ほぼ開発費用の回収に成功。その売上の75%がプレイ権(出撃エネルギー)の販売だという。「多くの人が無料プレイを楽しんだ上で、さらに追加料金を払ってくれる、というのは驚きでした。これが新しいモデルなのか、間口を広くすることでお客様も付いてきてくれるんだ、と手応えを感じました」(鵜之澤氏)。さらに、「ファンタシースターオンライン2」については「課金ユーザーにゲームバランスが偏らないよう、アイテムをコスチュームや倉庫などに限定している点、マルチプラットフォームに対応しているところにセガさんの配慮を感じます」(鵜之澤氏)と紹介している。

 そして、今後の意識改革として鵜之澤氏は「ゲーム機がもはやゲームだけのものではない時代、ゲームから発信できるさまざまなコンテンツに目を向ける必要性がある」と指摘する。「『クール・ジャパン』などといわれる国内コンテンツの海外展開では、ゲーム業界が一番成功していると思います。すでにカプコンさんが、映画『バイオハザード』を始め、さまざまな取り組みで成功を収めていますが、今後はグローバルを目指した展開をゲーム業界は考えなくてはならないと思います」(鵜之澤氏)。

ソーシャルゲームの企画は若い世代に任せた

 ここで鵜之澤氏の基調講演は終了し、『日経エンタテインメント!』誌の品田秀雄編集委員を交えたトークセッションへと移った。トークは「日本のゲーム業界は元気がない」という説を巡っての話題が続いたのだが、そこで鵜之澤氏から出たのは、自身の失敗を踏まえた「これからは日本流でやる」という力強い宣言だった。

「自分の経験からすると、日本のクリエイターが無理して『海外でウケるものを』と開発すると、うまくいきませんでした。海外と日本では売れるゲームは違うので、『こういうのがウケけるんです』といわれ腑に落ちないまま通した企画もあったのですが、まず失敗しました。一方で、任天堂さんのように海外に媚びを売っていない作品もヒットしています。僕は、過去海外で失敗した経験から、日本のやり方で行こうと腹をくくりました。日本人ならではのノウハウと国民性は間違いなく通用すると思います」(鵜之澤氏)。

 さらに、「ソーシャルの波」が訪れた今は「若い人にとってはゲーム業界に入るチャンス」とも語る。

「若い世代の人たちがソーシャルゲームを立ち上げられたのは、若い時代から携帯電話があったからで、キーボードやコントローラでゲームをやってきた僕らの世代には理解できないです。なので、企画が上がってきたら若い世代に任せるしかありません。開発コストも小さくなり、任せることができる環境にもなっています。ゲーム会社というと、成熟して私のようなおじさんばかりが威張っている会社、というイメージがあるかもしれませんが、今は下の世代がおじさんたちを突き上げるチャンスですし、ぜひそういう若い人にどんどん入ってきて欲しいと思います」(鵜之澤氏)。

 そして、最後は「この1年で私たちの業界は非常なスピードで変わることができたと思います。かつて変化のスピードが早いといわれたゲーム業界でしたが、ここ数年はアーケードやコンソールの変わるスピードが落ちていました。今やSNSの会社は僕らの3倍のスピードで変化しています。そういう彼らと付き合うことで、もう一度スピード感を取り戻せたことは大きいです」(鵜之澤氏)とこの1年の手応えを語り、トークセッションは締めくくられた。


講演後に行われた品田秀雄氏とのトークセッションで、鵜之澤氏は「若い人にとってはゲーム業界に入るチャンス」と力説した。

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