「愚直」な取り組みが生んだ、セイコーが世界に誇るプロダクト「グランドセイコー」(2/3 ページ)
「愚直」という言葉がよい意味で使われることはあまりありません。しかし、「グランドセイコー」は「愚直」に取り組んだからこそなし得た、そんなプロダクトでした。
エントリーモデルが20万円!?
―― 「グランドセイコー」が素晴らしいのは分かりましたが、エントリーモデルが20万円からという価格を聞いて、二の足を踏んでしまう人も多いのではないかと思うのですが。
土屋氏 腕時計には、価格が数千円のものもあります。しかし、そういったものを末永く使い続けるというのは難しいでしょう。それに対して、「グランドセイコー」は「人生をともに歩むパートナー」として長く御愛用いただける製品なのです。
これは「グランドセイコー」では、他メーカーでは交換を前提としているパーツでも、極力、部品を交換せずに長く使用できるよう摩耗をしにくくするなど、部品を作り込んでいるからこそです。開発の現場では、部品の素材を厳選し、製造方法を改良するなど細かなことを積み重ねています。
具体的には、素材をより強いものにしたり、パーツの製造方法を変える……例えば、昔は切削で作っていたパーツを半導体の製造技術を応用して作るようにする。それを可能としているのは、クオーツ腕時計を世界で初めて商品化したときから進化を続けてきた最新の半導体技術で、セイコーインスツルやセイコーエプソンとのノウハウ共有も大いに役立っています。
それから最近、腕時計のケースに軽くて強いカーボンやセラミックなどの素材を使用するものも増えています。でも、「グランドセイコー」で採用しているのは、ステンレスやチタンなどの金属だけですし、メッキも使っていません。なぜかといえば、時計を磨き直すことができなくなるからです。
「何十年使えるのか?」という問いに、明確にお答えするのは難しいのですが、「グランドセイコー」はおじいさんからお父さん、そしてお孫さんへなどと、受け継いで使っていただくようなことも想定して作られています。
子供のとき、お父さんの腕時計に憧れたという体験はないでしょうか? そんな時計を息子さんが成人したときに、お父さんがプレゼントしたいといった場合に、「グランドセイコー」なら外装を再研磨して細かなキズを消すことができます。
製品に「キズがつかないように」といった初期品質を高めることも大事です。しかし、「グランドセイコー」の場合は、長く御愛用いただくための「修理品質を高める」ことを優先するのが「長く使っていただく」というコンセプトに合うためです。
また、弊社では、どんなに古い腕時計でも修理依頼をいただいたらいちどお預かりして、時計職人が確認します。いきなりお断りするようなことはありません。修理部品がない場合でも、代替(だいたい)部品を探したり、できる限りの対応を考え、修理後の状態を納得していただいたうえで対応しています。
グランドセイコーは「パートナー」
―― なるほど。安い時計を一生のうちに何十本も買い換えていくのと、20万円の時計を一生使い続けていくのとどちらが良いのか? ということになれば、コストというよりも価値観の問題ということになりますね。
ところで、腕時計をしない風潮に関してはいかがですか? スマートフォンがあるから腕時計はしていないよ、という人もいると思うのですが。
土屋氏 スマートフォンに限らず、いろんなもので時刻が分かるというのは、もちろん我々も理解しています。でも、愛用いただいている方は、「朝、グランドセイコーを身に着けたとき、スイッチが入って仕事モードになるんだ」とか、「グランドセイコーを腕に巻くと、不思議と身が引き締まる気がする」とおっしゃってくださるんですね。
そういった方々は、ただ「グランドセイコー」を時刻を確認するための道具として捉えるのではなく、もっと人間の精神に近いところにあるもの、一生の「パートナー」として捉えていただいているのだと思います。
我々は時計の本質である、正確さ、見やすさ、身に着けたときの美しさ、末永く使い続けるための耐久性、それらを突き詰める、ということを愚直に繰り返しながら、「理想の時計はこうあるべき」という精神も、先達から受け継いできたと自負しています。そういったものを敏感に感じ取っていただいているのだと思うのです
オメガでもロレックスでもない独自デザイン
―― 人生の要所で、服装は変わっても、時計は同じだったということは、自身の経験でもあります。「パートナー」と感じるというのは分かる気がしますね。いま美しさという言葉が出てきましたが、スイスメーカーとは違った、オメガでもロレックスでもない、「グランドセイコー」独自のデザインとはどんなものですか?
土屋氏 「燦然(さんぜん)ときらきらと輝く時計」というのが「グランドセイコー」のデザインコンセプトの根幹にあるものです。もちろん、きらきらといっても宝石をびっしり敷き詰めた、宝飾品のような時計をデザインするということではありません。我々が目指すのはあくまでも、実用時計の最高峰です。
「グランドセイコー」だけのデザイン性ということでは、設計、製造面からいうと、針や文字盤のインデックスが多面体として立体的に構成されているところであり、仕上げの段階でいうと、外装の美しさということになります。
針をこれほど精巧な多面で立体的に構成するというのは、非常に手間がかかるうえ、長年のノウハウがないと不可能なことですし、鏡のように研磨された外装は、経験10年以上のベテラン研磨職人の手によるものです。
それから、やはり日本人の腕にあったスケール感というのも大事にしています。海外の製品の中には、単体で見て気に入っても、自分が身に着けたときに違和感を感じてしまうものがあります。「グランドセイコー」は、サイズ、デザインともに日本人がスタンダードで変わらないと思える安心感がある中でも、飽きずに古びないデザインというコンセプトを40年以上にわたって守り続けているのです。
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