ビデオゲームのだいご味は、何といっても非日常的な世界を体験あるいは体感できること。そんな夢の世界を作り出すべく、主に1980年代に登場したアクションゲームによく用いられていた演出方法のひとつに“座標間ワープ”があります。
“座標間ワープ”とは、大ざっぱに言うと画面の端から端へと瞬間的に移動できるシステムのこと。直接つながっていない空間を、まるで1本の道でつながっているかのように自由に行き来できるという、現実の世界では絶対にあり得ない驚愕のアイデアです。現在ではほとんど見かけなくなりましたが、画面あるいはマップが一切スクロールしない、いわゆる固定画面方式のアクションゲームでよく使用されていました。
このシステムを導入することによって、ゲームがより面白くなった代表例としては、1980年にナムコ(現:バンダイナムコゲームス)が発売した「パックマン」をおいて他にないでしょう。本作では、どのステージにも必ず画面中央の左右にワープトンネルがあり、主人公のパックマンがここに入ると画面の反対側へと瞬時に移動できるのようになっています。ワープトンネルをうまく利用することで、より効率よく画面内のクッキー(ドット)やフルーツターゲットを食べて得点を稼ぐことができます。
さらに、ワープトンネルには敵のモンスターが通常よりも大幅に移動スピードがダウンする効果もあるので、モンスターに捕まりそうになったときの逃げ場としても活用できるという戦略的な意味を持っているのです。けっして派手さはありませんが、実はとてつもなく素晴らしいアイデアだったんですね!
※PS版「ナムコミュージアムVol.1」を使用
(C)1995 NAMCO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED
任天堂が1983年に発売したアクションゲームの古典的名作、「マリオブラザーズ」も“座標間ワープ”を取り入れています。本作では、ステージ内のどこからでも“座標間ワープ”をすることができるので、万が一敵に画面端まで追い詰められてもすぐに逃げ場がなくなる心配がありません。さらにゲームに慣れてくると、敵の移動する場所に先回りして攻撃をしたり、2人同時プレイの場合には味方同士での衝突を避けるときにも利用できるようになります。
また、本作では制限時間内にコインを取った数に応じて高得点が入るボーナスステージが登場しますが、ここでも「座標間ワープ」をうまく利用すれば同じ場所を行ったり来たりすることがなく、効率よくコインを集めることができるのです。前述した「パックマン」と同様、ここでも戦略的な意味がきちんと用意されているというワケです。
このような“座標間ワープ”を使ってゲームの面白さが増している例としては、「バルーンファイト」「アストロロボSASA」「光神話パルテナの鏡」などが挙げられるでしょう。画面の左右にあえて壁を作らないことによって、プレイヤーはフィールドがより広々としているような印象を受け、主人公のキャラクターを動かすだけで何だかとても楽しくなってしまいますよね?
“座標間ワープ”を利用した秀逸な例としては、任天堂が1985年に発売したファミリーコンピュータ用ソフト「レッキングクルー」も忘れてはいけないところです。
本作は、敵に捕まらないようにステージ内にある壁をすべてハンマーで破壊するとクリアとなるゲームですが、途中で手順を間違えると手詰まりになってしまい、もう一度最初からやり直さないとクリアが不可能になってしまうステージがしばしば登場します。そしてここでも、“座標間ワープ”を利用しなければ絶対にクリアできない場所が意図的に用意されているので、壁を壊す爽快感に加えてパズルを解く面白さも同時に楽しめるようになっているのです。
以下のプレイ動画は3面と12面をクリアするまでの様子をまとめたものです。これをご覧になれば、いずれのステージとも「座標間ワープ」を利用して攻略する面白さを盛り込んだ、実に見事な構成になっていることがあらためてお分かりいただけることでしょう。
同様に、“座標間ワープ”を利用してパズルを解く面白さが増した例としては「ちゃっくんぽっぷ」や「ドアドア」など、やはり1980年代に発売されたゲームにおいてよく見ることができます。
(C)1985 Nintendo
固定画面方式のアクションゲームの新作が皆無となって久しい今日では、みはや死語の世界と化した感のある”座標間ワープ”。今まで全然知らなかったというそこのアナタ、シンプルながらもゲームにさらなる面白さを加えるこのアイデアをぜひ一度体験してみてはいかか?
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