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あなたにも参入可能!? サイドビジネスで始めるキャラクタービジネス 実践編大日本技研に聞く(3/6 ページ)

ワンフェスから見た版権許諾の可能性とは。そしてそれを利用する心構えとは……。アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」のドミネーターの立体化も再現してもらいました。

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版権許諾の実態

 もちろんすべてが許可されることはなく、版元によっては当日版権には許可を出さないところや、模型メーカーが先に立体化権を押さえた場合などでは、自動的に不許可になるケースもあります。これまでに当日版権のやりとりがあった版元は、その原作名とともにリストに掲載されていますので「リストに載っている原作なら、おそらく許可されるだろう」という目安はあるのですが、「原作のマンガ版で申請したら不許可だったが、アニメ版では許可が出た」とか、逆にアニメ化されたために版元の窓口が変更になって「今まで許可が出ていたのに不許可になった」など、申請してみなければ分からない部分もあります。このあたりは、経験がものをいうといいますか、長くワンフェスディーラーをやってる人に聞いてみるのが一番です。

 次に、製作したモデルが「ちゃんとキャラクターに似ているか?」「イメージを壊していないか?」「公序良俗に反していないか?」などをチェックするために、モデルの元型、模型の世界では「原型」といいますが、それを監修する行程があります。これが当日版権本申請です。

―― 公序良俗に反するというのは?

田中氏 日曜日の朝に放送している女の子向けアニメのヒロインが、裸同然の衣装で卑猥なポーズをとっていたら問題ですよね? まあ、そういったこともなく監修のOKが出たら作業を進めつつ、規定の版権料を振り込みます。版権料はガレージキットの販売価格x申請個数x版権料率で計算できます。版権料率は版元や原作によってかなり違って、0%から10%まで幅があります。でも、先ほどもいったように、だいたい5%程度が多いですね。

 価格と個数はこちらで決めることができるので、ここが思案のしどころです。安くして数を売るのか、その逆に数を絞って1つを高くする販売戦術でいくのか? 原作やキャラの人気や認知度、他ディーラーとのバッティング具合、スケールやパーツ数などの値ごろ感、等々を勘案して決めていきます。うまく当たれば、開場直後に完売札を出せますが、外すと閉会直前に値下げをしたあげく、山積みの売れ残りを持って帰ることになりますね………。

―― あれ、どうかされましたか?

田中氏 あ、すいません。ちょっと嫌な体験を思い出してしまいました(笑)。それで、原型が完成したら複製に入ります。同人のコピー誌のような感じで、複製工程も自分でできますから、イベントぎりぎりまで原型をいじってるケースが多いですね。原型制作は、凝ればとこまでも凝れるところがあってきりがないんです。組み立てれば見えない内側の部分なんだけれども、表面が荒れていたり、エッジがきれいに出ていないのが気になりはじめてちゃんとなめらかに仕上げてみたりとか。服飾デザインで見えない部分も、ちゃんと模様のある裏地にするのに似た感覚かもしれません。組み立て中に「大日本技研、今回の原型、処理が甘いんじゃないの?」なんて思われたら困るぞ、という。それで延々、パテを盛り直して削いで、盛り直して削いでという作業の繰り返しになってしまうんです。

画像 アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」に登場する「ドミネーター」を立体化中のパーツを手に、「原型製作で細かいところが気になりはじめるとエンドレスの作業になってしまう」ことを説明するガレージキットメーカー大日本技研の代表取締役、田中誠二氏

※すべての画像は大日本技研、あるいは版権元に当記事で使用するための許可を得て掲載しています。転載はご遠慮ください。


 数日前になってやっと複製作業とか、下手をしたら当日の朝まで徹夜で複製とか、そういったタイムラインを外から眺めているのは楽しいのですが、当事者は文字通り必死です。イベント当日に間に合わず「落とす」と、半年から数カ月分の努力が無駄になりますし、その上にワンダーフェスティバル実行委員会からペナルティが課せられます。ですから、会場でテーブルに突っ伏している出展者や、作品を置いただけで作品名も何もなしで呆然と座っている出展者がいても、「昨晩まで修羅場だったんだろうな」と暖かい目で見てただきたいですね。

―― ペ、ペナルティですか? どんな内容なんでしょうか?

田中氏 幸いにも私は「落とす」事態にはなっていないので、具体的には知らないんです。実は私も知りたいと思っていました。

―― なるほど、それはちょっと海洋堂さんに確認してみないといけないですね(本稿の最後に、海洋堂の小林氏からのコメントを掲載しています)。

やりがいのある商売

 複製して、展示用の完成品見本を作ったら、後はワンフェス当日に、提出サンプルを渡して、許諾を得ているという印の版権シールを受け取り、キットに貼り付けて販売開始です。当日版権のシールは、売れ残ったら剥がして返すのが原則です。そうしないと後日、オークションで販売できてしまいますので。

 ガレージキットもおもちゃ業界の一部といえます。そして、おもちゃ業界は「当たるとデカイが、たいてい外れる」という、ギャンブルに近い世界です。うっかり当ててしまうと、道を踏み外してしまうところも同じです。私も自作キットが当たっていなかったら、堅実に実家の酒屋を続けてコンビニの店長になっていたと思います。

 それから、飲食店でもない限り、お客様に直接「ありがとう」といってもらえる商売はなかなかないと思うのですが、ガレージキットの世界もその数少ない「ありがとう」と直接言ってもらえる商売です。それがいちばん実感できるのがワンフェスでもあります。

通年の版権は法人間契約

―― 技研では、通年の版権も取っているそうですが、当日版権とは手順が違いますか?

田中氏 申請の流れはほぼ同じです。ただし、予備申請が企画書の提出に代わり、監修が画像のアップロードから原型を持参して直接確認というところが違います。でも、一番大きく違うのが、申請するのは基本的に法人、つまり会社でないといけないという点です。版権許諾契約は、法人同士の取り決めとなりますから、個人で申請しようとしても余程特別な事情がない限り門前払いになるでしょう。ワンフェスでは、これを主催者の海洋堂が代わりに申請することで法人同士の契約という点をクリアしています。技研の事業内容が、個人事業主でもおかしくない規模なのに、株式会社という形態にしているのは版権契約のためなのです。

 さらに通年の版権では、最低版権保証料……ミニマムギャランティの頭文字を取ってMGと省略することが多いのですが、そのMGが設定される場合があります。MGとは「この金額以下では版権申請を受け付けません」という額で、これが設定されるのにはちゃんと理由があります。版権契約では、法務部が契約書を作成したり、原作者がいる場合は許可を取ったりする作業が必要ですから、その労力以下の金額では、企業が利益を得られないばかりか人件費などを考えると収支がマイナスになる場合もあります。その場合はそもそも申請を受けずに確実に「許可しない」ということです。また、最近のアニメでは製作委員会方式といって、複数の会社が出資して制作するケースが多く、この場合は各社に版権料が分配されますからその分、金額が上がります。以前、技研で交わした契約で、MGが40万円という高額な契約もありました。守秘義務があるので、どの作品どの製品ということはできないのですが。

 5%の版権契約だと、1つ1万円で販売するとして、1つにつき500円。100個製造するならば、合計5万円を版権料として支払います。そしてちゃんと版権契約しているということを証明するシールをもらって、製品に貼ります。このシールは製品が売れ残っても返却することはできませんから、もし売れ残ってしまったら版権料も含めて赤字になるということを意味します。売れ残ったか完売したかに関わらず版権料が戻って来ないのは、当日版権も同じですね。

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