実はゲームの進化に貢献した影の主役かも!?
今ではめっきり少なくなりましたが、昔からアーケードゲームはプレイヤーがミスをして主人公のストックがなくなるとゲームオーバーとなるルールになっていることが普通でした。
よって、お小遣いを投資するプレイヤー側は少しでも長く遊べるよう、さまざまな攻略パターンを編み出そうと必然的に考えることになります。例えば、敵の軍団を全滅させるとステージクリアとなるゲームの場合は、もうすぐクリアという状況になっても敵を全滅させずにわざと少しだけ残しておき、その間に得点アイテムを取りまくるなどして延々粘る、などといった具合です。しかし、同じ人にいつまでも遊ばれてしまっては、当然ながらゲームセンター側としては商売にならずに困ってしまいます。
そこで登場するのが“永パ防止キャラ”です。“永パ”とは、昔のゲーム好きの間ではちょくちょく使われていた“永久パターン”という言葉の略で、ルールやプログラムの盲点を突いて永久にゲームが遊べるようになる状況のことを指します。つまり“永パ防止キャラ”とは、ゲームセンタービジネスを何としでも成立させるため、少しでも粘ろうとするプレイヤーをコテンパンにやっつけるために誕生したキャラクターなのです。しかも、“永パ防止キャラ”は総じて主人公よりもはるかに強力な能力に設定されているため、プレイヤーにとってはまさに天敵ともいうべき存在でした。
一例を挙げますと、ナムコ(現:バンダイナムコゲームス)が1983年に発売したアクションゲームの「マッピー」には、ご先祖様と呼ばれる“永パ防止キャラ”が登場します。本作では、同じステージに長く居続けるとHURRY(急げ)というメッセージが表示され、敵の数が増えるようになっています。それでも得点稼ぎをしようとしつこく粘っていると、やがて2度目の警告音が鳴って画面上部のお屋敷からご先祖様が現れます。
ご先祖様は主人公よりも移動スピードがずっと速く、通常の敵には空中で触れてもミスにならないのに対し、ご先祖様だけはどこで触れても即ミスになってしまいます。しかも、本来なら敵を吹き飛ばす効果がある必殺のマイクロウェーブ(衝撃派)攻撃も一切通じないというまさにツワモノ。よって、プレイヤーは粘ろうにもやがて逃げ場を失い、あえなく捕まってしまうというワケです。
PS版「ナムコミュージアムVOL.2」を使用
(C)1995 NAMCO LTD. ALL RIGHTS RESERVED
タイトーが1986年に発売した「バブルボブル」でも、ステージをクリアせずに粘っているとハリーアップの警告が表示され、すべての敵の体が真っ赤になって怒り出し、移動スピードが大幅にアップします。さらにグズグズしていると、今度は“永パ防止キャラ”のすかるもんすたが登場します。すかるもんすたに対しても、やはりどんな攻撃を仕掛けても絶対に倒すことはできず、しかも時間の経過とともに移動速度がアップするので、プレイヤーのいかなる悪あがきも許してくれません。
余談になりますが、特定の条件を満たすと入ることのできるシークレットルームでは、すかるもんすたとは別の“永パ防止キャラ”としてらすかるが出現します。シークレットルームでは通常の敵が一切出現しないので、ここならしばらく放っておいても大丈夫かと思いきや、実はそうは問屋が卸さなかったという寸法です。それにしても、わざわざ2種類の“永パ防止キャラ”を用意するとは、開発スタッフの並々ならぬこだわりぶりがうかがえてとも面白いですよね。
※PS2版「タイトーメモリーズ上巻」を使用
(C)TAITO CORP. 1978-2005
“永パ防止キャラ”は、必ずしも1匹だけ出てくるとは限りません。ナムコが1984年に発売した「ドラゴンバスター」では、次のステージへ進む出口を発見してもクリアせずに粘っていたりすると、黄土色の不気味な姿をした“永パ防止キャラ”のケーブシャークが出現します。
ケーブシャークは主人公の剣士クロービスをしつこく追いかけ回し、もし噛みつかれるとあっという間にバイタリティ(体力)を奪い取ってしまいます。実はケーブシャーク自体は倒すことができるのですが耐久力が非常に高く、なおかつ時間が経過すると2匹、3匹と数がどんどん増えるので、まともに戦ってもとうてい勝ち目はありません。
以下の動画をご覧いただければ、ケーブシャークの凶悪なまでの強さがハッキリとお分かりになることでしょう。もう随分昔のことです、筆者はいまだに初めて噛みつかれたときの恐怖感を忘れることができません……。
※PS版「ナムコミュージアムVOL.2」を使用
(C)1995 NAMCO LTD. ALL RIGHTS RESERVED
ところが、世の中にはゲーム開発者の想定を上回る知恵者(?)がいるもので、“永パ防止”キャラの追撃を巧みにかわす方法や、絶対に捕まらない安全地帯を発見するなどして“永パ”を編み出してしまうプレイヤーがしばしば現れました。このためメーカー側は、“永パ”が発生しないプログラムを組み込んだニューバージョンのROMを後から発売するなどの対応に追われた例も少なからずありました。
やがて“永パ”が絶対に発生しないよう、制限時間が切れたら即ミスとなるようにしたり、あるいは最後の場面に出てくる敵を倒さずに粘っていると敵が自爆し、強制的にそのステージをクリアさせてしまうなど、初めから“永パ防止キャラ”に頼らないシステムを導入したタイトルが増えるようになりました。こうして時代の経過とともに“永パ防止キャラ”の出番は徐々に減り続け、その存在すらゲーム好きの間でも忘れ去られることになってしまったという次第です。
ビジネスとして成立させるためという、やむにやまれぬ事情で誕生した存在でありながら、そのゲームの世界観を一切損ねることなく作品中に巧みに組み込み、プレイヤーたちにメッセージを送り続けた“永パ防止キャラ”。ビデオゲーム史上における画期的な発明品であり、ひいてはゲームシステムの進化にも少なからず貢献したと思うのは筆者だけでしょうか?
著者プロフィール
鴫原 盛之 Morihiro Shigihara
1993年よりゲーム雑誌および攻略本などでライター活動を開始。その後、某メーカーでのグッズ・店舗開発や携帯コンテンツの営業、ゲームセンター店長などの職を経て、2004年よりフリーに。現在は各種雑誌やwebサイトでの執筆をはじめ、某アーケードゲームの開発なども手掛ける。著書は「ファミダス ファミコン裏技編」(マイクロマガジン社)、「ゲーム職人第1集 だから日本のゲームは面白い」(同)の他、共著によるゲーム攻略本・関連書籍を多数執筆。近刊は共著「デジタルゲームの教科書 知っておくべきゲーム業界最新トレンド」(ソフトバンククリエイティブ)がある。
Twitterは「@m_shigihara」です。
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